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27.3.20修復腎移植訴訟 控訴理由書(1)


平成26年()第402号損害賠償請求控訴事件

控訴人  向 田 陽 二  外3名

被控訴人  大 島 伸 一  外4名

控訴理由書

2015年1月日

高松高等裁判所第2部  御中

控訴人ら訴訟代理人

弁護士  岡  林  義  幸

弁護士  薦  田  伸  夫

弁護士  光  成  卓  明

第1  原判決
原判決は,①透析の負担やリスクを述べた上,透析に比べ腎移植の生存率が圧倒的に優位にあることを認め,また,献腎移植に提供される腎臓の漸減傾向が続いており,献腎移植希望患者の平均待機期間が約16.7年にも及ぶことを認め,更に,修復腎移植によって腎癌の腎臓約2000個及び尿管癌の腎臓約200個が修復腎移植の移植腎となり得ると試算されていることを認めながら,修復腎移植に否定的な見解と肯定的な見解とを単に並列的に並べ,②修復腎移植については肯定的見解と否定的見解がある上,倫理的ないし手続的に問題のある実施例も見受けられたのであり,未だ諸条件が整っているとは言い難いとして,原告らに,修復腎移植を選択肢の一つと認めたうえで,これを選択し,受ける権利があると認めることは出来ないとし,③慢性腎不全患者の置かれた状況に鑑みれば,修復腎移植に対する原告らの期待は法律上保護された利益(民法709条)であるといえるとしながら,被告らの本件各言動は社会通念上許容される範囲を逸脱した表現であるとはいえず違法であるとは認められないとし,④被告らの本件各言動によって本件ガイドライン改正を行わせたと認めることは出来ないと各判示した。
以下,原判決の認識の誤りを指摘した上,上記①~④について逐次反論する。

第2  原判決の認識の誤り

本件は,慢性腎不全患者であり,透析を受けている者,あるいは既に(修復)腎移植を受けたが移植腎の機能が廃絶する恐れのある者が,被告らの言動によって修復腎移植の道を断たれたために,その被告らの言動によって修復腎移植を受ける権利が侵害されたとして損害賠償を求めた事案である。

これに対し,原判決は,「本件各言動のような意見の表明が,反対意見を有する者に対する違法な行為となるのは,その意見の内容や表現行為の態様に照らし,ことさら反対意見を封殺すべく攻撃的言動に及ぶなど,社会通念上許容される範囲を逸脱した表現である場合に限られるというべきである。」(17~18頁)と判示し,また,判決末尾に異例の「慢性腎不全に対する治療方法の発展を願う患者ら及び医療従事者の真摯な思いに鑑みれば,国内での研究,議論の進展ならびに患者及び医療従事者の対話と相互理解によって,慢性腎不全に対する優れた治療方法の実施に向けた様々な取り組みがなされることが望まれる。」という記述をしている。

本訴提起直前に,原告予定者であった訴外下西由美と訴外有末佳弘の2名が相次いで死亡した。本訴提起後にも,原告長谷川博,原告花岡淳吾,原告二宮美智代の3名が死亡した。その上,本件控訴後に,原審で原告本人尋問を行った原告藤村和義が死亡した。その死亡者の合計は6名であり,透析を受けていた原告(予定者)全員が死亡し,残った原告3名は全員(修復)腎移植を受けた者だけとなった。

この冷酷な現実からも,修復腎移植が,慢性腎不全患者にとって正に命の選択であることが明らかである。その命の選択を妨げた被告らの言動の違法性を問う裁判であるにもかかわらず,原判決は,上述したように,単なる意見対立の場面と誤認した上,命の選択にとって余りにも悠長な記述をしているのであって,このような原判決の認識の誤りは余りにも深刻であるといわざるを得ない。

第3  修復腎移植についての見解(上記①)

透析に対する腎移植の優位性,献腎移植に提供される腎臓の漸減傾向が続いており献腎移植希望患者の平均待機期間が約16.7年にも及ぶこと,修復腎移植によって腎癌の腎臓約2000個及び尿管癌の腎臓約200個が修復腎移植の移植腎となり得ると試算されていることは原判決が正当に証拠によって認定する通りである。

ところが,原判決は,修復腎移植についての見解に至るや,突如として証拠による認定を放棄し,修復腎移植に否定的な見解と肯定的な見解とを単に並列的に並べるに留まった。証拠による事実認定の放棄に問題があるばかりか,次項以下の修復腎移植を受ける権利や修復腎移植に対する原告らの期待の保護の判断にも直結する極めて重大な問題である。

修復腎移植を否定する被告らの見解の誤りは以下に述べるとおりであるが,被告らは,自らの見解に都合の良い古い学説等をつまみ食いするだけで,それ以外の学説等は全く検討しておらず,自らの見解の検証すらしていない(大島本人調書34項,35項,58~61項)

(1) 悪性腫瘍の伝播

(ア) 被告らの見解

a 被告らは,悪性腫瘍が移植によってドナーからレシピエントに伝播する危険があるので,悪性腫瘍患者をドナーとする移植は絶対に禁忌であって許されない旨主張する(答弁書7~8P,第2の2(2)②ⅰ)及びⅱ))。

b 最も端的な主張は,超党派議員勉強会での被告寺岡の以下の説明である。
 「癌は移植しても発症しないとよく言われていますが,全くの間違いでありまして,これは様々な国際統計で明らかにされています。若干,「古い統計」ではありますが,43%の癌が,ドナー以外の癌が,発症しております。「最近のUNOSの統計」でも4.3%が発症しています。これは癌が完治して5年以降に提供した場合にでも4.3%がうつる可能性がありますと示しています。」

(イ) 反論

a ペンの学説に依拠する主張について
被告寺岡の前記発言にいう「古い統計」とは,米シンシナティ大学のペン教授の1997年の論文を指すところ(「移植により担癌ドナーから癌が持ち込まれる可能性が高い」と唱え,世界の古い移植法の制定に大きな影響を与えた。以下,「ペン学説」という。),ペン学説により,その後しばらくの間,移植臓器に発生する癌は,「すべてドナー由来」,つまり移植による持ち込みだと考えられてきた。しかしながら,レシピエントに癌が発生したからといって,その癌がドナーから持ち込まれたのか,レシピエント固有の癌だったのか分からない。両方の可能性があることは明らかである。ドナーの癌がレシピエントに移ったことの証明には,レシピエントの癌細胞がドナーと同じ遺伝子を持つことが必要である(このことは吉田証人も認めている(吉田証人調書185項))。
現在では以下のとおり,その後の研究によって,臓器移植患者に発生する癌は,ほとんどがレシピエント固有の癌であったことが判明している。ペン学説は,遺伝子解析が行われていなかった古い時代の誤った説であり,被告らの主張には医学的根拠がない。

b イタリアのペドッティ博士らは,2004年,腎移植後に発生したレシピエントの癌について,6ヶ月以内に発生した10例と6ヶ月以後に発生した10例について腫瘍のDNAを,ドナーとレシピエントのDNAと比較したところ,DNA抽出に成功した17例中16例(94%)でレシピエント由来と判明し,残り1例では用いたSTR法という検査法では決定できなかったと報告した。

c 米シンシナティ大学のペン教授の後任教授であるブエル教授は,2005年,ペン教授の「移植腫瘍登録」症例の中に,小径腎癌を切除後に移植した14例があることを見つけ,長期追跡したところ1例も再発がなかったと報告した(甲C3)。

d 米ピッツバーグ大学とイタリア国立移植センターで大規模疫学的研究がなされたところ,当該研究に関する2007年1月のタイオーリらの発表では,癌のリスクのある108例の臓器移植について癌の転移はなかったと報告された(甲A46C4C13)。

e ニコル教授は,2007年7月現在,43例の修復腎移植を行っているが,成績は良く,レシピエントへの癌の転移は1例もない(甲A42)。

f スペイン・バルセロナ大学のボイス博士らは,2009年,移植後14年目の腎臓に発生した腎癌のDNAを解析し,それがレシピエント由来であることを証明した(甲C66P121315行))。

g カウフマン論文に依拠する主張について
被告寺岡の前記発言にいう「最近のUNOSの統計」とは,UNOS(全米臓器共有ネットワーク)のカウフマン論文(移植腫瘍登録:ドナー関連悪性腫瘍【トランスプランテーション誌2002742号】)を指すところ,当該論文では,34,933件の脳死臓器移植のうち,ドナーによる癌の持ち込みがあったのは15件(0.043%),ドナーの血液細胞が癌化した例が6件(0.017%)あったと指摘し,「米国では,ドナー臓器による癌の持ち込みは極めて少ない。移植待ち期間の患者死亡率の高さに比べると,担癌ドナーの受け入れに伴う危険率は低いので,ドナー基準の拡大を図るべきだ」と主張している。被告寺岡は,「癌のリスク」を強調するためか,「0.043%」を「4.3%」と100倍に水増ししている(甲C66P12の下から9行目~P13の2行目))。

h 「悪性腫瘍の伝播」と「部分切除」との矛盾
「悪性腫瘍が移植によって伝播する」という主張は,小径腎癌の治療法として部分切除を称揚し,腎臓の全部摘出を批判する被告らの主張と矛盾している。
何故なら,部分切除においては,小径腎癌の部分のみを摘出しその余の部分を患者に残すのだから,切除しなかった部分から癌が再発するリスクは常に存する。しかも,部分切除術の場合には修復腎移植と異なって,腎臓を全部摘出したうえで癌の残存について精査することもできないから,癌の再発のリスクは修復腎移植における癌の伝播のリスクよりもさらに高いことは明らかである。
にもかかわらず被告らは,小径腎癌の治療法としては部分切除をより適切なものとしつつ,小径の癌病変部分を除いた摘出腎臓を移植することを激しく非難している。このような姿勢ははなはだしく自己矛盾しており,科学の名に値しない非合理なものである。被告らのこの点を理由とする修復腎移植批判がご都合主義にもとづく「為にする」ものであることは明白である。

(2) 腎臓全摘出(全摘)

