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27.3.20修復腎移植訴訟 控訴理由書(2)

(続き)


第5  修復腎移植に対する原告らの期待の保護(上記③)

原判決は,修復腎移植に対する原告らの期待は法律上保護された利益であるとしながら,被告らの言動は社会通念上許容される範囲を逸脱したものではなく,違法ではないとした。しかし,被告らの言動の評価は余りにも甘きに過ぎ,正当ではない。

原判決も一部認めているように,被告らの発言内容は,以下のように,誇大であり,かつ断定的である。しかも犯罪の成立まで示唆している。医学の素人ならともかく,医師であり移植学会幹部である被告らの発言内容として,社会通念上許容できる範囲を明らかに逸脱している。

(1) 被告大島

(ア) 「移植の倫理以前に,医療として問題が大きすぎる」

(イ) 「他人に移植して使えるほど『良い状態』の腎臓を摘出していることがまず医学的におかしい」

(ウ) 「腫瘍を取り除いて移植したとしても,かなり高い確率で再発する」

(エ) 「癌の腎臓を移植するのは常識でもあり得ないし,医師として許されない」

(オ) 「癌の場合,移植を受けた患者が癌になる可能性があり,絶対にしてはいけない」

(カ) 「悪性腫瘍についてはどのような癌であっても,癌の臓器そのものを移植することは絶対禁忌であるだけでなく,癌患者からの臓器の移植も特殊なケースを除き禁忌となっている」

(キ) 「このような医療は絶対に容認できない」(甲B22)

(2) 被告高原

(ア) 「米国には生体腎移植時のルールはないが,死体腎移植では悪性腫瘍が絶対禁忌になっている」

(イ) 「市立宇和島病院で万波医師が実施した移植25件を調べた結果,生存率や,…生着率が通常の腎移植と比べて低かった。…極めて低い成績だ。癌が持ち込まれた可能性も否定できない」

(ウ) 「市立宇和島病院データなんですけれども生着率悪いですよね。…半分以上の人が4年で死んでいるんですよ!…第2の薬害肝炎・HIVにしないんです。これ私たちお願いです」

(エ) 「過去に病腎を認めた関係者が罪を問われることになる」

(3) 被告田中
臓器売買に修復腎移植が関係するかのような書簡を送って論文発表の機会を奪った。

(4) 被告寺岡

(ア) 「移植できる腎臓つまり第三者に移植できる腎臓はそもそも摘出してはなりません」

(イ) 「癌は移植しても発症しないとよく言われていますが,全くの間違いでありまして…最近のユノスの統計でも…癌が完治して5年以降に提供した場合にでも4.3%が移る可能性があると示しています」(上述したように,実際には0.043%なのに実に100倍に水増ししている)

(ウ) 「癌の患者さんに移植をする腎臓を摘出手術を行いますと,その患者さん自身の癌細胞をまき散らして癌が再発するリスクを非常に高めるわけであります。

(エ) 「5年以上完治したものをドナーとして提供した場合,それでも残念ながら4.3%の方にドナー由来の悪性腫瘍が発生するという報告がございます。…これはちょっと古い報告になりますが,癌が現存する場合,その方から移植した場合にはドナー以外[ママ]の悪性腫瘍,癌の発症率は43%と言われています。これが一般的な考え方です」

(5) 被告相川

(ア) 「50歳以上のロートルの泌尿器科医は知りませんけど40歳代から50歳代の泌尿器科の専門医であれば先程高原先生が言ったように部分切除です。全て取るなんで[ママ]今の普通の泌尿器科の経験のある先生であればやりません」

(イ) 「40~50代以下の泌尿器科専門医であれば『全て腎臓を取るのは時代遅れ』と考えている」

医学的根拠
被告らの言動には,医学的根拠がないか,あっても(被告らも自認するように)かなり古いものでしかなく,しかも,上述したように100倍に水増ししたり,44を根拠として上記術式が「絶対やってはいけない手術法」であると主張する完全な誤りもしくは悪質な誤導を行っている。

