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26.7.1修復腎訴訟最終弁論(1)


修復腎訴訟
7月1日 最終弁論 
  秋にも判決

 平成20年12月10日(水)、修復腎移植の早期実施を望んでいる透析患者や腎移植者原告7名が、日本移植学会幹部ら5名に対して、真実に反する発言等を行ったことにより原告らの治療の選択権と移植を受ける権利を侵害されたとして松山地方裁判所に損害賠償を求め提訴しました。

平成21年4月21日(火)、修復腎訴訟の第1回口頭弁論が行われました。
 その後十数回の口頭弁論を経、今年平成26年2月25日と3月18日に証人尋問が実施され、原告、被告計6人の尋問が予定通りすべて終わりました。
 そして、平成26年7月1日に最終口頭弁論が開かれ、結審しました。
 早ければこの秋にも判決が出るとみられています。



最終弁論の準備書面を掲載します。


平成20年(ワ)第979号損害賠償請求事件

原 告  野 村 正 良  外6名

被 告  大 島 伸 一  外4名

     準備書面(27

                        2014年 6月24日

松山地方裁判所

  民事第2部  御中

                 原告ら訴訟代理人 

                 弁護士     林     秀  信

                 弁護士     岡  林  善  幸

                 弁護士     薦  田  伸  夫

                 弁護士     東     隆  司

                 弁護士     光  成  卓  明

                 弁護士     山  口  直  樹

目次

Ⅰ 修復腎移植が慢性腎不全の治療法として優れていること        5P

第1 腎移植治療の優位性                      5P

  1 透析治療の欠点                        5P

  2 腎移植治療の優位                       6P

第2 日本の腎移植の現状と、修復腎移植によって

移植可能な腎臓が急増すること                 6P

1 日本の腎移植の現状                      6P

2 修復腎移植の原則禁止に至る経緯                7P

3 修復腎移植の実施例                      12P

4 修復腎移植の生存率・生着率 16P

5 修復腎移植についての国際的評価等 18P

6 修復腎移植によって移植可能な腎臓が急増すること 22P

第3 患者の自己決定権 22P

1 レシピエントの自己決定権 22P

2 ドナーの自己決定権(全摘か部切か) 23P

第4 修復腎移植の医療技術としての総括的評価と

治療を受ける権利の尊重 23P

Ⅱ 被告らの主張する「修復腎移植の欠点」がいずれもあたらないこと 23P

第1 悪性腫瘍の伝播 23P

1 被告らの主張    23P

2 反論 24P

第2 腎臓全摘出の医療としての適応性 26P

1 部分切除のみが標準治療ではなく、現在においても、

全摘も標準治療とされていること 26P

2 全摘と部分切除とでは、ドナーの予後に差は存しないこと 28P

3 自家腎移植は標準治療とはいえないこと 30P

第3 切除の際のドナー体内のガン転移 30P

1 腎血管(動・静)の結紮・切離の順序について 30P

 尿管癌の場合の尿管の切断 32P

第4 「高原解析」は信用できないこと 36P

1 修復腎移植の成績は悪くないこと 36P

2 修復腎移植の成績の解析の本来のありかた 37P

3 高原解析の問題点 39P

4 問題点の性格と方向性 44P

5 解析及びその結果についての高原の態度 45P

第5 瀬戸内グループが行った修復腎移植の手続、

及び個々のドナーの腎臓全摘出の適応性について 46P

第6 患者の自己決定権の無視 47P

1 患者の自己決定権 47P

2 被告らの行為は患者の自己決定権を侵害している 47P

3 修復腎移植のリスクとその選択 48P

4 被告らの主張の不条理 49P

第7 被告らの批判の総括的評価 51P

Ⅲ 被告らの行為の違法性 52P

Ⅳ 修復腎移植の現状と権利侵害 52P

第1 「厚労省ガイドラインの改正」による制約 52P

1 「厚労省ガイドライン改正」による修復腎移植禁止の構造 52P

2 修復腎移植を受ける機会の剥奪 53P

第2 臨床研究と実施状況 54P

1 臨床研究実施に至るまでの経緯 54P

 臨床研究の実施状況 54P

第3 高度先進医療申請と現状 57P

第4 臨床研究・高度先進医療のみでは不十分であること 58P

 第5 「現状」の結果,原告らの権利が侵害されていること 59P

Ⅴ 因果関係 60P

第1 単純な因果関係 60P

第2 修復腎移植の事実上の禁止に至らせたことによる因果関係 61P

1 厚労省と学会の協力体制 61P

2 ガイドライン改正に至る行政手続 63P

  3 評価 65P

別表(市立宇和島病院レシピエント表示対照表)          66P


Ⅰ 修復腎移植が慢性腎不全の治療法として優れていること


第1 腎移植治療の優位性

1 透析治療の欠点

ⅰ 慢性腎不全の治療方法には透析治療と腎移植治療とがあるが,血液透析治療は,週3回程度(2~3日おきに),1回当たり約4~5時間もの透析を受けなければならず,また,腹膜透析治療も1日に4回透析液を交換しなければならず,その交換に各1時間程度時間をとられ,透析治療は,日常生活や仕事や学業に重大な支障をきたす(原告藤村本人調書2632項,6165項。同野村本人調書1315項。甲A1、2)。