(ア) 標準治療

a 被告らの主張
被告らは,「小径腎癌の標準治療は部分切除であり,全摘は許されない」と主張し,腎移植関連5学会も,直径4㎝未満の癌がある腎臓を用いる「修復腎移植の臨床研究」をもとになされた先進医療認可審査において,連名で厚生労働大臣宛に「要望書」を提出し,「小径腎癌の標準的治療は部分切除であり,腎摘出は許されない。」と主張している(甲B34。答弁書7P第2の2(2)①ⅳ)もおそらく同旨)。

b 反論
被告らの主張は,癌が発生した部位により部分切除が不可能なケース,設備等の理由で部分切除ができないケース,患者が部分切除よりも全摘を希望するケースがあることを無視ないし軽視しているばかりか,現実の全摘の実施件数や割合を考慮していない点で暴論としかいいようがない。
・藤田保健衛生大学の堤教授が2007年3月に国内の14病院での腎臓の全摘割合を調査したところ,病院間でのばらつきが大きく,かつ,小径腎癌で93%が全摘であった(甲C1)。
2008年2月27日に「腎移植を考える超党派議員の会」の第2回会合が開かれ,厚生労働省から西山健康局長,原口臓器移植対策室長,木倉大臣官房審議官などが出席した。この日,厚生労働省から議員団に対して,議員団がかねてから要求していた「腎摘出の現状」と題する報告書(甲B30)が提出された。それによると,直径4㎝未満の小径腎癌の全摘率は82.5%で,上記①の堤発表の数値とほぼ一致していた。
・堤教授,アメリカ・フロリダ大学の藤田士朗教授,および瀬戸内グループの医師らは,2008年,2大学病院を含む国内の10病院の病理医に対して,2004年から2006年の間における小径腎癌の手術調査を行ったところ,全腎癌数のうち46%が小径腎癌で,小径腎癌の全摘割合は83%であった(甲C2)。
・アメリカのホレンベックBK外による2006年2月の論文によると,アメリカの66000例の腎癌手術のうち,部分切除は7.5%(全摘は92.5%)であった(甲C9)。
201011月の日本泌尿器科学会雑誌(甲C41)においても,2007年~09年の間に教育施設において行われた部分切除術は全体の19.7%しかない(原告ら準備書面(13)の第1)。
2011年3月の日本泌尿器科学会雑誌(甲C42)では,全摘と部分切除についての議論,報告がなされているところ,症例によって全摘と部分切除とが選択されるべきであるとされ,また,大病院においてさえ部分切除の方が圧倒的に少ない(原告ら準備書面(13)の第2)。
・学会提出の「要望書」に記載されている「小径腎癌の標準的治療は部分切除であり,腎摘出は許されない。」旨の主張を確認するため,厚労省は学会に日本のデータの提出を求めたが,学会が応じなかったため,厚労省は独自に全国の癌拠点病院に対してアンケート調査を行った。その結果は,2001年は全摘71%,部分切除29%,2005年は全摘70.6%,部分切除29.4%,2009年は全摘58.4%,部分切除41.6%,2011年は全摘46.7%,部分切除53.3%であった。すなわち,修復腎移植が被告らによって批判された2005年(平成17年)頃では,7対3の割合で圧倒的に全摘が多く,要望書が提出された2011年当時においても,ほぼ半々の割合で,医療現場の現実は,とても,「小径腎癌の標準的治療は部分切除であり,腎摘出は許されない。」という状況ではない。
・被告らが所属していた大学病院への調査嘱託の結果においても,小径腎癌でさえ,部分切除より全摘の割合が高かった(原告ら準備書面(15))。
・世界的権威のある医学書であるキャンベル・ウォルシュ・ウロロジーでも,直径4㎝以下の小径腎癌でも全摘は標準治療とされている(甲C11 )。(このことは吉田証人も認めている(吉田証人調書179180項))

(イ) 全摘と部分切除とで,ドナーの予後に差はあるか

a 被告らの主張
被告らは,全摘と部分切除とではドナーの予後に差がある旨(答弁書16(5)②「全摘を行うことにより生命予後が悪化することが統計上明らかになっている」),及び,瀬戸内グループの行った修復腎移植の内の尿管癌のドナーの生命予後(5年生存率)が悪い旨(同旨,乙51,吉田証人調書1921項),主張する。

b 反論
・「統計上」とは何を意味しているのか明確でないが,乙第29号証(ヒューストン・トンプソンらの論文)を意味するのであれば,それに対する反論は,原告らの準備書面(4)の第4記載のとおりであって,上記論文が被告らの主張の根拠たり得ないことは明白である。
・米クリーブランド・クリニック(米国トップレベルの病院)泌尿器科の1995年1月の調査研究では,単発性,小径(4㎝以下),限局性,片側性,かつ特発性の腎細胞癌を持つ患者を対象とした88名の患者(全摘:42名,部分切除:46名)について予後の調査(48±29カ月)を行ったところ,年齢,性別,腎臓機能,糖尿病,高血圧,腫瘍の大きさ,腫瘍の位置,腫瘍の進行度において差異は認められず,全摘,部分切除,のいずれも,小径腎癌の患者の治療には安全で効果があるとされている(甲C15)。
・米メイヨー・クリニック(同じく米国トップレベルの病院)泌尿器科の1996年6月の調査研究では,低進行度(ステージⅡ以下)の腎細胞癌の患者につき,185名の部分切除を受けた患者と,それらと年齢,性別,癌の進行度,悪性度が適合し,かつ全部摘出を受けた209名の患者について比較検討したところ,総生存率,非再発生存率,癌特異生存率のいずれも有意な差は認められなかった(甲C14)。
・米ミネソタ大学のハッサン・イブラヒム外の2009年1月29日付論文では,腎臓の全摘出は,糸球体濾過量(GFR)の低下を促すものではなく,生命予後の悪化も認められないとされている(甲C51。原告ら準備書面(17)参照)。
・キャンベル・ウォルシュの「ウロロジー」においても,全摘と部分切除の効果は同様で,術後の生存率にも差異がないとされている(甲C54)。
・日本では,これまで全摘のドナーの予後についての調査は行われていなかった(吉田証人調書159172項,被告大島調書186187項)。すなわち,被告ら自身,これまでドナーの予後のデータを全く把握していなかった。
・また,吉田証人および被告大島は自身,ドナーに対して,片方の腎臓を摘出すると生命予後が悪くなるという説明(インフォーム)をしていない(吉田証人調書175177項,被告大島調書114項)。

(ウ) 自家腎移植
被告らはまた,「移植して使える腎臓なら元の患者に戻すべきである」旨主張する(なお,こうした術式を「自家腎移植」と呼ぶ)。
しかしながら,実際の医療現場では,自家腎移植はほとんど行われていないことは,被告らが所属していた日本におけるトップレベルの大学病院への調査嘱託の回答からも明らかである(原告ら準備書面(9)で詳述した)。

(3) 切除の際のドナー体内の癌転移

(ア) 腎血管(動・静脈)の結紮・切離の順序について

a 被告らの主張
・被告らは,答弁書P5(第2の22)①ⅱ))において,以下のとおり主張する。
・移植を前提とした術式と癌治療を前提とした術式は,その手術内容・順序が全く異なる。
・癌治療を目的とした腎臓摘出の方法であれば,手術操作による癌細胞の血管性転移を防ぐため,摘出に際し早い段階で腎血管(動・静脈)を結紮・切離す。これにより,出血量を最小限に止めることが可能であるだけではなく,特に,腎癌・尿管癌の場合には,癌細胞が血行性に転移することを防止するために,先ず,血流を遮断して臓器(腎臓)を摘出する。
・移植目的の手術(移植用腎採取術)においては,臓器の虚血を防いで臓器機能を維持し,移植を成功させる確率を上げる観点から臓器摘出の最終段階に至るまで血流を維持する必要がある。
今回問題とされた病腎移植においては,腎癌・尿管癌の治療であるにもかかわらず,最終段階で腎血管(動・静脈)が結紮・切離されるという移植目的の手術の手順をとっており,血行性に癌細胞の播種の危険を増大させ,癌などの悪性腫瘍の手術の術式として容認できない内容のものとなっている。

b 反論
・下部尿管癌に関しては,尿管への血流を支配している血管は腎血管(腎動・静脈)だけではない。特に,尿管の中部から下部は,主に腹部大動脈や腸骨動脈など,腎臓以外の血管から血液供給を受けているため,腎臓への血流のみを止めることは重要な意味を持たない(甲C16)。
・よって,腎血管(動・静脈)の結紮・切離をいつの段階でするのかは問題とならない。
・そもそも,被告ら主張の根拠となるような資料,文献すらない。
・小径腎癌に関しては,最近は,小径腎癌の治療方法として,腎臓の全部摘出よりも部分切除の方が推奨されるようになってきたが,小径腎癌の部分切除の場合,癌病巣切除時の出血を止めるために,止血鉗子による腎血管(動・静脈)の一時的止血(結紮・阻血)が必要となり,これにより腎臓に「温阻血時間」(※)が生じる。よって,小径腎癌の部分切除では,腎臓の「温阻血時間」をできるだけ短くするため,止血鉗子による腎血管(動・静脈)の一時的止血(結紮・阻血)を癌部分の切除をする直前に行う(腎血管【動・静脈】の血流を可能な限り維持する)。
・このことは,腎血管(動・静脈)の結紮の順序は問題とならないということを示すし,小径腎癌の治療方法として部分切除が相当であると主張しながら,早い段階で腎血管(動・静脈)を結紮・切離しなければならないと主張するのは,矛盾主張である。
・小径腎癌の全摘と部分切除では,血管の処理の時期が異なっても遠くへ腎細胞癌が転移する確率は同じであり,血管処理の時期の相違で転移する確率が異なると述べる文献はない。
※ 臓器の血流が止まってから臓器を移植して血流が再開するまでの時間を阻血時間というが,とくに体温の状態で阻血がおこると,細胞の代謝が行われているにもかかわらず,酸素や栄養が補給されないため細胞が死滅するので,この時間を〈温阻血時間〉と呼び,心臓や肝臓では0分,腎臓や肺では30分とし,早く臓器を冷やして細胞の代謝を抑えるようにしなければならない。心臓が動いている脳死の状態で摘出すれば,障害のないまま取り出すことができ,温阻血時間も短くできる。

