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26.7.1修復腎訴訟最終弁論(3)

(続き)


Ⅲ 被告らの行為の違法性

被告らは,いずれも移植医療の専門家であるばかりか,被告大島は日本移植学会の副理事長,被告高原は副理事長,被告田中は理事長,被告寺岡は理事長,被告相川は理事の役職にあったものである。そのような専門家であり日本移植学会の役職にあった被告らが,「修復腎移植という医療技術」について,事実に反する悪宣伝を行ったばかりか,国に対して専門家集団としての影響力を行使して厚労省ガイドラインを改定させて,修復腎移植が医療行為として行われることを禁止させ,慢性腎不全患者らが修復腎移植を選択する,患者の治療を受ける権利を侵害したのであるから,被告らの行為が違法であることは明白である。被告らの内,唯一本人尋問に応じた被告大島の尋問によって,被告大島らが,上記悪宣伝等を行うにあたり,当然必要な事例調査,論文検索等を一切行っていない事実も白日の下に晒された(大島本人調書46107)

被告らのいう「患者の安全を考えた適正な意見表明」(答弁書10頁)等でないことは多言を要しない。



Ⅳ 修復腎移植の現状と権利侵害

第1 「厚労省ガイドラインの改正」による制約

1 「厚労省ガイドライン改正」による修復腎移植禁止の構造

原告ら準備書面24において詳論したとおり、「厚労省ガイドライン改正」(正確には、平成19年7月12日付ガイドライン改正と、それに伴う同日付厚生労働省健康局長通知、平成20年3月5日付厚生労働大臣告示「診療報酬の算定方法を定める件」・同「特掲診療料の施設基準等」、同日付厚生労働省保険局医療課長通達「診療報酬の算定方法の制定等に伴う実施上の留意事項について」・同「特掲診療料の施設基準等及びその届出に関する手続きの取扱いについて」の総体)により、

ア 臓器移植法の「解釈」として、修復腎移植を一般の医療行為として行うことが禁止され、

イ 修復腎移植手術については健康保険等の療養の給付をしないものとされ、

ウ 修復腎移植を行っている医療機関については、通常の生体腎移植についても健康保険等の療養の給付をしないものとされた。

この一連の措置により、日本全国の医師・医療機関は、修復腎移植を医療行為として行うこと、及びこれについて健康保険の診療報の請求をすることを禁じられた。このためガイドライン「改正」以後わが国においては、腎不全患者が修復腎移植を受けること、及びこれについて健康保険の療養の給付を受けることが不可能となっている。

2 修復腎移植を受ける機会の剥奪

腎不全患者は、ガイドライン「改正」とそれに伴う上記の一連の措置により、現実の法的効果として、修復腎移植を受ける機会を奪われている。

ⅰ 臨床研究を実施できる医療機関は極度に限定されるうえ、実施できる場合にも件数が著しく制限される。従って、「臨床研究」として施行されうる修復腎移植の年間件数は微々たるものであり、臨床研究がおこなわれているだけでは腎不全患者にとって「治療を受ける機会が与えられている」とは言えない。

ⅱ 「ガイドライン改正」により、修復腎移植は健康保険の適用を受けられなくなっている。健康保険の適用がない腎移植医療はきわめて高価なので、腎不全患者にとって実質的に「治療を受ける機会が与えられている」とは言えない。

ⅲ 臨床研究によらないで修復腎移植を行おうとする医療機関は、通常の生体腎移植についても健康保険の適用を受けられなくなる。医療機関が通常の生体腎移植を行わず修復腎移植のみを行うことは現実的にありえないので、この運用下では現実問題としてどのような医療機関も、臨床研究によらずに修復腎移植を行わない。この点からも患者にとっては、臨床研究によらないで修復腎移植を受けることが不可能となっている。

従って腎不全患者は「ガイドライン改正」により、修復腎移植を受けることを実質的にも法的にも制限されている状態にある。

第2 臨床研究と実施状況

1 臨床研究実施に至るまでの経緯

平成21年1月厚生労働省が臨床研究の対象疾患を限定しない旨の通達を出したことにより,修復腎移植に利用できる摘出腎が大幅に増える見込みとなった。これを受けて,徳洲会グループが臨床研究の実施に名乗りをあげ,修復腎移植の手順等を定めた臨床研究計画書の作成,外部の専門家を交えた共同倫理委員会の承認,レシピエント選定の判定委員会の設置等を経て,ようやく臨床研究が実施される運びとなった。