ⅱ それだけでなく,以下のような諸点が指摘されている。

ア シャントが詰まって緊急切開が必要となり,激痛に耐えなければならなかったばかりか,感染症で40度の高熱と意識障害により,集中治療室で生死の境をさまようようなこと(甲A2)

イ 慢性的な疲労感の上に透析はとても苦しいこと(原告藤村本人調書3132項。甲A1)

ウ 透析中の急激な血圧低下に耐えられずベッドの上でしばしば嘔吐すること(甲A3)

エ 透析を続けていると合併症として関節等にたんぱく質の一種のアミロイドが溜まって動きにくくなる「アミロイド症」(原告藤村本人調書5859項。甲A1)や脳幹出血や足指等の壊死(A)が起きること

オ 塩分・水分等の摂取に関する食事制限のストレスに苛まれること(原告藤村本人調書3342項。甲A1)

カ 外国の文献で透析患者の7割がうつを経験するとのデータもある状況で,うつになり,ひどい人は死への誘惑に駆られること(甲A4)

キ 日本透析医学会の調査によると5年生存率は63.1%に過ぎないこと(甲A3)

ⅲ いずれにしても,透析治療は,根治療法ではなく(甲A1),「透析は無期懲役みたいなもの」(甲A4)とか,「前途の展望のない生き地獄」(甲A3)とか言われており,「欧米では,透析は移植までのつなぎの医療だ」とされている(甲A3)。

2 移植治療の優位性

 腎移植医療においては、上記の透析医療の欠点はない。手術後は1、2ヵ月に一度の検査のための通院と服薬のほかは、特別の負担・拘束はない。免疫抑制剤などの服薬は生涯継続しなければならないが、腎機能をそのまま維持し続けることができるので、健康人とほとんど変わりのない日常生活を送ることができる。このような「クオリティ・オブ・ライフ」において,透析治療よりも腎移植治療が優れていることは疑いのない事実であり(甲C6670。原告野村本人調書),この点については被告らも異論のないところと思われる。


第2 日本の腎移植の現状と,修復腎移植によって移植可能な腎臓が急増すること

1 日本の腎移植の現状

ⅰ 日本国内の透析患者は約26万人で,年間1万人のペースで増え続けている(甲A2)が,死後に提供される献腎数は年間200件前後で漸減傾向が続いており,日本臓器移植ネットワークによると,04年の献腎移植は173件,03年度末時点で献腎移植を希望する登録者は12468人いたので,倍率70倍を越す狭き門となっており,「宝くじのようなもの」と言われている(甲A1)。

ⅱ そのような国内の実情から,一縷の望みを抱いて海外での移植を試みる者も多く(甲A5,6),厚生労働省の研究班の調査結果によると,術後の治療で国内の病院に通院している患者に限定しても,海外で腎臓の移植を受けた患者は198人おり,渡航先は中国,フィリピン,米国等9カ国であったとされている(甲A7)。

ⅲ しかしながら,このような海外に渡航しての移植は,貧困層を狙う闇ビジネスになっている(甲A8)等の批判が強く,2008年5月,日本も加盟する国際移植学会は,「外国人が臓器提供を受け,地元国民の移植の機会を奪うのは公平・正義に反する」として,渡航移植を原則禁止とするイスタンブール宣言を採択し(甲A9,10),また,2008年6月10日には,WHOの移植担当理事ルーク・ノエル氏と国際移植学会会長のジェレミー・チャップマン氏が,衆議院小委員会等で,日本の臓器移植数が世界の中でかなり少ないことを指摘した上で,「各国は臓器を自給自足すべきであり,その流れになってきている。日本は(自国での臓器供給を)もっと考えるべきだ。」と警鐘を鳴らしている(甲A11)。そして,これまで事実上の臓器売買による渡航移植が行なわれてきた中国では臓器売買を条例で禁ずるとともに外国人への移植を禁止し,また,フィリピンでも政府が外国人への腎臓移植を全面的に禁止したと報じられている(甲A10)。

2 修復腎移植の原則禁止に至る経緯

(甲C20P3739)。甲C22。甲C23P3536)

ⅰ 修復腎移植の顕在化

ア 2006(平成18)10月1日,愛媛県警は,2005(平成17)年9月に宇和島徳洲会病院で行われた「義理の妹から兄」への生体腎移植が,実は非親族間の臓器提供であり,金銭の授受(臓器移植法違反)があった疑いで,レシピエントの男性(59歳)と臓器をあっせんした内縁の妻(59歳)を逮捕した(本件臓器売買事件)。事件の発端は,腎臓を提供した松山市在住の女性(59歳)が「腎臓を提供したのに,約束のお金を一部しか支払ってもらえない。」と警察に苦情を持ちこんだことであった。