(イ) 尿管癌の尿管の切断

a 被告らの主張
被告らは,被告ら準備書面(11)P6~7(第6の1項)において,以下の通り主張する。
「尿管癌は,多中心性(1つの臓器に複数の癌病巣が発生する現象のこと)に発育することが多く,肉眼的に一見正常に見えても,顕微鏡で見ると,尿管癌の微小癌巣が存在することがあり,そのため尿管癌の手術においては,(尿管を切断せずに)腎・尿管・膀胱壁の一部を一塊として摘出することが原則とされているのに,瀬戸内グループが行った尿管癌の術式は,尿管を途中で切断するという手術手順を取っており,尿管癌が腎提供者となったドナーの体内に散布された可能性は否定できない。」
また,被告らは,ヨーロッパ泌尿器科学ガイドライン(乙44)においても「尿管を切断することは腫瘍を播種させる可能性があるため,行ってはならない」と記載されている,とも主張している。

b 反論
・尿管癌の手術は,摘出された腎臓を移植に用いるかどうかに関係なく,腎臓,および尿管の全部摘出である。このことについては,原告ら,被告ら間に争いはない。
・なお,摘出された腎臓及び尿管は,その後,廃棄されるのが通常であるのに対し,尿管癌の場合の修復腎移植(なお,修復腎移植に適応する尿管癌は,尿管の下部【膀胱に近い部分】に癌が発生した「下部尿管癌」のみで,尿管の上部【腎孟を含む腎臓に近い部分】や尿管の中部に癌が発生した上部尿管癌,中部尿管癌では修復腎移植は行わない。)では,癌が存する部分の尿管を切除して摘出された腎臓をレシピエントに移植する(当然,尿管は短くなる。)。
・腎臓及び尿管を全部摘出する方法として,尿管を途中で切断することなく,腎臓,尿管および膀胱壁の一部を一体として摘出する方法と,肉眼的に正常と思われる部分の尿管を途中で切断した後に,腎臓,尿管,および膀胱壁を摘出する方法とがあることに関し,被告らは,「尿管を途中で切断した後に,腎臓,尿管および膀胱壁を摘出する方法は,許されない。」,「腎臓,尿管および膀胱壁の一部を一体として摘出されなければならない。」と主張しているのである。
・しかし,「尿管を途中で切断する」というのは,癌がある尿管部分を切断するのではない。「肉眼的に正常な部分の尿管を切断する。」ということである(なので,癌の播種はそもそも問題とならない)。
・尿管を途中で切断することなく,腎臓,尿管および膀胱壁の一部を一体として摘出する方法だけではなく,肉眼的に正常な部分の尿管を途中で切除した後に,腎臓,尿管,および膀胱壁を摘出する方法も,標準治療として認められている。
・世界的権威が認められている医学書であるキャンベル・ウオルシュ「ウロロジー」(甲C17C53)でも,「(尿管の)管腔からの腫瘍の漏出を防止するために尿管と腎臓の連続性を保持することも考えられる。しかし罹患した腎臓は処置が困難であり(腎臓に脂肪が付き過ぎたりして手術操作に支障をきたす場合等のこと),遠位尿管(「下部尿管」のこと)で肉眼による異常が認められない部位において結紮またはクリップ間で切断される限りにおいてはこの処置(尿管を切断することなく尿管と腎臓の連続性を保持すること)は不要である。」と記載されている。すなわち,尿管を途中で切断することなく,腎臓,尿管および膀胱壁の一部を一体として摘出する方法だけではなく,肉眼的に正常な部分の尿管を途中で切除した後に,腎臓,尿管,および膀胱壁を摘出する方法も,標準治療として認められているのである。
・乙44には,一見被告らの主張に沿うかのごとき記載がある。しかしながら,この記載に続く部分「4.2保存的治療」の部分では,「過去何十年に渡り,限られた適応での保存的治療は,根治術の生存率に引けを取らないことが示されている。」,「多くの泌尿器科医が尿管癌がUS(下部尿管癌)に存在する場合,例え浸潤癌であっても,腎温存手術を施行している。」と記載されている。この部分は尿管癌の場合の腎臓の保存的治療について記述したものであり,「保存的治療は否定されない」旨を述べているものである。
・ところで,尿管癌の場合の腎臓の保存的治療を行うに当たっては,尿管にできた癌を切除する必要があるので,必ず,尿管を途中で切断することになる。したがって,乙44は,尿管部分を途中で切って摘出するという手術法を価値あるものとして認めているものであるから,被告らが乙44を根拠として上記術式が「絶対やってはいけない手術法」である主張するのは完全な誤り,もしくは悪質な誤導である。
・また,乙44は,2004年(平成16年)のヨーロッパ泌尿器科学会ガイドラインであるが,その2012年(平成24年)版(甲C71‐1,2)(「3.7.11 根治的腎尿管摘除術」項)は,「上部尿管にある腫瘍の位置に関係なく,膀胱カフを切除する根治的腎尿管摘除術がUUTUCCのゴールドスタンダード治療である(LE:3)(8)。RNU手技は,腫瘍切除中に尿管への進入を回避することによって腫瘍の播種を予防するという播種学的原則に従っていなければならない(8.69)」と述べている。このことからも,乙44を「尿管の切断は腫瘍を播種させる可能性があるため,行ってはならない」としているとする被告の主張は誤りである。
「腎臓の保存的治療」とは,尿管癌が発生した方の腎臓を全部摘出するのではなく,腎臓を残す治療のことを言う。主に,尿管癌が発生した方の腎臓とは別のもう一つの腎臓が機能していないなど,どうしても尿管癌が発生した方の腎臓を残さなければならない場合に行われる。
吉田証人は,以下のとおり証言した。
血管処理の時期の相違(最初にくくるのか,最後にくくるのか)で,癌が転移する確率は異なると記載されている文献は知らない(吉田証人調書183項)。
・最近は腎癌の部分切除の割合が高まっているが,部分切除の手術方法は大きく分けて2つある。腎動静脈に非常に大きな血管に近いところを部分切除するときは,そこを取るという瞬間に駆血して,取った後に解放する。部分切除の非常に小さい4センチ以下,あるいは2センチぐらいの腎癌に関しては,駆血しない(血流を止めずに,そのまま癌部分を切除する。)(吉田証人調書192193項)
・従って,血管処理の時期の相違により癌転移の危険が高まるという被告らの主張には文献上の根拠がないことが明らかであるし,小規模な小径腎癌の部分切除が「血流による癌細胞の転移」の危険は無視できるものとして行われている以上,被告らの主張が為にするものでしかないことは明白である。

また,原判決は,倫理的ないし手続的に問題のある実施例も見受けられたのであり,未だ諸条件が整っているとは言い難いとしたが,「倫理的ないし手続的に問題のある実施例」は何も修復腎移植に限ったものではなく,生体腎移植等の場合にも認められるものである上,より本質的な問題として,このような手続論によって修復腎移植自体の評価が左右されるようなことは論理的にあり得ない。

第4  修復腎移植を受ける権利(上記②)

レシピエントの自己決定権
修復腎移植を受けることに,一定のリスクがあることに疑いはない。しかし同種のリスクは一般の腎移植(とりわけ死体腎移植)にも存するし,そもそも「移植を受けずに透析を継続する」ことにしてもリスクを伴う選択である。最も重要なことは,患者(レシピエント)が修復腎移植という医療技術について正確な情報を受け,正確な助言を受け,その情報と助言に基づいて自分自身の判断として修復腎移植を「選択できる」ということなのである。「人工透析を続けて緩慢な死に甘んじるよりは,一定の危険を冒しても修復腎移植を受ける」という選択は,本来,患者自身の人権である。この選択は,上述したように,正に命の選択であって,治療を受ける権利として,当然尊重され,保護されなければならない。

ドナーの自己決定権(全摘か部切か)
腎臓等の疾患を有するドナーの側にも,腎臓全部摘出か部分切除かを選択する権利がある。特に小径腎癌の場合には患者は,部分切除では残存部分の小さな癌細胞から癌が再発するリスクを負うのであるから,全部摘出を選択するのは患者本人の侵すべからざる権利である。従って,「全摘して臓器を腎不全患者の役に立てる」という選択をすることも,患者(ドナー)自身の意思決定・権利行使として尊重されなければならない。

修復腎移植の医療技術としての総括的評価と治療を受ける権利の保護
上述したところから明らかなように,修復腎移植は慢性腎不全患者に対する治療方法として優れており,相当の実績と生存率・生着率によって国際的に高く評価されており,日本の腎移植の現状からすると移植可能な腎臓を急増させる優れた方法であることは明らかである。このような医療技術をレシピエントやドナーが選択することは,患者の自己決定権として尊重され,保護されなければならない。とりわけ,慢性腎不全患者の修復腎移植を受ける権利は,治療を受ける権利として保護されなければならない。

にもかかわらず,原告らが納得できるような理由も示さないで,これを否定した原判決の誤りは明白である。


# by shufukujin-report | 2015-03-06 14:00 | 27.3.20控訴審 控訴理由書(1)

27.3.20修復腎移植訴訟 控訴理由書(2)

(続き)


第5  修復腎移植に対する原告らの期待の保護(上記③)

原判決は,修復腎移植に対する原告らの期待は法律上保護された利益であるとしながら,被告らの言動は社会通念上許容される範囲を逸脱したものではなく,違法ではないとした。しかし,被告らの言動の評価は余りにも甘きに過ぎ,正当ではない。

原判決も一部認めているように,被告らの発言内容は,以下のように,誇大であり,かつ断定的である。しかも犯罪の成立まで示唆している。医学の素人ならともかく,医師であり移植学会幹部である被告らの発言内容として,社会通念上許容できる範囲を明らかに逸脱している。