 臨床研究の実施状況

徳洲会の臨床研究計画では,移植病院は東京西徳洲会病院と宇和島徳洲会病院,ドナー提供病院は複数の徳洲会病院とそれ以外の2病院の協力を予定し,第三者間の修復腎移植については対象疾患を小径腎癌に限定すること,親族間の移植については小径腎癌に限定せず,尿管狭窄や尿管結石,良性腫瘍等の幅広い疾患を対象とすること,また,第三者間・親族間の移植につき5年以内に各5例(計10例)を実施することとされ,平成211230日以降,現在に至るまで,計14例の臨床研究が行われた。後掲②の親族間移植の事例を除き,術後の経過はいずれも良好である。

 平成211230日 

      第三者間移植の1例目。50代男性の小径腎腫瘍を取り除き,IgA腎症で人工透析中の40代男性に移植。

 平成22年3月3日 

      親族間移植の1例目。50代の夫婦。妻の小径腎腫瘍は直径2センチ未満であったが,重要な血管や尿管が集中する腎門部付近にあり,部分切除では出血や尿漏れを引き起こすおそれがあったことから全摘を実施。夫は,慢性糸球体腎炎による腎不全で人工透析中であった。移植は成功し,腎機能も安定し回復に向かっていたが,夫には既往の不整脈があり,同年5月16日,急性心停止により死亡した。遺族の希望により病理解剖がなされなかったため,移植と死亡の因果関係は正確には不明であるが,これを受けて,親族間の臨床研究は一時中断することとなった(第三者間の移植は計画どおりに実施)。

 同年4月6日

      第三者間移植の2例目。50代男性の小径腎腫瘍を取り除き,慢性糸球体腎炎による腎不全で人工透析中の50代女性に移植。

 同年4月27

      第三者間移植の3例目。70代男性の小径腎腫瘍を取り除き,多発性嚢胞腎による腎不全の60代女性に移植。

 同年7月24

      第三者間移植の4例目。60代男性の小径腎腫瘍を取り除き,糖尿性腎症による腎不全で人工透析中の60代女性に移植。

 同年8月24

      第三者間移植の5例目。60代男性の小径腎腫瘍を取り除き,慢性糸球体腎炎による腎不全を患う50代女性に移植。

 平成23年1月12

      第三者間移植の6例目。70代男性の小径腎腫瘍を取り除き、急速進行性糸球体腎炎による腎不全の40代男性に移植。

 同年1月30

第三者間移植の7例目。70代女性の小径腎腫瘍を取り除き,慢性糸球体腎炎による腎不全で人工透析中の50代女性に移植。

 同年6月1日

      第三者間移植の8例目。60代女性の小径腎腫瘍を取り除き、多発性嚢胞腎による腎不全の60代女性に移植。

 同年9月14

第三者間移植の9例目。70代男性の小径腎腫瘍を取り除き,慢性糸球体腎炎による腎不全の50代女性に移植。

 平成24年2月13

      第三者間移植の10例目。50代女性の小径腎癌を取り除き,慢性糸球体腎炎による腎不全で人工透析中の50代女性に移植。

 同年8月8日

      親族間移植の2例目。70代母親の小径腎腫瘍を取り除き、多発性嚢胞腎の40代娘に移植。

 同年8月10

      第三者間移植の11例目。50代男性の小径腎腫瘍を取り除き、糖尿性腎症による腎不全の60代女性に移植。

 平成25年3月29

      第三者間移植の12例目。70代男性の小径腎癌を取り除き,糖尿性腎症による腎不全の50代男性に移植。 

第3 高度先進医療申請と現状

 第三者間移植の5例目が終了した後の平成231031日,医療法人沖縄徳洲会は,厚生労働省に対して,修復腎移植を先進医療として承認するよう申請した(甲B33)。当初の計画では,1年間の経過観察を終えて申請する予定だったが,修復腎移植を希望する患者が手術を受けやすくなる環境を早期に整えるため,申請時期を前倒ししたものであった。この申請では,第三者間の5例目までの症例が報告された(なお,申請書類の一部に不備があるとして平成24年4月16日に徳洲会に一旦返送され,同年6月20日に改めて申請を行った。)。