イ 臓器移植法施行から10年という節目の年にあたり,発覚した最初の臓器    売買事件が四国の小さな町で発生したことや,執刀医の万波誠医師が「裸足にサンダル,下着の上に白衣」という型破りの人物であったこと等がその後の報道姿勢に大きく影響を与え,同月2日の全国紙はいずれもこの事件を一面トップで報道し,以後,連日のように「ドナー確認の不備」,「個性的な医師」,「医師の事件関与の有無」などの記事が掲載された。

ウ 本件臓器売買事件を契機に,宇和島徳洲会病院では万波誠医師が行っていた腎臓移植手術について調査をした結果,2005(平成17)年4月の同病院開院以来2006(平成18)年9月までに行われた腎臓移植手術78例のうち,修復腎移植が11例あることが明らかになった。

エ 200611月2日,宇和島徳洲会病院が上記調査結果を公表したところ,翌日の各紙はいずれも一面トップで事実を大きく報道し,以後,「万波バッシング」が始まった。

オ この過程で,病気のために摘出された腎臓を移植に再利用するという修復腎移植が問題とされることとなり,修復腎移植にかかわったのが,山口大学医学部泌尿器科出身の万波誠医師をリーダーとして,それに協力する岡山大学医学部泌尿器科出身で実弟の万波廉介医師,光畑直喜医師(呉共済病院泌尿器科部長),西光雄医師(香川労災病院泌尿器科部長)等の医師で,彼らは,「瀬戸内グループ」と呼ばれた。

カ 移植は,主に,万波誠医師がかつて勤務していた市立宇和島病院,および現在勤務中の宇和島徳洲会病院で行われ,移植に使用した腎臓は,万波廉介医師や西医師が岡山,広島両県の各種病院から提供を受け,また呉と宇和島の間で交換されることもあった。

キ 20061226日,松山地裁宇和島支部は,起訴された2人(腎臓移植を受けた男性および斡旋をした内縁の妻)に対し,懲役1年,執行猶予3年の判決を言い渡したが,万波誠医師および勤務先の病院(宇和島徳洲会病院および市立宇和島病院)については,本件臓器売買事件に関与したとの認定はなされなかった。

 ⅱ 学会の見解とその変化

ア 200611月頃までの日本移植学会関係者の公表意見は,修復腎移植に必ずしも否定的なものではなかった。例えば,東京女子医科大学名誉教授太田和夫氏は,「最初は『おかしなことをやっている』と思ったが,反論を検証してみると,医学的にそれほどおかしなところは見当たらない。何より患者が納得しており,彼らがやっていることが絶対いけないとは言い切れない」(1113産経),東邦大学教授であった被告相川は,「腎臓がんで患部を取り除いて移植する症例はないと思う。病気によっては病気腎の移植が全て悪いということでもない」(1130東京)と述べている。また,日本移植学会理事長であった被告田中は,「再発の可能性が数%あるがん腎臓の移植はもってのほか。(しかし)特別な場合には病気の臓器を使うことはあり得る」(11/11中国)と述べ,同学会理事であった被告大島は,「がんの場合,移植を受けた患者ががんになる可能性があり,絶対にしてはならない。(腎動脈瘤や腎臓結石など良性の病気の場合)生体腎移植で提供者になろうとして検査で見つかった場合,治して治療している。病気の腎臓を使うことが一律に悪いわけではない」(11/20山陽)と述べている。

イ そして,鹿鳴荘病理研究所所長であり広島大学名誉教授である難波紘二氏は,病理学者・生命倫理学者の立場から,11/14中国,11/19産経,11/27毎日の各紙で,「悪性度の低いがんの場合,切除して移植した場合には,原則として再発・転移しない。ドナーが了承し,レシピエントがリスクを承知で移植を受けるのであれば,倫理的に問題ない。病腎移植例が何例あるのかまず明らかにし,その予後を公開するのが先決だ」と主張し,また,倫理学者である岡山大学教授粟屋剛氏は,「健康な人の身体にメスを入れて大事な腎臓を摘出するより,本人がいらないという病気腎を使うほうが,ドナーの立場を考えると合理性が高いとも言える」(1124朝日)と主張して,容認論を述べている。

ウ 2007年1月以降,日本移植学会側は,意図的に誤情報をメディアにリーク。19日の朝日では「病気腎 症状も“移植”?ネフローゼ症候群 半数で高蛋白尿」,2月17日の読売は1面トップで,「B型肝炎感染の腎移植,梅毒なども,計4人に 市立宇和島病院」,翌18日の各紙は「病気腎移植は不適切 学会・病院合同会議 意見大勢占める(毎日)」などと報じ,さらに19日の朝日は「病気腎移植を原則禁止 ネフローゼとがんは『絶対』5学会が方針 万波流『患者の為』否定」と報じた。

エ そんな中,3月1日の中国,産経両紙は「病気腎移植 米学会演題に採用 万波氏発表 国内にも影響か」と報じた。市立宇和島病院の25件,宇和島徳洲会病院の11件,呉共済病院の6件の合計42件の修復腎移植について,万波医師が「米国移植学会議」(2007年6月1~6日)で演題発表する運びとなったのである。しかし日本移植学会理事長の被告田中から横槍が入り,発表は中止された。