(1) 被告大島

(ア) 「移植の倫理以前に,医療として問題が大きすぎる」

(イ) 「他人に移植して使えるほど『良い状態』の腎臓を摘出していることがまず医学的におかしい」

(ウ) 「腫瘍を取り除いて移植したとしても,かなり高い確率で再発する」

(エ) 「癌の腎臓を移植するのは常識でもあり得ないし,医師として許されない」

(オ) 「癌の場合,移植を受けた患者が癌になる可能性があり,絶対にしてはいけない」

(カ) 「悪性腫瘍についてはどのような癌であっても,癌の臓器そのものを移植することは絶対禁忌であるだけでなく,癌患者からの臓器の移植も特殊なケースを除き禁忌となっている」

(キ) 「このような医療は絶対に容認できない」(甲B22)

(2) 被告高原

(ア) 「米国には生体腎移植時のルールはないが,死体腎移植では悪性腫瘍が絶対禁忌になっている」

(イ) 「市立宇和島病院で万波医師が実施した移植25件を調べた結果,生存率や,…生着率が通常の腎移植と比べて低かった。…極めて低い成績だ。癌が持ち込まれた可能性も否定できない」

(ウ) 「市立宇和島病院データなんですけれども生着率悪いですよね。…半分以上の人が4年で死んでいるんですよ!…第2の薬害肝炎・HIVにしないんです。これ私たちお願いです」

(エ) 「過去に病腎を認めた関係者が罪を問われることになる」

(3) 被告田中
臓器売買に修復腎移植が関係するかのような書簡を送って論文発表の機会を奪った。

(4) 被告寺岡

(ア) 「移植できる腎臓つまり第三者に移植できる腎臓はそもそも摘出してはなりません」

(イ) 「癌は移植しても発症しないとよく言われていますが,全くの間違いでありまして…最近のユノスの統計でも…癌が完治して5年以降に提供した場合にでも4.3%が移る可能性があると示しています」(上述したように,実際には0.043%なのに実に100倍に水増ししている)

(ウ) 「癌の患者さんに移植をする腎臓を摘出手術を行いますと,その患者さん自身の癌細胞をまき散らして癌が再発するリスクを非常に高めるわけであります。

(エ) 「5年以上完治したものをドナーとして提供した場合,それでも残念ながら4.3%の方にドナー由来の悪性腫瘍が発生するという報告がございます。…これはちょっと古い報告になりますが,癌が現存する場合,その方から移植した場合にはドナー以外[ママ]の悪性腫瘍,癌の発症率は43%と言われています。これが一般的な考え方です」

(5) 被告相川

(ア) 「50歳以上のロートルの泌尿器科医は知りませんけど40歳代から50歳代の泌尿器科の専門医であれば先程高原先生が言ったように部分切除です。全て取るなんで[ママ]今の普通の泌尿器科の経験のある先生であればやりません」

(イ) 「40~50代以下の泌尿器科専門医であれば『全て腎臓を取るのは時代遅れ』と考えている」

医学的根拠
被告らの言動には,医学的根拠がないか,あっても(被告らも自認するように)かなり古いものでしかなく,しかも,上述したように100倍に水増ししたり,44を根拠として上記術式が「絶対やってはいけない手術法」であると主張する完全な誤りもしくは悪質な誤導を行っている。

その上,被告らは,発言当時の医学的知見さえ検討していないし,その後の世界における修復腎移植の実施状況や学説の状況も無視し続けている。

被告大島は,修復腎移植について,「見たことも聞いたこともない医療」と発言している。しかし,その発言に先立つ2004年に開催された第99回全米泌尿器科学会においてオーストラリアのニコル教授が小径腎癌の移植について報告した。この学会には,日本からも泌尿器科の専門医たちが参加した上,その日本語のハイライト集(甲C27)が作成され,日本国内の医師に広く配布されている。被告大島は,このハイライト集を見たのか見ていないのか実際には不明だが,本人尋問では知らないで発言したと供述している(大島本人調書46~68項)

被告田中は,2003年に,カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)の移植外科バスッティル教授と連名で「肝移植におけるマージナル・ドナーの利用性」という総説論文(C26)を国際誌に発表している。この論文では,”マージナル(marginal)“という用語の定義が行なわれ,「marginalあるいはextendedドナーという考え方は,移植待ち患者リストの要求に答えるためのもので,初期機能不良または初期機能喪失のリスクがある場合をいう」と述べた上で,「マージナル・ドナーからの臓器は最適とはいえないが,移植待ちの間,死に直面している患者にとって生存の代替策であるので,その利用法を追及する必要がある」と書いている。実際に,このバスッティル=田中論文では,実に118編もの世界文献が引用され,①ドナー年齢の高齢者への拡張,②脂肪肝の利用,③癌患者臓器の利用,④ウイルス性肝炎のある肝臓の利用等が,具体的かつ前向きに論じられている。この総説論文は,「病気の肝臓を出来るだけ肝移植に利用しよう」という主旨のものであり,個人としての被告田中は,”病腎移植“の意義を十分に理解できていたはずである。しかし,”病気の腎臓を移植に使用すること“が現実に日本国内で報道されると,日本移植学会理事長の田中は,敢えて,これを否定する言動に出たのである(C21P42~43)

上述したように,「悪性腫瘍が移植によって伝播する」という主張は,小径腎癌の治療法として部分切除を称揚し,腎臓の全部摘出を批判する被告らの主張と矛盾しているが,被告らは,敢えて,ご都合主義の,為にする主張をしている。

上述したように,小径腎癌に関しては,最近は,小径腎癌の治療方法として,腎臓の全部摘出よりも部分切除の方が推奨されるようになってきたが,小径腎癌の部分切除の場合,癌病巣切除時の出血を止めるために,止血鉗子による腎血管(動・静脈)の一時的止血(結紮・阻血)が必要となり,これにより腎臓に「温阻血時間」が生じる。よって,小径腎癌の部分切除では,腎臓の「温阻血時間」をできるだけ短くするため,止血鉗子による腎血管(動・静脈)の一時的止血(結紮・阻血)を癌部分の切除をする直前に行う(腎血管【動・静脈】の血流を可能な限り維持する)。このことは,腎血管(動・静脈)の結紮の順序は問題とならないということを示すし,小径腎癌の治療方法として部分切除が相当であると主張しながら,早い段階で腎血管(動・静脈)を結紮・切離しなければならないと主張する被告らの主張は,為にする明らかな矛盾主張である。

上述したように,尿管癌の場合の腎臓の保存的治療を行うに当たっては,尿管にできた癌を切除する必要があるので,必ず,尿管を途中で切断することになる。したがって,乙44は,尿管部分を途中で切って摘出するという手術法を価値あるものとして認めているものであるから,被告らが乙44を根拠として上記術式が「絶対やってはいけない手術法」である主張するのは完全な誤り,もしくは悪質な誤導である。被告らは,敢えてこのように完全に誤った主張をし,悪質な誘導をしているのである。

10 上述したように,血管処理の時期の相違により癌転移の危険が高まるという被告らの主張には文献上の根拠がないことが明らかであるし,小規模な小径腎癌の部分切除が「血流による癌細胞の転移」の危険は無視できるものとして行われている以上,被告らの主張が為にするものでしかないことは明白である。

11 原判決は,「高原解析」の問題点を指摘しながら,それを考慮しても違法行為であるということは出来ないと判示したが,看過できない。原判決が極めて重大な「高原解析」の問題を指摘だけに留めた責任は重い。
以下,詳述する。

(1) 修復腎移植の成績は悪くない

(ア) 修復腎移植の成績は一般の死体腎移植と比較して遜色がないが,被告らは,修復腎移植の長期成績が非常に悪いと主張する。被告の主張は,概略以下のとおりである(答弁書8P)。

a 悪性疾患(癌疾患)で摘出された腎臓の5年生存率は48.5%であり,同時期の生体腎移植の5年生存率90.1%と比較してきわめて低い。

b 悪性疾患で摘出された腎臓の5年生着率は15.3%であり,同時期の生体腎移植の5年生着率83.4%と比較してきわめて低い。

(イ) 被告らが主張する修復腎移植の上記数値は,被告高原が発表した研究報告「国外における病腎移植の研究に関する調査」(乙2号証),同じく論文「腎疾患のある非血縁生体ドナーから移植された腎移植患者の低い生存率」(乙47号証の1,2)と共通するものなので,被告らの上記主張が被告高原の解析(以下単に「高原解析」と呼ぶ)を根拠としているものであることは明らかである。被告高原自身も,平成19年3月30日の厚労省における記者発表,及び同20年3月19日の「病腎移植を考える超党派の会」における説明(被告高原の本件加害行為の一部)において,「高原解析」の結果に基づいて発表・説明を行っている(「超党派の会においては被告相川も,「高原解析」に基づいた発言をしている)。

(2) 修復腎移植の成績の解析の本来のありかた

(ア) 医学統計において,異なった患者グループの成績を比較するには,比較する因子以外の患者属性をできるだけ均一化しなければならない(とりわけ患者の全身状態は重要な予後因子である)。異なったリソースの腎移植の成績を相互比較する場合には,生体腎移植・死体腎移植・修復腎移植による区分,あるいは病名による区分だけでなく,ドナー及びレシピエントの年齢,過去の移植歴(いずれも患者の全身状態を反映する指標となる事項である)などを比較するグループ間でできるだけ均一化しなければ,科学的に意味のある比較にはならない。