その上,被告らは,発言当時の医学的知見さえ検討していないし,その後の世界における修復腎移植の実施状況や学説の状況も無視し続けている。

被告大島は,修復腎移植について,「見たことも聞いたこともない医療」と発言している。しかし,その発言に先立つ2004年に開催された第99回全米泌尿器科学会においてオーストラリアのニコル教授が小径腎癌の移植について報告した。この学会には,日本からも泌尿器科の専門医たちが参加した上,その日本語のハイライト集(甲C27)が作成され,日本国内の医師に広く配布されている。被告大島は,このハイライト集を見たのか見ていないのか実際には不明だが,本人尋問では知らないで発言したと供述している(大島本人調書46~68項)

被告田中は,2003年に,カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)の移植外科バスッティル教授と連名で「肝移植におけるマージナル・ドナーの利用性」という総説論文(C26)を国際誌に発表している。この論文では,”マージナル(marginal)“という用語の定義が行なわれ,「marginalあるいはextendedドナーという考え方は,移植待ち患者リストの要求に答えるためのもので,初期機能不良または初期機能喪失のリスクがある場合をいう」と述べた上で,「マージナル・ドナーからの臓器は最適とはいえないが,移植待ちの間,死に直面している患者にとって生存の代替策であるので,その利用法を追及する必要がある」と書いている。実際に,このバスッティル=田中論文では,実に118編もの世界文献が引用され,①ドナー年齢の高齢者への拡張,②脂肪肝の利用,③癌患者臓器の利用,④ウイルス性肝炎のある肝臓の利用等が,具体的かつ前向きに論じられている。この総説論文は,「病気の肝臓を出来るだけ肝移植に利用しよう」という主旨のものであり,個人としての被告田中は,”病腎移植“の意義を十分に理解できていたはずである。しかし,”病気の腎臓を移植に使用すること“が現実に日本国内で報道されると,日本移植学会理事長の田中は,敢えて,これを否定する言動に出たのである(C21P42~43)

上述したように,「悪性腫瘍が移植によって伝播する」という主張は,小径腎癌の治療法として部分切除を称揚し,腎臓の全部摘出を批判する被告らの主張と矛盾しているが,被告らは,敢えて,ご都合主義の,為にする主張をしている。

上述したように,小径腎癌に関しては,最近は,小径腎癌の治療方法として,腎臓の全部摘出よりも部分切除の方が推奨されるようになってきたが,小径腎癌の部分切除の場合,癌病巣切除時の出血を止めるために,止血鉗子による腎血管(動・静脈)の一時的止血(結紮・阻血)が必要となり,これにより腎臓に「温阻血時間」が生じる。よって,小径腎癌の部分切除では,腎臓の「温阻血時間」をできるだけ短くするため,止血鉗子による腎血管(動・静脈)の一時的止血(結紮・阻血)を癌部分の切除をする直前に行う(腎血管【動・静脈】の血流を可能な限り維持する)。このことは,腎血管(動・静脈)の結紮の順序は問題とならないということを示すし,小径腎癌の治療方法として部分切除が相当であると主張しながら,早い段階で腎血管(動・静脈)を結紮・切離しなければならないと主張する被告らの主張は,為にする明らかな矛盾主張である。

上述したように,尿管癌の場合の腎臓の保存的治療を行うに当たっては,尿管にできた癌を切除する必要があるので,必ず,尿管を途中で切断することになる。したがって,乙44は,尿管部分を途中で切って摘出するという手術法を価値あるものとして認めているものであるから,被告らが乙44を根拠として上記術式が「絶対やってはいけない手術法」である主張するのは完全な誤り,もしくは悪質な誤導である。被告らは,敢えてこのように完全に誤った主張をし,悪質な誘導をしているのである。

10 上述したように,血管処理の時期の相違により癌転移の危険が高まるという被告らの主張には文献上の根拠がないことが明らかであるし,小規模な小径腎癌の部分切除が「血流による癌細胞の転移」の危険は無視できるものとして行われている以上,被告らの主張が為にするものでしかないことは明白である。

11 原判決は,「高原解析」の問題点を指摘しながら,それを考慮しても違法行為であるということは出来ないと判示したが,看過できない。原判決が極めて重大な「高原解析」の問題を指摘だけに留めた責任は重い。
以下,詳述する。