オ この被告田中は,2003年に,カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)の移植外科バスッティル教授と連名で「肝移植におけるマージナル・ドナーの利用性」という総説論文(C26)を国際誌に発表している。この論文では,”マージナル(marginal)“という用語の定義が行なわれ,「marginalあるいはextendedドナーという考え方は,移植待ち患者リストの要求に答えるためのもので,初期機能不良または初期機能喪失のリスクがある場合をいう」と述べた上で,「マージナル・ドナーからの臓器は最適とはいえないが,移植待ちの間,死に直面している患者にとって生存の代替策であるので,その利用法を追及する必要がある」と書いている。実際に,このバスッティル=田中論文では,実に118編もの世界文献が引用され,①ドナー年齢の高齢者への拡張,②脂肪肝の利用,③がん患者臓器の利用,④ウイルス性肝炎のある肝臓の利用等が,具体的かつ前向きに論じられている。この総説論文は,「病気の肝臓を出来るだけ肝移植に利用しよう」という主旨のものであり,個人としての被告田中は,”病腎移植“の意義を十分に理解できていたはずである。しかし,”病気の腎臓を移植に使用すること“が現実に日本国内で報道されると,日本移植学会理事長の田中は,これを否定する言動に出たのである(C21P42~43)

 ⅲ 学会声明から修復腎移植禁止へ

ア 2007(平成19)年3月31日,日本移植学会,日本泌尿器科学会,日本透析医学会,日本臨床腎移植学会の4学会は,「現時点では医学的妥当性がない」との共同声明(本件関係学会声明)を発表した。但,日本腎臓病学会はこの時点で理事会の決定を経ておらず,派遣されていた理事個人が了承する留まった。

イ 200611月に修復腎移植が公表され,「病腎移植」としてメディア報道された際,被告らを含む日本の移植専門家たちは,「聞いたこともない手術だ」「がんの腎臓を移植に用いるなど絶対に禁忌だ」とコメントした。しかし,既に「腎がんを切除して移植に用いる手法」は,2004年の「アメリカ泌尿器科学会学術総会」で,オーストラリア・ブリスベンのクィーンズランド大学医学部のデイヴィッド・ニコル教授が報告している。しかも,同学会には日本から約300名近くが参加しているばかりか,この学会の「ハイライト集」(甲A27)は,ある製薬会社が日本語版を作成して,日本泌尿器科学会の会員約3000人に配布し,その中で帝京大学の堀江重郎教授が「特殊なケース,例えば移植希望の透析患者が家族にいるT1腎がん患者では今後ドナーのオプションになるかもしれない。」とコメントしていることから,少なくとも,この学会抄録を読んだ日本泌尿器科学会の会員は,ニコル教授の先行例の存在を承知していたはずである(甲C21P36))。

ウ 厚生労働省は,本件関係学会声明を受け,2007年(平成19年)5月11日,「修復腎移植は臨床研究として行う外は禁止する。」との内容を含む,「『臓器移植に関する法律』の運用に関する指針」(ガイドライン)の改正について行政手続法に基づくパブリック・コメント手続を施行した。

エ 2007(平成19)年7月12日,厚生労働大臣は,ガイドラインを改正し,同第12「生体からの臓器移植の取扱いに関する事項」第8項において,修復腎移植は現時点では医学的に妥当性がないとし,専門家による臨床研究目的以外の実施を禁止する旨(本件ガイドライン部分)を関係機関に通知した。これにより,修復腎移植は臓器移植法の解釈として,「適正な移植医療」(同法1条)あるいは「適切な移植術」(同法2条3項)ではない違法なものとされ,実地の医療として禁止されることとなったのである。


3 修復腎移植の実施例

修復腎移植について,いわゆる「万波移植」だけが大きく取上げられたが,次に述べるとおり,国内外に既にかなりの数の報告がある。

ⅰ 甲C20P4041))

ア 1956年4月に新潟大学で行われた日本における最初の腎移植は,修復腎移植であり,自殺の為に昇汞(塩化水銀)を服用し急性腎不全に陥った30歳男性を救う為に,突発性腎出血で摘出した患者腎臓が移植された。万波グループによる修復腎移植が開始された1991年以降,ドナーの腎動脈瘤を切除し移植に用いた例は,少なくとも91年広島大学2件,93年藤田保健衛生大学1件,94年浜松医科大学1件,98年東京女子医科大学1件,2000年同大学3件,01年戸田中央総合病院1件,03年市立札幌病院1件が報告されている。以上合計10件に万波グループの6件を合計すると,腎動脈瘤例を用いた修復腎移植は,国内に少なくとも16例はあることになる。

イ 一連の修復腎移植の出発点となった,75歳男性から摘出した腎動脈瘤のある腎臓の病変部を切除し,44歳男性に移植したケース(1991年1月に呉共済病院で実施)では,読売新聞が同年3月23日全国版で「非血縁 75歳から腎移植 44歳男性 元気に退院」と,美談として報道している(甲A69)。日本移植学会は,2003年から「非親族からの臓器提供を認める」という方針に転換しており,親族間で実施されてきた修復腎移植が,非親族間で行われることを非難する論理的根拠は消失している。