(イ) 修復腎移植の(長期成績を他種の腎移植と比較する場合の)特性として,以下の各事項が挙げられる。

a 修復腎移植のデータ数が少ない。
瀬戸内グループが行った修復腎移植は総数
42
例であり,一般の生体・死体腎移植と比較するには症例数が少ない(症例数が少なければ少ないほど,成績に関するデータとしての信頼性が乏しくなる)という構造的な問題点がある。

b ドナーの年齢

瀬戸内グループの行った修復腎移植のドナーの年齢は一般の生体・死体腎移植よりも高い。市立宇和島病院の25例では,ドナー22(ネフローゼ患者の両側腎摘出が3人ある)11(50)70歳以上の高齢者である。高齢者の臓器は老化が進んでいることが多いので,こうした臓器の移植の成績は一般に若年者の臓器と比較して悪くなる。他方,日本移植学会のドナー選択基準では65歳以上の高齢者は「好ましくない」とされているので,こうした高齢者の臓器が生体腎移植されることはほとんどない。

c レシピエントの移植回数

瀬戸内グループの行った修復腎移植のレシピエントの中には,移植を受けるのが「複数回目」という者が多い。市立宇和島病院の25例中では,初回7例,2回目12例,3回目4例,4回目2例である。複数回目のレシピエントはいずれも親族からもらった腎臓が機能しなくなり,2回目以後に修復腎移植を受けたものである。こうしたレシピエントは修復腎移植時には腎不全症状が悪化していることが多く,初回移植患者(特に生体腎移植患者)と比較して全身状態が一般に悪い。他方,移植学会のデータの圧倒的多数は(腎移植を複数回受けられる機会に恵まれる患者は日本にはほとんどいないので),初回腎移植のものである。従って,この点で一般の生体腎・死体腎と単純な比較が可能なのは,25例中,修復腎移植が初回移植であった7例のみである。

(ウ) 従って,修復腎移植の長期成績を一般の生体・死体腎移植と比較する場合には,上記の諸点に留意して,実質的・科学的に意味のある比較結果が得られるようにしなければならない。

そのためには,

a データ数を極力増やすことが強く求められる。

b 患者の全身状態による偏差の影響を極力除去するため,ドナーの年齢やレシピエントの移植回数を要素として加えた多変量解析を行うことが望ましい。

c 比較は死体腎移植(献腎移植)との間で行うべきものである。(修復腎移植は多くの場合,腎癌が好発する60歳以上の比較的高齢者の小径腎癌を用いるので,健常者をドナーとする生体腎移植とは単純に比較するべきではない。死体腎移植との比較でなければ科学的意義がない。

(エ) これらを行わずに,数的に限定されたデータを一般の腎移植(とりわけ生体腎移植)と単純に比較するのは非科学的であり,恣意的な比較という非難を免れない。

(3) 高原解析の問題点

高原解析には,以下のとおり,多数の構造的な,あるいは説明不能な問題点がある。

(ア) 解析の基本姿勢にかかる問題点

a データの量が少ないのに,市立宇和島病院の25例のみを用い,呉共済病院・宇和島徳洲会病院の17例を加えないままで解析したこと

b 前項で述べたとおり,母集団の症例数が少なければ少ないほど,成績に関するデータとしての信頼性は乏しくなる。解析の信頼性を高めるには,呉共済病院と宇和島徳洲会病院の症例を加えて「修復腎移植全42例」のデータを使用すべきであった。被告高原はこれに反し,市立宇和島病院の25例のみを用いて解析を行っている。(呉共済病院・宇和島徳洲会病院に対しては,データ提供の依頼が全くなされていない。)

c 多変量解析を行うことなく,単純に生体腎・死体腎移植との比較を行ったこと

前項で述べたとおり,ドナーの年齢は移植される腎臓の適性,レシピエントの移植回数はレシピエントの全身状態という,いずれも移植成績に大きく影響する患者属性であるのに,被告高原はこれを無視して,機械的・単純に死体腎・生体腎(研究報告・論文においては生体腎のみ)のデータと比較する解析を行っている。

d 研究報告・論文において生体腎移植との比較のみを行ったこと

e 使用したデータの質に問題があること

市立宇和島病院においては,25例のうち過半のカルテが廃棄されており,これらについてはデータを人の記憶に頼らねばならなかった。しかも,被告高原が「解析に使用したデータの全部」と称する甲C34号証は,カルテや記憶などを編集した二次データであって,しかも(被告らの主張によれば)当該二次データの作成者や作成経緯は全く不明であった。
従って,高原解析に使用されたデータは質的に非常に劣るものであった。

f 現実に,解析に使用したとされているデータ(甲C34号証)には,以下のとおり,多数の誤謬がある。
現実には死亡していないレシピエントを死亡扱いしている(甲C34号証の⑬の患者。甲C31号証の一覧表の31の患者に該当する)。

現実には死亡している患者を生存扱いしている(甲C34号証の⑭の患者。甲C31号証の一覧表の21の患者に該当する。⑭の患者は④の患者と同一人なので,どちらか片方だけが死亡していることはありえない)。
現実には(国外移転のため)追跡不能の患者を生存扱いしている(甲C34号証の㉒の患者。甲C31号証の一覧表の14の患者に該当する。㉒の患者は㉓の患者と同一人なので,どちらか片方だけが追跡不能であることはありえない)。
死亡患者の死亡日の大半が誤っている(②,④,⑦,⑯,㉔)。
平成12年に手術した患者の移植腎機能廃絶日が平成1年とされている(⑭)。(なお,甲C31C34B8の各証に記載されたレシピエントは,書証により配列が異なるため,やや照合しにくい。そこで便宜のため,各書証に記載された手術日,移植腎の病名,及びレシピエントの性別等の比較の結果判明する対照状況の表を,原告準備書面(27)末尾に添付した)

(イ) C34号証と,それを用いた解析結果として発表された甲B8号証の別表に,重大な齟齬がある。

a C34号証で生存として扱っているレシピエントを死亡扱いにしている(甲C34号証の⑭の患者)。なお上記取扱いは客観的には正しい。

b C34号証で生存として扱っているレシピエントを生死不明扱いにし(甲C34号証の③及び㉒の患者),生死不明扱いにしている患者を生存扱いにしている(甲C34号証の㉓の患者)。この取扱いは,㉒の患者については正しいが,③及び㉓の患者に関しては誤りである。前述のとおり㉒と㉓のレシピエントは同一人で③は別人なのであるが,被告高原はおそらく「③と㉒のレシピエントが同一人で㉓が別人」と誤認したのであろう。

(ウ) このような齟齬が生じた原因は,被告らが高原解析の経緯を全く明らかにしないので推測するほかないが,被告高原が甲C34号証のデータの誤りに気づいて自らデータを収集補正したのか,あるいは解析中の混乱により齟齬が生じたのかのいずれかであろう(前者であれば「高原解析に使用したデータは甲C34号証である」との被告らの主張は虚偽である)。いずれにしても,甲B8号証の内容にも上記(イ)aのような重大な誤謬がある以上,解析がずさんなものであったことは疑う余地がない。

(エ) 被告高原は,このように質的に劣る市立宇和島病院のデータのみを使用し,カルテが完全に保存されていた呉共済病院・宇和島徳洲会病院のデータを使用しないで,解析を行ったものである。

(オ) 解析手法に不備があること

被告高原は,研究報告においても論文においても,具体的な解析方法について全く説明しないので,解析方法の具体的な欠陥を指摘することが難しい。しかしながら,高原解析が結論とした数値には,現実と異なる,あるいは明らかに不合理なものがあるので,その「解析手法」にも問題があることは明らかである。

a 現実と異なる死亡者数

被告高原は,研究報告及び論文において,「悪性疾患で摘出され移植された11人の中で,7人が死亡しており,その7人の内5人は移植腎が機能したまま死亡している。」と述べている(乙2号証9P,乙第47号証の2の2P)。
ところが,高原解析時には,市立宇和島病院で癌の修復腎移植を受けた11人中,生存が公式に確認できるもの4名,国により公式な追跡が不能となったもの1名,死亡していたもの6名であった。(甲C34号証とB8号証で「追跡不能」者が異なるが(C34号証では㉓,B8号証では(C34の③に相当する)13行目記載者),数に関しては一致している。)
被告高原の「7人死亡」という前記記述が,現実の死亡者数なのか,それとも何らかの「解析」を経た数値なのか不明であるが,前者であれば明白な虚偽であり,後者であればその「解析手法」は正当なものではありえない。

b 明らかに異常な「5年生存率」

被告高原は,「悪性疾患群」の5年生存率を,平成19年3月発表では46.7%,研究報告及び論文では48.5%としている。
ところが,市立宇和島病院で癌の修復腎移植を受けた11人中,5人(甲C34号証の③,⑩,⑫,⑯,㉑。うち⑯は移植後6年10か月で死亡)が移植後5年経過時に確実に生存し,1人(同㉓)が公的追跡不能,5人(②,④,⑮,⑰,㉔)が死亡していた。
カプラン・マイヤー法(被告高原は論文で同法を用いたと記述している)では,追跡不能となった者は分母・分子から除外しなければならない。この場合の「5年生存率」がなぜ46.7%ないし48.5となるのか,被告高原が何の説明もしないので不明であるが,少なくともその「解析手法」は正当なものとは考えられない。

c 1人数回実施の場合のカウント方法,追跡不能例の取扱い

市立宇和島病院における修復腎移植のレシピエントのうち,2名は各2回の移植を受けている(甲C34号証の③と⑫,㉒と㉓がそれぞれ同一人である)。そのため,症例数は25例であるが,レシピエント数は23人である。また前記のとおり,カプラン・マイヤー法では追跡不能者は分母・分子から除外する。ところが被告高原は,論文において前記のとおり悪性疾患群の死亡者を7人と記述し,また平成20年に日本移植学会の学会誌「移植」に発表した調査報告書「市立宇和島病院における病腎移植の予後検討」において「25人の病腎移植患者は,2006年3月時点で,14人が生存,9人が死亡,2人が海外のため不明であった」と記述している。
このため,高原解析においても,①症例数と患者数の混同,②追跡不能者と死亡者との混同が,故意または未熟により行われていることが,強く疑われる。