(1) 修復腎移植の成績は悪くない

(ア) 修復腎移植の成績は一般の死体腎移植と比較して遜色がないが,被告らは,修復腎移植の長期成績が非常に悪いと主張する。被告の主張は,概略以下のとおりである(答弁書8P)。

a 悪性疾患(癌疾患)で摘出された腎臓の5年生存率は48.5%であり,同時期の生体腎移植の5年生存率90.1%と比較してきわめて低い。

b 悪性疾患で摘出された腎臓の5年生着率は15.3%であり,同時期の生体腎移植の5年生着率83.4%と比較してきわめて低い。

(イ) 被告らが主張する修復腎移植の上記数値は,被告高原が発表した研究報告「国外における病腎移植の研究に関する調査」(乙2号証),同じく論文「腎疾患のある非血縁生体ドナーから移植された腎移植患者の低い生存率」(乙47号証の1,2)と共通するものなので,被告らの上記主張が被告高原の解析(以下単に「高原解析」と呼ぶ)を根拠としているものであることは明らかである。被告高原自身も,平成19年3月30日の厚労省における記者発表,及び同20年3月19日の「病腎移植を考える超党派の会」における説明(被告高原の本件加害行為の一部)において,「高原解析」の結果に基づいて発表・説明を行っている(「超党派の会においては被告相川も,「高原解析」に基づいた発言をしている)。

(2) 修復腎移植の成績の解析の本来のありかた

(ア) 医学統計において,異なった患者グループの成績を比較するには,比較する因子以外の患者属性をできるだけ均一化しなければならない(とりわけ患者の全身状態は重要な予後因子である)。異なったリソースの腎移植の成績を相互比較する場合には,生体腎移植・死体腎移植・修復腎移植による区分,あるいは病名による区分だけでなく,ドナー及びレシピエントの年齢,過去の移植歴(いずれも患者の全身状態を反映する指標となる事項である)などを比較するグループ間でできるだけ均一化しなければ,科学的に意味のある比較にはならない。

(イ) 修復腎移植の(長期成績を他種の腎移植と比較する場合の)特性として,以下の各事項が挙げられる。

a 修復腎移植のデータ数が少ない。
瀬戸内グループが行った修復腎移植は総数
42
例であり,一般の生体・死体腎移植と比較するには症例数が少ない(症例数が少なければ少ないほど,成績に関するデータとしての信頼性が乏しくなる)という構造的な問題点がある。

b ドナーの年齢

瀬戸内グループの行った修復腎移植のドナーの年齢は一般の生体・死体腎移植よりも高い。市立宇和島病院の25例では,ドナー22(ネフローゼ患者の両側腎摘出が3人ある)11(50)70歳以上の高齢者である。高齢者の臓器は老化が進んでいることが多いので,こうした臓器の移植の成績は一般に若年者の臓器と比較して悪くなる。他方,日本移植学会のドナー選択基準では65歳以上の高齢者は「好ましくない」とされているので,こうした高齢者の臓器が生体腎移植されることはほとんどない。

c レシピエントの移植回数

瀬戸内グループの行った修復腎移植のレシピエントの中には,移植を受けるのが「複数回目」という者が多い。市立宇和島病院の25例中では,初回7例,2回目12例,3回目4例,4回目2例である。複数回目のレシピエントはいずれも親族からもらった腎臓が機能しなくなり,2回目以後に修復腎移植を受けたものである。こうしたレシピエントは修復腎移植時には腎不全症状が悪化していることが多く,初回移植患者(特に生体腎移植患者)と比較して全身状態が一般に悪い。他方,移植学会のデータの圧倒的多数は(腎移植を複数回受けられる機会に恵まれる患者は日本にはほとんどいないので),初回腎移植のものである。従って,この点で一般の生体腎・死体腎と単純な比較が可能なのは,25例中,修復腎移植が初回移植であった7例のみである。

(ウ) 従って,修復腎移植の長期成績を一般の生体・死体腎移植と比較する場合には,上記の諸点に留意して,実質的・科学的に意味のある比較結果が得られるようにしなければならない。