ウ 糖尿病性腎症の腎臓を移植に用いた報告は少なくとも2例あり,いずれも7ヶ月以内にレシピエントの病変が消失したという。ネフローゼ症候群の腎臓摘出については,小児・成人ともに国内報告例があり,最新の英米テキストにも適応が記載されているが,移植に利用し,成功したという報告はないようである。

エ 万波グループが移植に用いた腎がんのある腎臓は8例で,いずれも腎細胞がん(RCC)であり,その最大径は3.5cmまでで,組織学的悪性度はG1が4例,G1G2が4例であり,TNM分類ではT2N0M0以下の症例である。このカテゴリーに属するRCCが臨床的には良性であり,部分切除療法も試みられつつあることは良く知られている。

オ 海外文献では,米シンシナティ大学のブエルらが移植がん登録記録から発見した例として14例を報告している。5年以上追跡されているが,いずれも再発・転移はない。米ピッツバーグ大学エマヌエラ・タイオーリ教授らは,イタリア国立移植センターのデータを解析して,58人の担がん患者からの移植臓器108件の長期観察結果について報告している。その中に腎がんの腎臓が移植に用いられたケースが1例あるが,転移・再発を認めていない。豪クィーンズ大学のデイヴィッド・ニコル教授らは,直径3㎝以下の腎細胞がんのある死体腎3件,生体腎29件を移植に使用し,平均3年の経過観察で再発・転移を認めていないと報告している。

カ 以上を要約すると,小さなRCCが切除されて移植に用いられたケースは,少なくとも現時点で55例はあり,いずれも良好な成績を収めている。

キ 下部尿管腫瘍のある腎臓を移植に用いたという報告例は,現在のところ光畑論文以外に見つかっていない。しかし,血管筋脂肪腫や褐色細胞腫等の良性腫瘍を持つ腎臓が移植に利用された報告はいくつか散見され,秋田大学の症例もこれに属する。

ⅱ 甲C21P3738))

ア 非腫瘍性(腎動脈瘤ないし腎血管奇形例が多い)の修復腎移植は,万波医師ら以外にも,既に日本で多くの先行例があり,欧米の論文にも多くの例がある。

イ 良性腫瘍に関しては,国外で少なくとも19例の報告がある。いずれも“増大・悪性化・転移”した例はない。

い ベルギー・ブリュッセルのルーアン医科大学のビリガンドらが,結節性硬化症の為に腎不全を起こした患者に対して,血管筋脂肪腫がある腎臓を放置したまま移植を行なった。患者は免疫抑制剤を投与されているため,血管筋脂肪腫の増大や悪性化も予測された。しかし,7年間の経過観察をした結果,そのような現象は認められなかったことを90年に報告している。この症例は,腎臓にある良性腫瘍を切除した後に移植したものではないが,免疫抑制下にあっても,血管筋脂肪腫は増大しないという最初の証拠になった。

ろ 同年,仏サン・プリタンジャレ市,北病院のエルティエらは,死体腎移植の際に偶然見つかった血管筋脂肪腫を切除し,移植に使用した例を報告した。3例目として,クロアチアのザグレブから病理医のモスンジャクらが報告したものがある。腎移植から3ヵ月後に心不全で死亡した男性の移植腎に血管筋脂肪腫のあることが,剖検によって確認されている。

は その後,同じように血管筋脂肪腫を切除した腎臓を移植に用いた症例が,93年に米ピッツバーグのアレニー総合病院から2例,米サウスカロライナ医大から1例報告されている。他にも同じような報告は,99年までに米ペンシルバニア医大,独ベルリン・フンボルト大学,英マンチェスター大学から3例なされている。

に 00年以降では,血管筋脂肪腫のある腎臓を移植に用いた例は,少なくとも4施設から4例。この内の3施設は,米コーネル大学医学部,米メリーランド大学医学部,パリ・オテル=デュウ病院と,その名が良く知られている研究・治療施設である。また,イタリアのボローニャがん研究所のフィオレンティーノは,血管筋脂肪腫1例のほかに好酸性細胞種1例,血腫2例,脂肪腫1例,乳頭伏線腫1例,単純性嚢胞1例を,いずれも病変を切除した後に移植したと報告している。

ほ 以上を小計すると,血管筋脂肪腫14例,その他の良性腫瘍5例の合計19例となる。

ウ 悪性腫瘍に関しては,腎細胞がんを切除した後に移植した例が,国外で少なくとも70例実施され,成績は極めて良好である。

い 腎細胞がんについて,文献的に確認できる最初の2症例が75年に報告されている。いずれも”病理診断の遅れ”の為,腎細胞がんを良性病変と誤認し,部分切除後に移植したものである。このうち,米コーネル大学のシュテューベンボードの症例は,8年間にわたり経過追跡され,がんの再発・転移がなく,生着・生存中であると追加報告されている。

ろ 同様の判断ミスから起きた修復腎移植の例は,他にもある。仏リヨンのデュウベルナールらは,直径5㎜の腎細胞がんを部分切除して移植した症例を9年間経過観察し,異常が生じなかったと報告した。