(4) 問題点の性格と方向性

(ア) 前項記載の問題点は,全て専門的知識がなくても一見して明らかな不備ないし誤りである上,修復腎移植の成績を低く判定する方向に作用する性格のものである。とりわけ,①「瀬戸内グループ」の全42例中,市立宇和島病院の25件だけを殊更に取り上げて,生存生着率が顕著に高い呉共済病院・宇和島徳洲会病院27(10年生着率85.6)を解析対象から除外したこと,②修復腎移植のドナーが高齢であること(70歳以上のドナーは,修復腎では42.9%であるのに対し,死体腎では2.1%,生体腎では4.3%)を無視して単純な比較のみを行ったこと,の2点により,高原解析による修復腎移植の成績が低くなることは,解析前にすでに決定づけられている。

(イ) 各問題点のこうした性格及び方向性に鑑みれば,こうした問題点が解析者の恣意によらずに発生しているとは常識上考えられないので,被告高原の解析はその全体が非常に作為的・恣意的なものであることは明らかである。

(5) 解析及びその結果についての高原の態度

(ア) 解析やデータについての説明をしないこと
高原解析においては,解析の内容そのものとは別に,①解析に用いた手法やデータの説明がなされておらず,かつ,②ⅰエにおいて指摘したデータの性格についても説明がなされていない。(より正確に言えば,論文においては「データの性格」についての言及がわずかになされているが,後述のとおり,その言及は虚偽である。)

しかも被告高原は,本件訴訟においても,これらの説明をほとんど行わない。

(イ) 論文における虚偽の記述

被告高原は論文において,「『病腎移植』42例はたった1人の医師が行ったもので,2病院ではカルテが破棄されていたので,記録保持が完全だった1病院の症例25例のみを病院の依頼を受けて解析した」と述べている。

(ウ) しかし,事実はこれと全く逆である。

即ち,

a 市立宇和島病院においては,前記のとおり,25例のうち過半のカルテが廃棄されており,これらについてはデータを人の記憶に頼らねばならなかった。しかも,被告高原が「解析に使用したデータの全部」と称する甲C34号証は,カルテや記憶などを編集した二次データであって,しかも(被告らの主張によれば)当該二次データの作成者や作成経緯は全く不明であった。

b 被告高原が「カルテが破棄されていた」とする呉共済病院及び宇和島徳洲会病院では,逆に,全てのカルテが完全に保存されていた。

(エ) 被告高原がこのような事実を知らない訳はないので,上記論文の記述は完全な虚偽である。

(オ) 以上のような被告高原自身の「高原解析」に関する行為のあり方からも,「高原解析」が恣意的に行われた信頼できないものであることが裏付けられると言える。

(6) 修復腎移植の成績を故意に悪いものとした可能性の高い「高原解析」の問題を看過することは出来ないのである。

12 被告大島以外は本人尋問にも応じず,被告らの言動の意図根拠等が全く立証されていない(被告大島は,本人尋問において,根拠なく本件言動に及んだことを露呈した)。にもかかわらず,社会通念上許容される範囲を逸脱しないとした原判決は明らかに審理不尽である。特に,上述した「高原解析」の重大な問題点について,被告高原の尋問は必須である。

第6  被告らの言動による本件ガイドライン改訂(上記④)

原判決は,外口崇,原口真の証人申請を採用しないで,しかも,厚生科学審議会疾病対策部会臓器移植委員会に触れることもしないで,被告らの言動と本件ガイドラインの改訂との因果関係を否定したが,明らかに審理不尽であり,理由不備である。原告らは到底納得できない。

被告らが幹部である日本移植学会が厚生労働省に働きかけて修復腎移植を禁ずるようガイドラインを改訂させ,もって腎不全患者らの修復腎移植を受ける権利を侵害したことも,以下の事実から明らかである。

厚労省と学会の協力体制

(1) 修復腎移植問題の発覚により,日本移植学会と厚生労働省は,ともに日本の移植医療への不信を招くのではないかという危機感を頂いていた。当時は移植医療の推進を目的とした臓器移植法改正案が国会で成立するかどうかという微妙な時期であり,両者は,移植医療に対するマイナスイメージを一掃したいという思いを共通にしていた(被告大島本人調書121122項)。

(2) 両者の協議等

(ア) 被告大島と外口健康局長の協議
修復腎移植問題が発覚した直後の平成1811月初め,日本移植学会の副理事長の地位にあった被告大島は,厚生労働省健康局長の外口崇に対し,「このような医療は絶対に容認できない。学会が責任を持って事実関係の解明に当たりたい」と述べ,外口からも「厚労省としても重大な関心を持っています。最大限,学会を支えます。」という趣旨の返答を受けた(甲B22,被告大島本人調書118119項)。以後,日本移植学会と厚労省は,二人三脚で「ガイドライン改正」に向けての歩を進めるのである。

(イ) 24回臓器移植委員会
平成181127日,第24回厚生科学審議会疾病対策部会臓器移植委員会が開催された。同会に委員として出席した被告大島が日本移植学会倫理指針等について説明を行ったことを受け,厚生労働省の原口真臓器移植対策室長は,学会の倫理指針のほかにもガイドラインを作って対応していきたい旨の発言をした。そして,ガイドライン改正に向けて対策を講じるべき事項として掲記した論点整理表(その論点ごとに日本移植学会倫理指針等が対照されている)を委員に配布し,その論点整理を踏まえてガイドラインの改訂に持って行きたいという考えを明らかにした(甲B405P5,1922))。
続いて,矢野補佐より,移植が行われた宇和島徳洲会病院,市立宇和島病院,呉共済病院では第三者の専門家を含む調査委員会が設置されることになっていること,厚生労働省と関係学会が参画する調査班を設置して調査を進めることになっていることが報告された。そして,これを受けた被告大島は,日本移植学会が各病院の調査委員会及び国と共同の調査委員会に全面的に協力し,調査がある程度進んだ時点で正式なコメントをする決定をしている旨を報告した(甲B40‐5(P2425))。

(ウ) 厚労省調査における移植学会との協力関係
厚生労働省は,修復腎移植の是非をめぐる調査の中で,表面上は摘出のみに関わった5病院の調査班の事務局を務めたに過ぎないが,同省臓器移植対策室の担当者を関連病院すべての調査委員会にオブザーバーとして参加させ,日本移植学会による調査全体の事務局を担当した(甲B22)。

(エ) 25回臓器移植委員会
平成19年4月23日,第25回厚生科学審議会疾病対策部会臓器移植委員会が開催された。冒頭,丹藤主査から調査委員会や調査班の調査状況についての報告があり(甲B41-7),次いで,同年3月31日に発表された日本移植学会等4学会による「病腎移植に関する学会声明」や,その前日に日本移植学会が公表した「市立宇和島病院で実施された病腎移植における生存率・生着率について」の報告があった(甲B414P2~8),甲B41-8,甲B41-12 )。その上で,原口室長は,上記「病腎移植に関する学会声明」及び「臓器の移植に関する法律の運用に関する指針に規定する事項(案)等について」について,詳細な説明を行った(甲B41-4 P11~20),甲B41-9)。かかる過程を経て,本件「ガイドライン改正」が実行されることとなった。

(3) 「ガイドライン改正」に至る行政手続

(ア) パブリックコメントの実施
「臓器の移植に関する法律の運用に関する指針」の一部改正に関して,平成19年5月11日から6月11日まで,パブリックコメント手続が実施された。
厚生労働省健康局臓器移植対策室は,寄せられた意見に対し,日本移植学会の「生体腎移植の提供に関する補遺」等に基づいて回答しているだけでなく,「4学会声明のみに基づいて病腎移植の禁止を規定すべきではないのではないか」といった意見に対して回答を行ったが,その内容は,上記学会声明を全面的にコピーしたものである(甲B42P58))。

(イ) 「ガイドライン改正」の実施
平成19年7月12日,「ガイドライン改正」が実施された。またこれを追って,平成20年3月5日,厚生労働大臣の告示とそれに伴う同省課長の通達が実施された(詳細は原告ら準備書面(24)記載のとおり)。

(ウ) 改訂内容
改訂内容は,上記「臓器の移植に関する法律の運用に関する指針に規定する事項(案)について」(甲B41-9 )とほぼ同じである。また,「病腎移植は,現時点では医学的に妥当性がない」とされているが,その表現は,日本移植学会ら4学会の声明と共通している。

(エ) 通達等

a しかも,「ガイドライン改正」の実質的に重要な一部をなす課長通達等においては,厚生労働省が4学会と共同して「ガイドライン改正」を実施する姿勢がきわめて顕著である。

b ①保険局医療課長平成20年3月5日通達「診療報酬の算定方法の制定等に伴う実施上の留意事項について」は,「生体腎を移植する場合においては,日本移植学会が作成した『生体腎移植ガイドライン』を遵守している場合に限り算定する」と定め,

c ②同課長同日通達「特掲診療料の施設基準等及びその届出に関する手続きの取扱いについて」においては,「生体腎移植の実施に当たり,臓器の移植に関する法律の運用に関する指針(ガイドライン),世界保健機関「ヒト臓器移植に関する指針」,国際移植学会倫理指針並びに日本移植学会倫理指針及び日本移植学会「生体腎移植ガイドライン」を原則として遵守していること。」臓器の移植に関する法律の運用に関する指針(ガイドライン),世界保健機関「ヒト臓器移植に関する指針」,国際移植学会倫理指針並びに日本移植学会倫理指針及び日本移植学会「生体腎移植ガイドライン」を遵守する旨の文書(様式任意)を添付すること。」と定めている。

d これらの通達は,診療報酬の算定という国と医療機関との権利義務関係の成否を左右するものであるところ,厚生労働省は,その権利関係の成否を法人格もない私団体であるところの日本移植学会のガイドラインに係らせているのである。わが国の法制度上,このような実例を,当代理人らは寡聞にして知らない。

e さらに驚くべきことは,上記各課長通達が行われたのは平成20年3月5日であるのに,その各通達が内容的に依拠する日本移植学会の「生体腎移植ガイドライン」は平成20年5月18日理事会決定により制定された,ということである。すなわち,上記各課長通達は,いまだ存在しない,したがって正式には内容も判明しないはずの<学会ガイドライン>に適合することを,診療報酬の請求要件として定めたことになる。

f 「ガイドライン改正」が,表面上は純然たる行政の行為としての体裁をとってはいても,その実は厚生労働省と移植学会幹部ら(すなわち被告ら)とが共同して行ったのであることは,この一事のみをもっても明らかである。