そのためには,

a データ数を極力増やすことが強く求められる。

b 患者の全身状態による偏差の影響を極力除去するため,ドナーの年齢やレシピエントの移植回数を要素として加えた多変量解析を行うことが望ましい。

c 比較は死体腎移植(献腎移植)との間で行うべきものである。(修復腎移植は多くの場合,腎癌が好発する60歳以上の比較的高齢者の小径腎癌を用いるので,健常者をドナーとする生体腎移植とは単純に比較するべきではない。死体腎移植との比較でなければ科学的意義がない。

(エ) これらを行わずに,数的に限定されたデータを一般の腎移植(とりわけ生体腎移植)と単純に比較するのは非科学的であり,恣意的な比較という非難を免れない。

(3) 高原解析の問題点

高原解析には,以下のとおり,多数の構造的な,あるいは説明不能な問題点がある。

(ア) 解析の基本姿勢にかかる問題点

a データの量が少ないのに,市立宇和島病院の25例のみを用い,呉共済病院・宇和島徳洲会病院の17例を加えないままで解析したこと

b 前項で述べたとおり,母集団の症例数が少なければ少ないほど,成績に関するデータとしての信頼性は乏しくなる。解析の信頼性を高めるには,呉共済病院と宇和島徳洲会病院の症例を加えて「修復腎移植全42例」のデータを使用すべきであった。被告高原はこれに反し,市立宇和島病院の25例のみを用いて解析を行っている。(呉共済病院・宇和島徳洲会病院に対しては,データ提供の依頼が全くなされていない。)

c 多変量解析を行うことなく,単純に生体腎・死体腎移植との比較を行ったこと

前項で述べたとおり,ドナーの年齢は移植される腎臓の適性,レシピエントの移植回数はレシピエントの全身状態という,いずれも移植成績に大きく影響する患者属性であるのに,被告高原はこれを無視して,機械的・単純に死体腎・生体腎(研究報告・論文においては生体腎のみ)のデータと比較する解析を行っている。

d 研究報告・論文において生体腎移植との比較のみを行ったこと

e 使用したデータの質に問題があること

市立宇和島病院においては,25例のうち過半のカルテが廃棄されており,これらについてはデータを人の記憶に頼らねばならなかった。しかも,被告高原が「解析に使用したデータの全部」と称する甲C34号証は,カルテや記憶などを編集した二次データであって,しかも(被告らの主張によれば)当該二次データの作成者や作成経緯は全く不明であった。
従って,高原解析に使用されたデータは質的に非常に劣るものであった。

f 現実に,解析に使用したとされているデータ(甲C34号証)には,以下のとおり,多数の誤謬がある。
現実には死亡していないレシピエントを死亡扱いしている(甲C34号証の⑬の患者。甲C31号証の一覧表の31の患者に該当する)。

現実には死亡している患者を生存扱いしている(甲C34号証の⑭の患者。甲C31号証の一覧表の21の患者に該当する。⑭の患者は④の患者と同一人なので,どちらか片方だけが死亡していることはありえない)。
現実には(国外移転のため)追跡不能の患者を生存扱いしている(甲C34号証の㉒の患者。甲C31号証の一覧表の14の患者に該当する。㉒の患者は㉓の患者と同一人なので,どちらか片方だけが追跡不能であることはありえない)。
死亡患者の死亡日の大半が誤っている(②,④,⑦,⑯,㉔)。
平成12年に手術した患者の移植腎機能廃絶日が平成1年とされている(⑭)。(なお,甲C31C34B8の各証に記載されたレシピエントは,書証により配列が異なるため,やや照合しにくい。そこで便宜のため,各書証に記載された手術日,移植腎の病名,及びレシピエントの性別等の比較の結果判明する対照状況の表を,原告準備書面(27)末尾に添付した)