 先進医療の適用申請は,厚生労働省の先進医療専門家会議において審議されるが,この会議に先立ち,日本移植学会など5学会は,同年2月16日,厚生労働大臣宛に,修復腎移植は現時点では先進医療として不適切とする旨の「小径腎癌患者をドナーとする病腎移植の先進医療適応に関する要望書」を提出した(甲B34)。これに対し,徳洲会は,同年6月20日,上記5学会の要望書に記載されている内容はいずれも事実とは異なる旨の「五学会要望書に対する意見書」を提出し(甲B37),反論を展開したが,さらに上記5学会は,同年8月8日,厚生労働大臣宛に「『五学会要望書に対する意見書』に対する声明文」を提出し,徳洲会の上記意見書には先進医療審査に誤解を与える重大な問題点があると発表した。そして,同日,被告高原は記者会見を開き,その席上で「我々五学会の声明に反し,厚生労働省が先進医療を認めた場合,将来,不利益を被ったドナー及びその家族が訴えた場合を想定しておくべき。薬害肝炎集団訴訟の二の舞になることは避けるべき。この種の医療を先進医療として日本国が認めるのであれば,それは世界で初めてであり,世界に日本が生体腎移植の原則を無視して行っていることを提示し,取り返しがつかない失態を演じることになる」と述べた。

 同年8月23日,厚生労働省の先進医療専門家会議が行われたが,この会議は,上記5学会の意見が色濃く反映されたものとなり,「部分切除ではなく腎臓のすべてを摘出すればより大きな不利益をもたらすおそれがある」,「移植のための摘出方法では,癌を広げる危険性が高まる」,「どう説明して提供の同意を得たのか分からない」,「がんを発症する危険性などを評価するには長期的な追跡調査が必要」,「同じ病院グループ内の患者を優先しているなど選定の公平性に疑問がある」などの異論が相次ぎ,その結果,先進医療としての修復腎移植の申請は認められなかった。

その後,徳洲会グループは,さらに詳細なデータを整え,再申請に向けての準備を進めているようであるが,現在のところ再申請は行われていない。

第4 臨床研究・高度先進医療のみでは不十分であること

修復腎移植は,本件ガイドラインの改正によって一般医療として禁じられているため,臨床研究という枠組みの中で行わざるを得ないが,臨床研究を実施している医療機関は徳洲会グループのみであり,しかも,実施例はここ5年でわずか14件と極端に数が少ない。加えて,臨床研究による手術は,保険適用外であるため,手術費用やこれに伴う入院費用として,1件につき概算400600万円かかる。これまでは徳洲会が臨床研究の予算を組み,それらの費用をすべて負担してきたが,本来的には患者自身が負担するはずのものであり,それを自腹で支払うことのできる患者はごく一握りである。

また,上述のとおり,現時点で修復腎移植に先進医療の適用はなく,今後,徳洲会グループによる再申請が見込まれてはいるものの,上記5学会の態度は依然として変わっておらず,厚生労働省の専門家会議で再申請が承認されるかどうかは全くもって不透明である。今後も臨床研究が実施され続けるかどうかは徳洲会の一存にかかっており,先進医療承認の目途が立たないままいつ途切れるとも分からない臨床研究の状況に,腎不全患者は極めて不安定な立場に置かれている。仮に,修復腎移植が先進医療として承認されれば,手術費を除く入院費や投薬料等が保険適用となり,自己負担額が大きく軽減されるため,多くの患者が修復腎移植を受けられる可能性も出てくるが,保険適用外である手術費だけでも80万円は下らず,先進医療として承認されたとしても,すべての移植希望者に門戸が開かれているというわけではない。

第5 「現状」の結果,原告らの権利が侵害されていること

患者が治療を受けるか受けないか,受けるとしてどのようなどのような治療を受けるかは,自己決定権の一態様として,憲法上重要な権利として保障されており,人が生命・健康を維持・追及する上で必要不可欠なものであるから,形式的・観念的に治療が受けられるというだけでは足りず,実質的・現実的に治療を受ける機会が確保されなければならない。