(4) 評価

(ア) このように,日本移植学会は,「移植医療への不信感除去」という半ば利己的動機から,『修復腎移植は絶対に認められない』という結論から出発して,厚生労働省に対してこれを禁止させようとした。①まず被告大島が外口局長との「ボス交渉」によってその足場を築き,②宇和島徳洲会病院等に対する調査への協力や,臓器移植委員会での意見表明を通じて,外口をはじめとする厚生労働省の担当者に自分たちの見解を吹き込んで同調させ,③最終的に厚生労働省に,被告らの要求するままの内容の(しかも要所で<学会ガイドライン>を要件として取り入れた)「ガイドライン改正」を行わせた。厚生労働省は結局,<学会の言い分をそっくり呑み込んで>本件「ガイドライン改正」を実行し,一般医療としての修復腎移植を禁止したのである。

(イ) 日本移植学会は,医学的知見を有する専門家集団であり,こと移植医療についての医学的知見に関する限り,厚生労働省に対する影響力は絶大である。その日本移植学会の幹部である被告らの見解・発言等が,厚生労働省をして安易にその内容を盲信させて,修復腎移植を禁止せしめたのであるから,「ガイドライン改正」を通じて腎不全患者らの修復腎移植を受ける権利を侵害していることは明らかであり,被告らの行為と原告らの被った損害との間には十分に相当因果関係が認められる。

第7  結語
よって,必要な証拠調等を行った上,速やかに原判決を破棄し,控訴人らの請求を認容すべきである。




# by shufukujin-report | 2015-03-06 13:00 | 27.3.20控訴審 控訴理由書(2)

26.7.1修復腎訴訟最終弁論(1)


修復腎訴訟
7月1日 最終弁論 
  秋にも判決

 平成20年12月10日(水)、修復腎移植の早期実施を望んでいる透析患者や腎移植者原告7名が、日本移植学会幹部ら5名に対して、真実に反する発言等を行ったことにより原告らの治療の選択権と移植を受ける権利を侵害されたとして松山地方裁判所に損害賠償を求め提訴しました。

平成21年4月21日(火)、修復腎訴訟の第1回口頭弁論が行われました。
 その後十数回の口頭弁論を経、今年平成26年2月25日と3月18日に証人尋問が実施され、原告、被告計6人の尋問が予定通りすべて終わりました。
 そして、平成26年7月1日に最終口頭弁論が開かれ、結審しました。
 早ければこの秋にも判決が出るとみられています。



最終弁論の準備書面を掲載します。


平成20年(ワ)第979号損害賠償請求事件

原 告  野 村 正 良  外6名

被 告  大 島 伸 一  外4名

     準備書面(27

                        2014年 6月24日

松山地方裁判所

  民事第2部  御中

                 原告ら訴訟代理人 

                 弁護士     林     秀  信

                 弁護士     岡  林  善  幸

                 弁護士     薦  田  伸  夫

                 弁護士     東     隆  司

                 弁護士     光  成  卓  明

                 弁護士     山  口  直  樹

目次

Ⅰ 修復腎移植が慢性腎不全の治療法として優れていること        5P

第1 腎移植治療の優位性                      5P

  1 透析治療の欠点                        5P

  2 腎移植治療の優位                       6P

第2 日本の腎移植の現状と、修復腎移植によって

移植可能な腎臓が急増すること                 6P

1 日本の腎移植の現状                      6P

2 修復腎移植の原則禁止に至る経緯                7P

3 修復腎移植の実施例                      12P

4 修復腎移植の生存率・生着率 16P

5 修復腎移植についての国際的評価等 18P

6 修復腎移植によって移植可能な腎臓が急増すること 22P

第3 患者の自己決定権 22P

1 レシピエントの自己決定権 22P

2 ドナーの自己決定権(全摘か部切か) 23P

第4 修復腎移植の医療技術としての総括的評価と

治療を受ける権利の尊重 23P

Ⅱ 被告らの主張する「修復腎移植の欠点」がいずれもあたらないこと 23P

第1 悪性腫瘍の伝播 23P

1 被告らの主張    23P

2 反論 24P

第2 腎臓全摘出の医療としての適応性 26P

1 部分切除のみが標準治療ではなく、現在においても、

全摘も標準治療とされていること 26P

2 全摘と部分切除とでは、ドナーの予後に差は存しないこと 28P

3 自家腎移植は標準治療とはいえないこと 30P

第3 切除の際のドナー体内のガン転移 30P

1 腎血管(動・静)の結紮・切離の順序について 30P

 尿管癌の場合の尿管の切断 32P

第4 「高原解析」は信用できないこと 36P

1 修復腎移植の成績は悪くないこと 36P

2 修復腎移植の成績の解析の本来のありかた 37P

3 高原解析の問題点 39P

4 問題点の性格と方向性 44P

5 解析及びその結果についての高原の態度 45P

第5 瀬戸内グループが行った修復腎移植の手続、

及び個々のドナーの腎臓全摘出の適応性について 46P

第6 患者の自己決定権の無視 47P

1 患者の自己決定権 47P

2 被告らの行為は患者の自己決定権を侵害している 47P

3 修復腎移植のリスクとその選択 48P

4 被告らの主張の不条理 49P

第7 被告らの批判の総括的評価 51P

Ⅲ 被告らの行為の違法性 52P

Ⅳ 修復腎移植の現状と権利侵害 52P

第1 「厚労省ガイドラインの改正」による制約 52P

1 「厚労省ガイドライン改正」による修復腎移植禁止の構造 52P

2 修復腎移植を受ける機会の剥奪 53P

第2 臨床研究と実施状況 54P

1 臨床研究実施に至るまでの経緯 54P

 臨床研究の実施状況 54P

第3 高度先進医療申請と現状 57P

第4 臨床研究・高度先進医療のみでは不十分であること 58P

 第5 「現状」の結果,原告らの権利が侵害されていること 59P

Ⅴ 因果関係 60P

第1 単純な因果関係 60P

第2 修復腎移植の事実上の禁止に至らせたことによる因果関係 61P

1 厚労省と学会の協力体制 61P

2 ガイドライン改正に至る行政手続 63P

  3 評価 65P

別表(市立宇和島病院レシピエント表示対照表)          66P


Ⅰ 修復腎移植が慢性腎不全の治療法として優れていること


第1 腎移植治療の優位性

1 透析治療の欠点

ⅰ 慢性腎不全の治療方法には透析治療と腎移植治療とがあるが,血液透析治療は,週3回程度(2~3日おきに),1回当たり約4~5時間もの透析を受けなければならず,また,腹膜透析治療も1日に4回透析液を交換しなければならず,その交換に各1時間程度時間をとられ,透析治療は,日常生活や仕事や学業に重大な支障をきたす(原告藤村本人調書2632項,6165項。同野村本人調書1315項。甲A1、2)。

ⅱ それだけでなく,以下のような諸点が指摘されている。

ア シャントが詰まって緊急切開が必要となり,激痛に耐えなければならなかったばかりか,感染症で40度の高熱と意識障害により,集中治療室で生死の境をさまようようなこと(甲A2)

イ 慢性的な疲労感の上に透析はとても苦しいこと(原告藤村本人調書3132項。甲A1)

ウ 透析中の急激な血圧低下に耐えられずベッドの上でしばしば嘔吐すること(甲A3)

エ 透析を続けていると合併症として関節等にたんぱく質の一種のアミロイドが溜まって動きにくくなる「アミロイド症」(原告藤村本人調書5859項。甲A1)や脳幹出血や足指等の壊死(A)が起きること

オ 塩分・水分等の摂取に関する食事制限のストレスに苛まれること(原告藤村本人調書3342項。甲A1)

カ 外国の文献で透析患者の7割がうつを経験するとのデータもある状況で,うつになり,ひどい人は死への誘惑に駆られること(甲A4)

キ 日本透析医学会の調査によると5年生存率は63.1%に過ぎないこと(甲A3)

ⅲ いずれにしても,透析治療は,根治療法ではなく(甲A1),「透析は無期懲役みたいなもの」(甲A4)とか,「前途の展望のない生き地獄」(甲A3)とか言われており,「欧米では,透析は移植までのつなぎの医療だ」とされている(甲A3)。

2 移植治療の優位性

 腎移植医療においては、上記の透析医療の欠点はない。手術後は1、2ヵ月に一度の検査のための通院と服薬のほかは、特別の負担・拘束はない。免疫抑制剤などの服薬は生涯継続しなければならないが、腎機能をそのまま維持し続けることができるので、健康人とほとんど変わりのない日常生活を送ることができる。このような「クオリティ・オブ・ライフ」において,透析治療よりも腎移植治療が優れていることは疑いのない事実であり(甲C6670。原告野村本人調書),この点については被告らも異論のないところと思われる。


第2 日本の腎移植の現状と,修復腎移植によって移植可能な腎臓が急増すること

1 日本の腎移植の現状

ⅰ 日本国内の透析患者は約26万人で,年間1万人のペースで増え続けている(甲A2)が,死後に提供される献腎数は年間200件前後で漸減傾向が続いており,日本臓器移植ネットワークによると,04年の献腎移植は173件,03年度末時点で献腎移植を希望する登録者は12468人いたので,倍率70倍を越す狭き門となっており,「宝くじのようなもの」と言われている(甲A1)。

ⅱ そのような国内の実情から,一縷の望みを抱いて海外での移植を試みる者も多く(甲A5,6),厚生労働省の研究班の調査結果によると,術後の治療で国内の病院に通院している患者に限定しても,海外で腎臓の移植を受けた患者は198人おり,渡航先は中国,フィリピン,米国等9カ国であったとされている(甲A7)。