(イ) C34号証と,それを用いた解析結果として発表された甲B8号証の別表に,重大な齟齬がある。

a C34号証で生存として扱っているレシピエントを死亡扱いにしている(甲C34号証の⑭の患者)。なお上記取扱いは客観的には正しい。

b C34号証で生存として扱っているレシピエントを生死不明扱いにし(甲C34号証の③及び㉒の患者),生死不明扱いにしている患者を生存扱いにしている(甲C34号証の㉓の患者)。この取扱いは,㉒の患者については正しいが,③及び㉓の患者に関しては誤りである。前述のとおり㉒と㉓のレシピエントは同一人で③は別人なのであるが,被告高原はおそらく「③と㉒のレシピエントが同一人で㉓が別人」と誤認したのであろう。

(ウ) このような齟齬が生じた原因は,被告らが高原解析の経緯を全く明らかにしないので推測するほかないが,被告高原が甲C34号証のデータの誤りに気づいて自らデータを収集補正したのか,あるいは解析中の混乱により齟齬が生じたのかのいずれかであろう(前者であれば「高原解析に使用したデータは甲C34号証である」との被告らの主張は虚偽である)。いずれにしても,甲B8号証の内容にも上記(イ)aのような重大な誤謬がある以上,解析がずさんなものであったことは疑う余地がない。

(エ) 被告高原は,このように質的に劣る市立宇和島病院のデータのみを使用し,カルテが完全に保存されていた呉共済病院・宇和島徳洲会病院のデータを使用しないで,解析を行ったものである。

(オ) 解析手法に不備があること

被告高原は,研究報告においても論文においても,具体的な解析方法について全く説明しないので,解析方法の具体的な欠陥を指摘することが難しい。しかしながら,高原解析が結論とした数値には,現実と異なる,あるいは明らかに不合理なものがあるので,その「解析手法」にも問題があることは明らかである。

a 現実と異なる死亡者数

被告高原は,研究報告及び論文において,「悪性疾患で摘出され移植された11人の中で,7人が死亡しており,その7人の内5人は移植腎が機能したまま死亡している。」と述べている(乙2号証9P,乙第47号証の2の2P)。
ところが,高原解析時には,市立宇和島病院で癌の修復腎移植を受けた11人中,生存が公式に確認できるもの4名,国により公式な追跡が不能となったもの1名,死亡していたもの6名であった。(甲C34号証とB8号証で「追跡不能」者が異なるが(C34号証では㉓,B8号証では(C34の③に相当する)13行目記載者),数に関しては一致している。)
被告高原の「7人死亡」という前記記述が,現実の死亡者数なのか,それとも何らかの「解析」を経た数値なのか不明であるが,前者であれば明白な虚偽であり,後者であればその「解析手法」は正当なものではありえない。

b 明らかに異常な「5年生存率」

被告高原は,「悪性疾患群」の5年生存率を,平成19年3月発表では46.7%,研究報告及び論文では48.5%としている。
ところが,市立宇和島病院で癌の修復腎移植を受けた11人中,5人(甲C34号証の③,⑩,⑫,⑯,㉑。うち⑯は移植後6年10か月で死亡)が移植後5年経過時に確実に生存し,1人(同㉓)が公的追跡不能,5人(②,④,⑮,⑰,㉔)が死亡していた。
カプラン・マイヤー法(被告高原は論文で同法を用いたと記述している)では,追跡不能となった者は分母・分子から除外しなければならない。この場合の「5年生存率」がなぜ46.7%ないし48.5となるのか,被告高原が何の説明もしないので不明であるが,少なくともその「解析手法」は正当なものとは考えられない。

c 1人数回実施の場合のカウント方法,追跡不能例の取扱い

市立宇和島病院における修復腎移植のレシピエントのうち,2名は各2回の移植を受けている(甲C34号証の③と⑫,㉒と㉓がそれぞれ同一人である)。そのため,症例数は25例であるが,レシピエント数は23人である。また前記のとおり,カプラン・マイヤー法では追跡不能者は分母・分子から除外する。ところが被告高原は,論文において前記のとおり悪性疾患群の死亡者を7人と記述し,また平成20年に日本移植学会の学会誌「移植」に発表した調査報告書「市立宇和島病院における病腎移植の予後検討」において「25人の病腎移植患者は,2006年3月時点で,14人が生存,9人が死亡,2人が海外のため不明であった」と記述している。
このため,高原解析においても,①症例数と患者数の混同,②追跡不能者と死亡者との混同が,故意または未熟により行われていることが,強く疑われる。