 修復腎移植について言えば,現在,腎不全患者は,本件ガイドラインの改正により臨床研究という枠内でしか手術を受けられないが,かつては通常の生体腎移植として保険適用が認められてきた修復腎移植が,臨床研究によらなければ受けられなくなったこと自体が患者の治療を受ける機会を侵害していることは言うまでもない。また,上述のように,臨床研究の実施機関が徳洲会グループのみで,実施例もここ5年で14件に過ぎないという状況では,臨床研究によって修復腎移植を受けられることは奇跡的であり,腎不全患者が形式的に修復腎移植を受けることを観念できたとしても,実質的・現実的にみて修復腎移植を受けられる機会が確保されているということは到底できない。さらに,本件ガイドラインの改正により,修復腎移植は健康保険の適用を受けられなくなっており,臨床研究で修復腎移植を受けるとしても1件につき400600万円ほどかかるが,経済的にこれを負担できる患者はわずかであり,このような観点からしても,実質的・現実的に患者の治療を受ける機会が確保されているということはできない。将来において徳洲会グループの先進医療の再申請によってこれが承認される可能性もない訳ではないが,もし先進医療として認められたとしても80万円を要する手術費は保険適用外であるため,修復腎移植を受けることのできる患者が今よりも増えることは期待できるものの,すべての患者に等しく修復腎移植を受ける機会が与えられているというには程遠い。

このように,腎不全患者らを取り巻く現状は厳しく,実質的・現実的にみて修復腎移植を受ける権利が保障されているとは到底いえない状況にある。そして,こうしている間にも,修復腎移植を待つ患者の命が次々と失われている。



Ⅴ 因果関係

第1 単純な因果関係

上述したように,被告らは,専門家としての立場にありながら,故意又は過失によって事実に反する悪宣伝を行い,これにより国を動かして修復腎移植という医療技術を禁止させているのであるから、かかる行為が修復腎移植を望んでいる腎不全患者らの医療行為を選択する自己決定権を侵害していることは言うまでもない。

また,被告らは,臓器売買事件を契機として修復腎移植問題が社会的に取り上げられた当初から,修復腎移植が医学的に認められないとの意見を表明し,虚偽の事実を伝えることでマスコミの否定的論調を先導してきた。これにより,修復腎移植に対する批判的な世論・風潮が形成された結果,多くの腎不全患者らが修復腎移植の医学的妥当性についての正確な知識・情報を得ることが遮断されたのであるが,かかる知識・情報を得ることは,自己決定権を行使する上での大前提ともいうべき権利であり,被告らの行為がその権利を直接侵害していることは明白である。

さらに,被告らは,国により一般医療としての修復腎移植を禁ずるガイドラインが定められてからも,修復腎移植が再び保険適用を受けることがないよう虚偽の事実を流布し続け(そのことは先進医療の適用申請の際に,それが不適切である旨の要望書や声明文を国に提出していることからも明らかであろう。),修復腎移植の復権を待ち望んでいる患者らを代表する原告らに本訴提起を余儀なくさせたのであるから,被告らの行為と原告らの被った手続的負担との間には直接的な因果関係が認められる。

第2 修復腎移植の事実上の禁止に至らせたことによる因果関係

 上記第1のような直接的な因果関係のほか,被告らを筆頭とする日本移植 学会が厚生労働省に働きかけて修復腎移植を禁ずるようガイドラインを改正させ,もって腎不全患者らの修復腎移植を受ける権利を侵害したことも,以下の事実から明らかである。

1 厚労省と学会の協力体制

修復腎移植問題の発覚により,日本移植学会と厚生労働省は,ともに日本の移植医療への不信を招くのではないかという危機感を頂いていた。当時は移植医療の推進を目的とした臓器移植法改正案が国会で成立するかどうかという微妙な時期であり,両者は,移植医療に対するマイナスイメージを一掃したいという思いを共通にしていた(被告大島本人調書121122項)。

ⅰ 両者の協議

ア 被告大島と外口健康局長の協議

修復腎移植問題が発覚した直後の平成1811月初め,日本移植学会の副理事長の地位にあった被告大島は,厚生労働省健康局長の外口崇に対し,「このような医療は絶対に容認できない。学会が責任を持って事実関係の解明に当たりたい」と述べ,外口からも「厚労省としても重大な関心を持っています。最大限,学会を支えます。」という趣旨の返答を受けた(甲B22,被告大島本人調書118119項)。以後,日本移植学会と厚労省は,二人三脚で「ガイドライン改正」に向けての歩を進めるのである。