は これらの報告を受けて,90年代になると,事前に腎細胞がんであると分かっていても,それを切除して積極的に腎移植がなされるようになった。

に ポーランド・ワルシャワ大学のグロチョビエッキらの報告では,3×4㎜という小さな腎細胞がんを体外で切除し,腎移植を実施した。米ルイジアナ州立大のカーヴァーらが直径1㎝の腎細胞がんを切除して移植したのを皮切りに,よりサイズの大きい腎細胞がんも切除されて移植されるようになった。

ほ イタリアのカッリエリらが,「被膜下にある4㎝以下の腎細胞がんの場合,切除すれば安全に移植で使えるという報告が外国でなされている。我が国でもそのような症例を活用しよう」と総説論文で提唱したのは,このような動向が背景である。

へ 05年になると,この問題に真正面から取り組んだ米シンシナティ大学のブエルは,14例の登録症例を報告し「直径4㎝以下の腎細胞がんを切除した後の腎臓は移植に使用可能」と主張した。また、このような移植を2例,自らも実施したことを明らかにした。

と 豪ブリスベンのニコル教授の実施例は,米国の移植学会でも報告されているが,「Br..UrolIntern」に受理された論文によると,96年5月~0711月に腎細胞がん(直径3cm以下)を体外切除した49例の移植を実施したという。その内の3例が,移植と無関係な病気で死亡したほかは,生着・生存中である。1例で移植後9年目に腫瘍の再発が見られたが,その後18ヶ月の経過追跡で増大・転移が認められない,としている。そこで,ニコル教授は,「このような腎臓は,慎重に選択された患者に対して移植が適応とされる。これらの患者は,死体腎移植を待っている間に死亡してしまう。修復した腎臓を移植することは,これらの患者が生命の質と長さを増加させるポテンシャルを持っている」と主張している。

ち 以上,腎細胞がんについては,国外で75年以後,切除後移植に使用した例が70例以上ある。

エ 以上の良性腫瘍と腎細胞がんをあわせると,89例となる。既に十分な先行実施例があり,“実験的治療”と呼ばれる段階を超えている。

4 修復腎移植の生存率・生着率

(C20P91041),甲C23P2627)。甲A67)

ⅰ 瀬戸内グループによる修復腎移植42件について,2007年5月末現在の予後解析結果が,同年6月11日,独エッセンで開催された「国際生体臓器移植シンポジウム」で米フロリダ大学准教授藤田士朗氏によって発表された。

ⅱ 生体腎移植(N8979),死体腎移植(N3372),修復腎移植(N42)のレシピエント生存率は次のとおりである。

       (生体)    (死体)    (修復腎)

1年生存率   95%     91%     92.5

5年生存率   90%     84%     78.9

10年生存率  84%     77%     62.5

ⅲ 同様に生着率は次のとおりである。

          (生体)    (死体)     (修復腎)

1年生着率  90.2%   78.9%    77.8

5年生着率  75.3%   60.6%    50.4

10年生着率  57.5%   44.5%    39.7

ⅳ 生存率に関しては修復腎移植の成績は死体腎とあまり変わらないが,生着率  については,5年目以後に生体腎,死体腎に比べ低くなっている。なお,修復腎については,2003年以後に実施された追跡期間5年未満の症例が8例(2割)あり,経過観察期間が延びるにつれて,生存率・生着率ともにアップしている実情にある。

ⅴ 5年以後の生着率が悪くなる理由について,①レシピエントの年齢が生体腎,死体腎の場合に比べ高齢であること,②ドナーの年齢が高齢であることが指摘されている。(また,修復腎移植の場合,相当数が2度目あるいはそれ以上の回数の移植(最高4回が2例)であることも指摘されている(甲C21P36))。

ⅵ 3種の腎移植のデータの単純比較ではなく,年齢補正をして比較・解釈する必要性があるが,広島大学名誉教授の難波紘二氏は,レシピエント年齢の中央値が,生体腎で30代,死体腎で40代,修復腎では50代にあることを指摘し,このレシピエント年齢の差が生着率に関与していると述べている。

ⅶ エッセンでの発表で,藤田准教授は,ドナー年齢の相違を解析したデータを示した。それによると,死体腎ではドナーの約75%,生体腎で約80%が59歳以下であるのに対して,修復腎の場合,ドナーの約75%が60歳以上であり,さらに70歳以上が全体の半数近くを占めている。70歳以上のドナー腎臓が使用されたケースについて,生体腎(N299),死体腎(N54),修復腎(N18)の長期生着率を比較してみると,修復腎の生着率曲線は見事に生体腎と死体腎の中間に位置することが明らかとなった。このことから,藤田准教授は,「ドナーの年齢差を考慮すると,修復腎移植の成績は死体腎のそれと遜色ない」と結論付けている。

ⅷ これに対し、被告高原は2007年3月30日「修復腎移植の成績が悪い」という発表を行い、被告らは現在なお被告高原の解析に依拠して修復腎移植の成績が悪いと主張している。この高原解析が信頼できないことは、後に項を改めて詳述する。