(4) 問題点の性格と方向性

(ア) 前項記載の問題点は,全て専門的知識がなくても一見して明らかな不備ないし誤りである上,修復腎移植の成績を低く判定する方向に作用する性格のものである。とりわけ,①「瀬戸内グループ」の全42例中,市立宇和島病院の25件だけを殊更に取り上げて,生存生着率が顕著に高い呉共済病院・宇和島徳洲会病院27(10年生着率85.6)を解析対象から除外したこと,②修復腎移植のドナーが高齢であること(70歳以上のドナーは,修復腎では42.9%であるのに対し,死体腎では2.1%,生体腎では4.3%)を無視して単純な比較のみを行ったこと,の2点により,高原解析による修復腎移植の成績が低くなることは,解析前にすでに決定づけられている。

(イ) 各問題点のこうした性格及び方向性に鑑みれば,こうした問題点が解析者の恣意によらずに発生しているとは常識上考えられないので,被告高原の解析はその全体が非常に作為的・恣意的なものであることは明らかである。

(5) 解析及びその結果についての高原の態度

(ア) 解析やデータについての説明をしないこと
高原解析においては,解析の内容そのものとは別に,①解析に用いた手法やデータの説明がなされておらず,かつ,②ⅰエにおいて指摘したデータの性格についても説明がなされていない。(より正確に言えば,論文においては「データの性格」についての言及がわずかになされているが,後述のとおり,その言及は虚偽である。)

しかも被告高原は,本件訴訟においても,これらの説明をほとんど行わない。

(イ) 論文における虚偽の記述

被告高原は論文において,「『病腎移植』42例はたった1人の医師が行ったもので,2病院ではカルテが破棄されていたので,記録保持が完全だった1病院の症例25例のみを病院の依頼を受けて解析した」と述べている。

(ウ) しかし,事実はこれと全く逆である。

即ち,

a 市立宇和島病院においては,前記のとおり,25例のうち過半のカルテが廃棄されており,これらについてはデータを人の記憶に頼らねばならなかった。しかも,被告高原が「解析に使用したデータの全部」と称する甲C34号証は,カルテや記憶などを編集した二次データであって,しかも(被告らの主張によれば)当該二次データの作成者や作成経緯は全く不明であった。

b 被告高原が「カルテが破棄されていた」とする呉共済病院及び宇和島徳洲会病院では,逆に,全てのカルテが完全に保存されていた。

(エ) 被告高原がこのような事実を知らない訳はないので,上記論文の記述は完全な虚偽である。

(オ) 以上のような被告高原自身の「高原解析」に関する行為のあり方からも,「高原解析」が恣意的に行われた信頼できないものであることが裏付けられると言える。

(6) 修復腎移植の成績を故意に悪いものとした可能性の高い「高原解析」の問題を看過することは出来ないのである。

12 被告大島以外は本人尋問にも応じず,被告らの言動の意図根拠等が全く立証されていない(被告大島は,本人尋問において,根拠なく本件言動に及んだことを露呈した)。にもかかわらず,社会通念上許容される範囲を逸脱しないとした原判決は明らかに審理不尽である。特に,上述した「高原解析」の重大な問題点について,被告高原の尋問は必須である。

第6  被告らの言動による本件ガイドライン改訂(上記④)

原判決は,外口崇,原口真の証人申請を採用しないで,しかも,厚生科学審議会疾病対策部会臓器移植委員会に触れることもしないで,被告らの言動と本件ガイドラインの改訂との因果関係を否定したが,明らかに審理不尽であり,理由不備である。原告らは到底納得できない。

被告らが幹部である日本移植学会が厚生労働省に働きかけて修復腎移植を禁ずるようガイドラインを改訂させ,もって腎不全患者らの修復腎移植を受ける権利を侵害したことも,以下の事実から明らかである。

厚労省と学会の協力体制

(1) 修復腎移植問題の発覚により,日本移植学会と厚生労働省は,ともに日本の移植医療への不信を招くのではないかという危機感を頂いていた。当時は移植医療の推進を目的とした臓器移植法改正案が国会で成立するかどうかという微妙な時期であり,両者は,移植医療に対するマイナスイメージを一掃したいという思いを共通にしていた(被告大島本人調書121122項)。