 イ 第24回臓器移植委員会

平成181127日,第24回厚生科学審議会疾病対策部会臓器移植委員会が開催された。同会に委員として出席した被告大島が日本移植学会倫理指針等について説明を行ったことを受け,厚生労働省の原口真臓器移植対策室長は,学会の倫理指針のほかにもガイドラインを作って対応していきたい旨の発言をした。そして,ガイドライン改正に向けて対策を講じるべき事項として掲記した論点整理表(その論点ごとに日本移植学会倫理指針等が対照されている)を委員に配布し,その論点整理を踏まえてガイドラインの改訂に持って行きたいという考えを明らかにした(甲B405P5,1922))。

続いて,矢野補佐より,移植が行われた宇和島徳洲会病院,市立宇和島病院,呉共済病院では第三者の専門家を含む調査委員会が設置されることになっていること,厚生労働省と関係学会が参画する調査班を設置して調査を進めることになっていることが報告された。そして,これを受けた被告大島は,日本移植学会が各病院の調査委員会及び国と共同の調査委員会に全面的に協力し,調査がある程度進んだ時点で正式なコメントをする決定をしている旨を報告した(甲B40‐5(P2425))。

ⅱ 厚労省調査における協力関係

ア 厚労省調査における学会の役割

厚生労働省は,修復腎移植の是非をめぐる調査の中で,表面上は摘出のみに関わった5病院の調査班の事務局を務めたに過ぎないが,同省臓器移植対策室の担当者を関連病院すべての調査委員会にオブザーバーとして参加させ,日本移植学会による調査全体の事務局を担当した(甲B22)。

イ 第25回臓器移植委員会

   平成19年4月23日,第25回厚生科学審議会疾病対策部会臓器移植委員会が開催された。冒頭,丹藤主査から調査委員会や調査班の調査状況についての報告があり(甲B41-7),次いで,同年3月31日に発表された日本移植学会等4学会による「病腎移植に関する学会声明」や,その前日に日本移植学会が公表した「市立宇和島病院で実施された病腎移植における生存率・生着率について」の報告があった(甲B414P2~8),甲B41-8、甲B41-12 )。その上で,原口室長は,上記「病腎移植に関する学会声明」及び「臓器の移植に関する法律の運用に関する指針に規定する事項(案)等について」について,詳細な説明を行った(甲B41-4 P11~20),甲B41-9)。かかる過程を経て、本件「ガイドライン改正」が実行されることとなった。

2 「ガイドライン改正」に至る行政手続

ⅰ パブリックコメントの実施

「臓器の移植に関する法律の運用に関する指針」の一部改正に関して,平成19年5月11日から6月11日まで,パブリックコメント手続が実施された。

厚生労働省健康局臓器移植対策室は,寄せられた意見に対し,日本移植学会の「生体腎移植の提供に関する補遺」等に基づいて回答しているだけでなく,「4学会声明のみに基づいて病腎移植の禁止を規定すべきではないのではないか」といった意見に対して回答を行ったが、その内容は,上記学会声明を全面的にコピーしたものである(甲B42P58))。

ⅱ 「ガイドライン改正」の実施

平成19年7月12日,「ガイドライン改正」が実施された。またこれを追って、平成20年3月5日、厚生労働大臣の告示とそれに伴う同省課長の通達が実施された(詳細は原告ら準備書面(24)記載のとおり)。

改正内容は,上記「臓器の移植に関する法律の運用に関する指針に規定する事項(案)について」(甲B41-9 )とほぼ同じである。また,「病腎移植は,現時点では医学的に妥当性がない」とされているが,その表現は,日本移植学会ら4学会の声明と共通している。

しかも、「ガイドライン改正」の実質的に重要な一部をなす課長通達等においては、厚生労働省が4学会と共同して「ガイドライン改正」を実施する姿勢がきわめて顕著である。①保険局医療課長平成20年3月5日通達「診療報酬の算定方法の制定等に伴う実施上の留意事項について」は、「生体腎を移植する場合においては、日本移植学会が作成した『生体腎移植ガイドライン』を遵守している場合に限り算定する」と定め、②同課長同日通達「特掲診療料の施設基準等及びその届出に関する手続きの取扱いについて」においては、「生体腎移植の実施に当たり、臓器の移植に関する法律の運用に関する指針(ガイドライン)、世界保健機関「ヒト臓器移植に関する指針」、国際移植学会倫理指針並びに日本移植学会倫理指針及び日本移植学会「生体腎移植ガイドライン」を原則として遵守していること。」臓器の移植に関する法律の運用に関する指針(ガイドライン)、世界保健機関「ヒト臓器移植に関する指針」、国際移植学会倫理指針並びに日本移植学会倫理指針及び日本移植学会「生体腎移植ガイドライン」を遵守する旨の文書(様式任意)を添付すること。」と定めている。