5 修復腎移植についての国際的評価等

(C20P9~10),甲C21P8~45),甲C24、甲C)

ⅰ 米フロリダ大学の藤田准教授は、「米国移植学会議」で予定(中止)された万波発表に用いられていた42症例のデータを用いて,独エッセンで開催された「国際生体臓器移植シンポジウム」(2007年6月1112)で演題発表を行なった。会場からは賛否両論の反応があったが,概ね死体腎臓の少ないアジア諸国からは賛成や強い興味を示された。西洋諸国は,もう少し用心深い対応で,症例がまだ少ないので,なんともいえないという反応もあったが,可能性を言下に否定するようなコメントはなかった。将来的には可能性を探ってみたいといったところであった。藤田准教授に対しては,主催者のBroelsch博士から,「素晴らしい発表だった」と個人的なコメントがあり,また,有名な移植外科医のS.T.Fan博士からも個人的に肯定的なコメントがあった。

ⅱ 仏パリで開催された「国際泌尿器科学会議(2007年9月)でも藤田准教授が,42例の修復腎移植は死体腎移植と比較して有効であると発表したが,その発表は,各国から採用された16演題の1つとしてポスターと口頭により行われたが,演題発表に際しては,座長から,「今回発表される演題の中で最も興味のあるテーマであろう」と紹介されるほど注目度が高かった。

ⅲ 米シカゴで開催された「トランスプラントサミット2007(9月2325)でも藤田准教授が,修復腎移植42例中の悪性腫瘍の16例に絞ってポスター発表を行なった。「がんの部分切除をした後の腎臓の容積で,術後の腎機能は十分なのか」等の熱心な質問を受けた他,移植の分野で有名な米ハーバード・メディカルスクールのフランシス・デルモニコ教授や,米ラッシュ大学のステファン・ジェンシック准教授等から,「ドナーとレシピエントの双方が納得しているのならば,問題ないと思う」と話された。またサミットの主催者の1人は,6月の米国移植学会議で予定されていた万波医師の発表が日本移植学会からの横槍で取り止めになったことを知っており,「興味深い方法であり,腎臓がんの生物学的特性を知らない移植外科医を教育する為,早く論文にするように」勧めた。

ⅳ 2008年1月2527日に米フロリダ州のマルコ島で開催された「米国移植外科学会冬季シンポジウム」で,万波医師らの修復腎移植に関する論文が演題トップ10に選出されると共に発表された。万波医師は,賞金1000ドルを授与され,滞在費が免除される招待講演の栄誉にも輝いた。米国移植外科学会のゴーラン・クリマトム会長は,万波医師らが行なった修復腎移植について,「新しい方向性を示しており,大変興味深く大きな前進だと思いました。アメリカでは腎移植の待機期間が1~5年と比較的短いですが,ドナーが不足している国や地域では,認知されて広まり定着するのではないでしょうか。更なる追跡調査は必要ですが,移植を待つ患者さんにとって一般的な選択肢の一つとなる可能性は大きく,ドナー不足の解消にも繋がっていくのではないでしょうか」と語った。

ⅴ 2007年春に東京・大阪で開催された「第1回国際腎不全シンポジウム」で講演した米国臓器配分ネットワークのティモシー・プルート会長は,「アメリカでもドナーが不足しているため,昔ならリスクがあるために敬遠されていたドナーの臓器でも,安全性に配慮しながら移植するケースが増えています。病気が転移しないことを前提として,修復腎移植を高く評価して支持しています。アメリカでは,ここ数年,政府が主導して,社会全体にさまざまな方法で臓器移植を増やしていこうとの気運が高まっています。修復腎移植はその流れにかなって,革新的で新しい方向性を示しているとして評価されたのではないでしょうか。何事も変化をもたらすことは難しく,大変な挑戦だと思います。」とコメントした。

ⅵ 移植関係で最も権威のある医学雑誌「アメリカン・ジャーナル・オブ・トランスプランテーション」にも修復腎移植42例の論文が掲載され,革新的治療として評価されるに至り,修復腎移植の国際的認知度はさらに高まった。

ⅶ 2008年8月1014日,豪シドニーで国際移植学会主催の「第22回国際移植学会議」が開催され,藤田准教授が,世界における過去の修復腎移植例を文献から収集し,その歴史やこれからの可能性について口頭で発表し,また,万波医師が小径腎がんの修復腎移植症例を日豪の合計症例として(甲C21P26)),藤田保健衛生大学の堤教授が日本で修復腎移植が実施された場合に予測される手術可能性(甲C2)について、それぞれポスター発表した。また、現地豪クィーンズランド大学のデイヴィッド・ニコル教授が,自らの55例を発表し,注目を浴びた。

ア 藤田准教授の発表内容(甲C21P1215))

い 研究対象には,生体ドナーまたは死体ドナーで偶発的に見出された様々な疾患例も含まれており,分かっているものだけで,これまで世界で199症例が認められ,その内21症例が良性腫瘍,112症例が良性疾患,8症例が尿管がん,58症例が腎細胞がんだった。