(2) 両者の協議等

(ア) 被告大島と外口健康局長の協議
修復腎移植問題が発覚した直後の平成1811月初め,日本移植学会の副理事長の地位にあった被告大島は,厚生労働省健康局長の外口崇に対し,「このような医療は絶対に容認できない。学会が責任を持って事実関係の解明に当たりたい」と述べ,外口からも「厚労省としても重大な関心を持っています。最大限,学会を支えます。」という趣旨の返答を受けた(甲B22,被告大島本人調書118119項)。以後,日本移植学会と厚労省は,二人三脚で「ガイドライン改正」に向けての歩を進めるのである。

(イ) 24回臓器移植委員会
平成181127日,第24回厚生科学審議会疾病対策部会臓器移植委員会が開催された。同会に委員として出席した被告大島が日本移植学会倫理指針等について説明を行ったことを受け,厚生労働省の原口真臓器移植対策室長は,学会の倫理指針のほかにもガイドラインを作って対応していきたい旨の発言をした。そして,ガイドライン改正に向けて対策を講じるべき事項として掲記した論点整理表(その論点ごとに日本移植学会倫理指針等が対照されている)を委員に配布し,その論点整理を踏まえてガイドラインの改訂に持って行きたいという考えを明らかにした(甲B405P5,1922))。
続いて,矢野補佐より,移植が行われた宇和島徳洲会病院,市立宇和島病院,呉共済病院では第三者の専門家を含む調査委員会が設置されることになっていること,厚生労働省と関係学会が参画する調査班を設置して調査を進めることになっていることが報告された。そして,これを受けた被告大島は,日本移植学会が各病院の調査委員会及び国と共同の調査委員会に全面的に協力し,調査がある程度進んだ時点で正式なコメントをする決定をしている旨を報告した(甲B40‐5(P2425))。

(ウ) 厚労省調査における移植学会との協力関係
厚生労働省は,修復腎移植の是非をめぐる調査の中で,表面上は摘出のみに関わった5病院の調査班の事務局を務めたに過ぎないが,同省臓器移植対策室の担当者を関連病院すべての調査委員会にオブザーバーとして参加させ,日本移植学会による調査全体の事務局を担当した(甲B22)。

(エ) 25回臓器移植委員会
平成19年4月23日,第25回厚生科学審議会疾病対策部会臓器移植委員会が開催された。冒頭,丹藤主査から調査委員会や調査班の調査状況についての報告があり(甲B41-7),次いで,同年3月31日に発表された日本移植学会等4学会による「病腎移植に関する学会声明」や,その前日に日本移植学会が公表した「市立宇和島病院で実施された病腎移植における生存率・生着率について」の報告があった(甲B414P2~8),甲B41-8,甲B41-12 )。その上で,原口室長は,上記「病腎移植に関する学会声明」及び「臓器の移植に関する法律の運用に関する指針に規定する事項(案)等について」について,詳細な説明を行った(甲B41-4 P11~20),甲B41-9)。かかる過程を経て,本件「ガイドライン改正」が実行されることとなった。

(3) 「ガイドライン改正」に至る行政手続

(ア) パブリックコメントの実施
「臓器の移植に関する法律の運用に関する指針」の一部改正に関して,平成19年5月11日から6月11日まで,パブリックコメント手続が実施された。
厚生労働省健康局臓器移植対策室は,寄せられた意見に対し,日本移植学会の「生体腎移植の提供に関する補遺」等に基づいて回答しているだけでなく,「4学会声明のみに基づいて病腎移植の禁止を規定すべきではないのではないか」といった意見に対して回答を行ったが,その内容は,上記学会声明を全面的にコピーしたものである(甲B42P58))。

(イ) 「ガイドライン改正」の実施
平成19年7月12日,「ガイドライン改正」が実施された。またこれを追って,平成20年3月5日,厚生労働大臣の告示とそれに伴う同省課長の通達が実施された(詳細は原告ら準備書面(24)記載のとおり)。