これらの通達は、診療報酬の算定という国と医療機関との権利義務関係の成否を左右するものであるところ、厚生労働省は、その権利関係の成否を法人格もない私団体であるところの日本移植学会のガイドラインに係らせているのである。わが国の法制度上、このような実例を、当代理人らは寡聞にして知らない。

さらに驚くべきことは、上記各課長通達が行われたのは平成20年3月5日であるのに、その各通達が内容的に依拠する日本移植学会の「生体腎移植ガイドライン」は平成20年5月18日理事会決定により制定された、ということである。すなわち、上記各課長通達は、いまだ存在しない、したがって正式には内容も判明しないはずの<学会ガイドライン>に適合することを、診療報酬の請求要件として定めたことになる。

「ガイドライン改正」が、表面上は純然たる行政の行為としての体裁をとってはいても、その実は厚生労働省と移植学会幹部ら(すなわち被告ら)とが共同して行ったのであることは、この一事のみをもっても明らかである。

3 評価

このように,日本移植学会は,「移植医療への不信感除去」という半ば利己的動機から,『修復腎移植は絶対に認められない』という結論から出発して、厚生労働省に対してこれを禁止させようとした。①まず被告大島が外口局長との「ボス交渉」によってその足場を築き、②宇和島徳洲会病院等に対する調査への協力や、臓器移植委員会での意見表明を通じて,外口をはじめとする厚生労働省の担当者に自分たちの見解を吹き込んで同調させ、③最終的に厚生労働省に、被告らの要求するままの内容の(しかも要所で<学会ガイドライン>を要件として取り入れた)「ガイドライン改正」を行わせた。厚生労働省は結局、<学会の言い分をそっくり呑み込んで>本件「ガイドライン改正」を実行し、一般医療としての修復腎移植を禁止したのである。

日本移植学会は,医学的知見を有する専門家集団であり,こと移植医療についての医学的知見に関する限り、厚生労働省に対する影響力は絶大である。その日本移植学会の頂点に立つ被告らの見解・発言等が,厚生労働省をして安易にその内容を盲信させて、修復腎移植を禁止せしめたのであるから,「ガイドライン改正」を通じて腎不全患者らの修復腎移植を受ける権利を侵害していることは明らかであり,被告らの行為と原告らの被った損害との間には十分に相当因果関係が認められる。

市立宇和島病院レシピエント表示対照表

(甲C31) (甲C34)(甲B8行数) (移植日) (臓器の疾病) (性別)

 2      ⑮     1    H5.4.5    右尿管ガン    男

 3      ⑯     2    H5.12.6    右尿管ガン    男

 4      ⑰     3    H6.10.3    右尿管ガン    男

 5      ⑱     4    H7.10.27   後腹膜炎症性腫瘤 女

 6      ⑲     5    H7.11.17   左腎膿瘍     男

 7      ㉑     9    H8.7.24    右腎ガン     男

 8      ⑩     7    H8.8.16    左尿管ガン    男

 9      ⑳     8    H8.4.1    骨盤腎      女

 10      ⑤     6    H8.11.20   左腎動脈瘤    男

 13      ㉕     10    H10.11.12  腎血管筋脂肪腫  女

 14      ㉒     12    H11.5.7   右尿管狭窄    男

 15      ㉓     11    H11.5.17   左腎細胞ガン   男

 16      ③     13    H11.10.27  左腎細胞ガン   男

 17      ㉔     14    H11.11.5   左腎細胞ガン   男

 18      ①     15    H12.4.3   腎血管腫     女

19      ⑥     16    H12.8.30   ネフローゼ

 20      ⑦     17    H12.8.30   ネフローゼ

 21      ⑧     18    H12.12.13   SLEネフローゼ

 22      ⑭     20    H12.12.13   SLEネフローゼ

 23      ⑨     19    H12.9.29   腎動脈瘤     女

 24      ②     21    H13.2.23   尿管狭窄     女

 25      ④     22    H13.3.26   左腎細胞ガン   男

 29      ⑫     24    H15.2.21   左尿管ガン    男

 30      ⑪     23    H15.2.26   ネフローゼ

 31      ⑬     25    H15.2.26   ネフローゼ


by shufukujin-report | 2014-07-10 06:00 | 26.7.1最終弁論詳細(3)
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