ろ オーストラリア等で積極的に行なわれている小さな腎細胞がんの修復腎移植については結果が良好で,がんの転移はない。また5年間の患者の生存率や移植臓器の生着率は,通常の生体ドナーあるいは死体ドナーと比較すると若干劣る。しかし,オーストラリアの症例ではレシピエントの年齢が比較的高く,日本でもドナーのほぼ半数が70歳以上と極めて高齢であるためで,ドナーの年齢を通常の移植に合わせて修正した場合,生体ドナー及び死体ドナーと概ね同等になる。

は 死体ドナーの症例の大部分では,潜在がんを評価する為の超音波,CTスキャン,腫瘍マーカー検査は実施されない。最近では,より多くの高齢ドナーを受け入れるようになってきているので,悪性腫瘍の病歴のないドナーの臓器にも潜在がんの可能性は高いといえる。これと比較して,修復腎移植の場合には,ドナー評価が詳細に行なわれる。腫瘍があることを私達は承知しているが,同時にその他の部位には腫瘍がないことも私達には分かっている。

に 悪性腫瘍の伝播のリスクの推定は可能であり,部分切除患者ではおそらく5%までである。これは実際には待機リスト状態で死亡するよりも低い数値である。これらのことを顧みれば,修復腎移植は,健康な生体ドナーから入手した腎臓の使用よりも倫理的に妥当だと思われる。

イ ニコル教授の発表内容

い 他の疾患に関する画像診断で腎細胞がんが発見されるケースが非常に増加している。また,腎臓の切除が行われる最も一般的な理由は腎がんである。治療として,開腹での根治的腎摘出術(全摘出),腹腔鏡下根治的腎摘出術,部分腎摘出術(部分切除)の3つの選択肢があるが,これらは,個々の患者や泌尿器科医の判断により,どれも広く用いられている。部分切除は一般に望ましいとされるが,実際には広く行なわれているわけではない。米国の最近のデータを見ても,2~4cmの腫瘍では僅か10%に過ぎない。クリーブランド・クリニックのような大規模施設の報告から見積もっても,過去10年でさほど変化していない。

ろ 移植の待機リスト中にいる60歳以上の透析患者の年間予想死亡率はおよそ20%で,オーストラリアでは,死体ドナーからの移植の待機期間は4~5年の為,修復腎移植を受けることが出来ない場合,多くの患者の命が失われる現実がある。

は 今年の5月までに55例の修復腎移植を行い,殆どの移植腎は機能し続けている。そして,修復腎移植の件数は増加しており,昨年行なった生体ドナーからの移植のうち,全体の20%を占め,非常に重要な臓器提供源となりつつある。

ⅷ ニコル教授が行なった修復腎移植43例に関する論文は,BJUIBritish Journal of Urology International)に掲載された(甲C21P2023))。

6 修復腎移植によって移植可能な腎臓が急増すること

50歳以上の一般市民を対象としたアンケート調査によると,小径腎癌になった場合,42%が全摘を希望し,その場合70%が腎提供に同意している。よって,推定ドナー数は783件となり,2012年の死体由来腎183件の4倍以上の「第三のドナー」が得られることとなる(甲C66P26))。



第3 患者の自己決定権

1 レシピエントの自己決定権

修復腎移植を受けることに,一定のリスクがあることに疑いはない。しかし同種のリスクは一般の腎移植(とりわけ死体腎移植)にも存するし,そもそも「移植を受けずに透析を継続する」ことにしてもリスクを伴う選択である。最も重要なことは,患者(レシピエント)が修復腎移植という医療技術について正確な情報を受け,正確な助言を受け,その情報と助言に基づいて自分自身の判断として修復腎移植を「選択できる」ということなのである。「人工透析を続けて緩慢な死に甘んじるよりは,一定の危険を冒しても修復腎移植を受ける」という選択は,本来,患者自身の人権である。治療を受ける権利として,当然尊重されなければならない。

2 ドナーの自己決定権(全摘か部切か)

腎臓等の疾患を有するドナーの側にも、腎臓全部摘出か部分切除かを選択する権利がある。特に小径腎ガンの場合には患者は、部分切除では残存部分の小さなガン細胞からガンが再発するリスクを負うのであるから、全部摘出を選択するのは患者本人の侵すべからざる権利である。したがって、「全摘して臓器を腎不全患者の役に立てる」という選択をすることも、患者(ドナー)自身の意思決定・権利行使として尊重されなければならない。


第4 修復腎移植の医療技術としての総括的評価と治療を受ける権利の尊重

以上述べたところから明らかなように,修復腎移植は慢性腎不全の患者に対する治療方法として優れており,相当の実績と生存率・生着率によって国際的に高く評価されており,日本の腎移植の現状からすると移植可能な腎臓を急増させる優れた方法であることは明らかである。このような医療技術をレシピエントやドナーが選択することは,患者の自己決定権として尊重されなければならない。とりわけ,慢性腎不全患者の修復腎移植を受ける権利は,治療を受ける権利として尊重されなければならない。


by shufukujin-report | 2014-07-10 06:29 | 26.7.1最終弁論詳細(1)
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