(ウ) 改訂内容
改訂内容は,上記「臓器の移植に関する法律の運用に関する指針に規定する事項(案)について」(甲B41-9 )とほぼ同じである。また,「病腎移植は,現時点では医学的に妥当性がない」とされているが,その表現は,日本移植学会ら4学会の声明と共通している。

(エ) 通達等

a しかも,「ガイドライン改正」の実質的に重要な一部をなす課長通達等においては,厚生労働省が4学会と共同して「ガイドライン改正」を実施する姿勢がきわめて顕著である。

b ①保険局医療課長平成20年3月5日通達「診療報酬の算定方法の制定等に伴う実施上の留意事項について」は,「生体腎を移植する場合においては,日本移植学会が作成した『生体腎移植ガイドライン』を遵守している場合に限り算定する」と定め,

c ②同課長同日通達「特掲診療料の施設基準等及びその届出に関する手続きの取扱いについて」においては,「生体腎移植の実施に当たり,臓器の移植に関する法律の運用に関する指針(ガイドライン),世界保健機関「ヒト臓器移植に関する指針」,国際移植学会倫理指針並びに日本移植学会倫理指針及び日本移植学会「生体腎移植ガイドライン」を原則として遵守していること。」臓器の移植に関する法律の運用に関する指針(ガイドライン),世界保健機関「ヒト臓器移植に関する指針」,国際移植学会倫理指針並びに日本移植学会倫理指針及び日本移植学会「生体腎移植ガイドライン」を遵守する旨の文書(様式任意)を添付すること。」と定めている。

d これらの通達は,診療報酬の算定という国と医療機関との権利義務関係の成否を左右するものであるところ,厚生労働省は,その権利関係の成否を法人格もない私団体であるところの日本移植学会のガイドラインに係らせているのである。わが国の法制度上,このような実例を,当代理人らは寡聞にして知らない。

e さらに驚くべきことは,上記各課長通達が行われたのは平成20年3月5日であるのに,その各通達が内容的に依拠する日本移植学会の「生体腎移植ガイドライン」は平成20年5月18日理事会決定により制定された,ということである。すなわち,上記各課長通達は,いまだ存在しない,したがって正式には内容も判明しないはずの<学会ガイドライン>に適合することを,診療報酬の請求要件として定めたことになる。

f 「ガイドライン改正」が,表面上は純然たる行政の行為としての体裁をとってはいても,その実は厚生労働省と移植学会幹部ら(すなわち被告ら)とが共同して行ったのであることは,この一事のみをもっても明らかである。

(4) 評価

(ア) このように,日本移植学会は,「移植医療への不信感除去」という半ば利己的動機から,『修復腎移植は絶対に認められない』という結論から出発して,厚生労働省に対してこれを禁止させようとした。①まず被告大島が外口局長との「ボス交渉」によってその足場を築き,②宇和島徳洲会病院等に対する調査への協力や,臓器移植委員会での意見表明を通じて,外口をはじめとする厚生労働省の担当者に自分たちの見解を吹き込んで同調させ,③最終的に厚生労働省に,被告らの要求するままの内容の(しかも要所で<学会ガイドライン>を要件として取り入れた)「ガイドライン改正」を行わせた。厚生労働省は結局,<学会の言い分をそっくり呑み込んで>本件「ガイドライン改正」を実行し,一般医療としての修復腎移植を禁止したのである。

(イ) 日本移植学会は,医学的知見を有する専門家集団であり,こと移植医療についての医学的知見に関する限り,厚生労働省に対する影響力は絶大である。その日本移植学会の幹部である被告らの見解・発言等が,厚生労働省をして安易にその内容を盲信させて,修復腎移植を禁止せしめたのであるから,「ガイドライン改正」を通じて腎不全患者らの修復腎移植を受ける権利を侵害していることは明らかであり,被告らの行為と原告らの被った損害との間には十分に相当因果関係が認められる。

第7  結語
よって,必要な証拠調等を行った上,速やかに原判決を破棄し,控訴人らの請求を認容すべきである。




by shufukujin-report | 2015-03-06 13:00 | 27.3.20控訴審 控訴理由書(2)
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