ⅲ しかしながら,このような海外に渡航しての移植は,貧困層を狙う闇ビジネスになっている(甲A8)等の批判が強く,2008年5月,日本も加盟する国際移植学会は,「外国人が臓器提供を受け,地元国民の移植の機会を奪うのは公平・正義に反する」として,渡航移植を原則禁止とするイスタンブール宣言を採択し(甲A9,10),また,2008年6月10日には,WHOの移植担当理事ルーク・ノエル氏と国際移植学会会長のジェレミー・チャップマン氏が,衆議院小委員会等で,日本の臓器移植数が世界の中でかなり少ないことを指摘した上で,「各国は臓器を自給自足すべきであり,その流れになってきている。日本は(自国での臓器供給を)もっと考えるべきだ。」と警鐘を鳴らしている(甲A11)。そして,これまで事実上の臓器売買による渡航移植が行なわれてきた中国では臓器売買を条例で禁ずるとともに外国人への移植を禁止し,また,フィリピンでも政府が外国人への腎臓移植を全面的に禁止したと報じられている(甲A10)。

2 修復腎移植の原則禁止に至る経緯

(甲C20P3739)。甲C22。甲C23P3536)

ⅰ 修復腎移植の顕在化

ア 2006(平成18)10月1日,愛媛県警は,2005(平成17)年9月に宇和島徳洲会病院で行われた「義理の妹から兄」への生体腎移植が,実は非親族間の臓器提供であり,金銭の授受(臓器移植法違反)があった疑いで,レシピエントの男性(59歳)と臓器をあっせんした内縁の妻(59歳)を逮捕した(本件臓器売買事件)。事件の発端は,腎臓を提供した松山市在住の女性(59歳)が「腎臓を提供したのに,約束のお金を一部しか支払ってもらえない。」と警察に苦情を持ちこんだことであった。

イ 臓器移植法施行から10年という節目の年にあたり,発覚した最初の臓器    売買事件が四国の小さな町で発生したことや,執刀医の万波誠医師が「裸足にサンダル,下着の上に白衣」という型破りの人物であったこと等がその後の報道姿勢に大きく影響を与え,同月2日の全国紙はいずれもこの事件を一面トップで報道し,以後,連日のように「ドナー確認の不備」,「個性的な医師」,「医師の事件関与の有無」などの記事が掲載された。

ウ 本件臓器売買事件を契機に,宇和島徳洲会病院では万波誠医師が行っていた腎臓移植手術について調査をした結果,2005(平成17)年4月の同病院開院以来2006(平成18)年9月までに行われた腎臓移植手術78例のうち,修復腎移植が11例あることが明らかになった。

エ 200611月2日,宇和島徳洲会病院が上記調査結果を公表したところ,翌日の各紙はいずれも一面トップで事実を大きく報道し,以後,「万波バッシング」が始まった。

オ この過程で,病気のために摘出された腎臓を移植に再利用するという修復腎移植が問題とされることとなり,修復腎移植にかかわったのが,山口大学医学部泌尿器科出身の万波誠医師をリーダーとして,それに協力する岡山大学医学部泌尿器科出身で実弟の万波廉介医師,光畑直喜医師(呉共済病院泌尿器科部長),西光雄医師(香川労災病院泌尿器科部長)等の医師で,彼らは,「瀬戸内グループ」と呼ばれた。

カ 移植は,主に,万波誠医師がかつて勤務していた市立宇和島病院,および現在勤務中の宇和島徳洲会病院で行われ,移植に使用した腎臓は,万波廉介医師や西医師が岡山,広島両県の各種病院から提供を受け,また呉と宇和島の間で交換されることもあった。

キ 20061226日,松山地裁宇和島支部は,起訴された2人(腎臓移植を受けた男性および斡旋をした内縁の妻)に対し,懲役1年,執行猶予3年の判決を言い渡したが,万波誠医師および勤務先の病院(宇和島徳洲会病院および市立宇和島病院)については,本件臓器売買事件に関与したとの認定はなされなかった。

 ⅱ 学会の見解とその変化

ア 200611月頃までの日本移植学会関係者の公表意見は,修復腎移植に必ずしも否定的なものではなかった。例えば,東京女子医科大学名誉教授太田和夫氏は,「最初は『おかしなことをやっている』と思ったが,反論を検証してみると,医学的にそれほどおかしなところは見当たらない。何より患者が納得しており,彼らがやっていることが絶対いけないとは言い切れない」(1113産経),東邦大学教授であった被告相川は,「腎臓がんで患部を取り除いて移植する症例はないと思う。病気によっては病気腎の移植が全て悪いということでもない」(1130東京)と述べている。また,日本移植学会理事長であった被告田中は,「再発の可能性が数%あるがん腎臓の移植はもってのほか。(しかし)特別な場合には病気の臓器を使うことはあり得る」(11/11中国)と述べ,同学会理事であった被告大島は,「がんの場合,移植を受けた患者ががんになる可能性があり,絶対にしてはならない。(腎動脈瘤や腎臓結石など良性の病気の場合)生体腎移植で提供者になろうとして検査で見つかった場合,治して治療している。病気の腎臓を使うことが一律に悪いわけではない」(11/20山陽)と述べている。

イ そして,鹿鳴荘病理研究所所長であり広島大学名誉教授である難波紘二氏は,病理学者・生命倫理学者の立場から,11/14中国,11/19産経,11/27毎日の各紙で,「悪性度の低いがんの場合,切除して移植した場合には,原則として再発・転移しない。ドナーが了承し,レシピエントがリスクを承知で移植を受けるのであれば,倫理的に問題ない。病腎移植例が何例あるのかまず明らかにし,その予後を公開するのが先決だ」と主張し,また,倫理学者である岡山大学教授粟屋剛氏は,「健康な人の身体にメスを入れて大事な腎臓を摘出するより,本人がいらないという病気腎を使うほうが,ドナーの立場を考えると合理性が高いとも言える」(1124朝日)と主張して,容認論を述べている。

ウ 2007年1月以降,日本移植学会側は,意図的に誤情報をメディアにリーク。19日の朝日では「病気腎 症状も“移植”?ネフローゼ症候群 半数で高蛋白尿」,2月17日の読売は1面トップで,「B型肝炎感染の腎移植,梅毒なども,計4人に 市立宇和島病院」,翌18日の各紙は「病気腎移植は不適切 学会・病院合同会議 意見大勢占める(毎日)」などと報じ,さらに19日の朝日は「病気腎移植を原則禁止 ネフローゼとがんは『絶対』5学会が方針 万波流『患者の為』否定」と報じた。

エ そんな中,3月1日の中国,産経両紙は「病気腎移植 米学会演題に採用 万波氏発表 国内にも影響か」と報じた。市立宇和島病院の25件,宇和島徳洲会病院の11件,呉共済病院の6件の合計42件の修復腎移植について,万波医師が「米国移植学会議」(2007年6月1~6日)で演題発表する運びとなったのである。しかし日本移植学会理事長の被告田中から横槍が入り,発表は中止された。

オ この被告田中は,2003年に,カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)の移植外科バスッティル教授と連名で「肝移植におけるマージナル・ドナーの利用性」という総説論文(C26)を国際誌に発表している。この論文では,”マージナル(marginal)“という用語の定義が行なわれ,「marginalあるいはextendedドナーという考え方は,移植待ち患者リストの要求に答えるためのもので,初期機能不良または初期機能喪失のリスクがある場合をいう」と述べた上で,「マージナル・ドナーからの臓器は最適とはいえないが,移植待ちの間,死に直面している患者にとって生存の代替策であるので,その利用法を追及する必要がある」と書いている。実際に,このバスッティル=田中論文では,実に118編もの世界文献が引用され,①ドナー年齢の高齢者への拡張,②脂肪肝の利用,③がん患者臓器の利用,④ウイルス性肝炎のある肝臓の利用等が,具体的かつ前向きに論じられている。この総説論文は,「病気の肝臓を出来るだけ肝移植に利用しよう」という主旨のものであり,個人としての被告田中は,”病腎移植“の意義を十分に理解できていたはずである。しかし,”病気の腎臓を移植に使用すること“が現実に日本国内で報道されると,日本移植学会理事長の田中は,これを否定する言動に出たのである(C21P42~43)

 ⅲ 学会声明から修復腎移植禁止へ

ア 2007(平成19)年3月31日,日本移植学会,日本泌尿器科学会,日本透析医学会,日本臨床腎移植学会の4学会は,「現時点では医学的妥当性がない」との共同声明(本件関係学会声明)を発表した。但,日本腎臓病学会はこの時点で理事会の決定を経ておらず,派遣されていた理事個人が了承する留まった。

イ 200611月に修復腎移植が公表され,「病腎移植」としてメディア報道された際,被告らを含む日本の移植専門家たちは,「聞いたこともない手術だ」「がんの腎臓を移植に用いるなど絶対に禁忌だ」とコメントした。しかし,既に「腎がんを切除して移植に用いる手法」は,2004年の「アメリカ泌尿器科学会学術総会」で,オーストラリア・ブリスベンのクィーンズランド大学医学部のデイヴィッド・ニコル教授が報告している。しかも,同学会には日本から約300名近くが参加しているばかりか,この学会の「ハイライト集」(甲A27)は,ある製薬会社が日本語版を作成して,日本泌尿器科学会の会員約3000人に配布し,その中で帝京大学の堀江重郎教授が「特殊なケース,例えば移植希望の透析患者が家族にいるT1腎がん患者では今後ドナーのオプションになるかもしれない。」とコメントしていることから,少なくとも,この学会抄録を読んだ日本泌尿器科学会の会員は,ニコル教授の先行例の存在を承知していたはずである(甲C21P36))。

ウ 厚生労働省は,本件関係学会声明を受け,2007年(平成19年)5月11日,「修復腎移植は臨床研究として行う外は禁止する。」との内容を含む,「『臓器移植に関する法律』の運用に関する指針」(ガイドライン)の改正について行政手続法に基づくパブリック・コメント手続を施行した。

エ 2007(平成19)年7月12日,厚生労働大臣は,ガイドラインを改正し,同第12「生体からの臓器移植の取扱いに関する事項」第8項において,修復腎移植は現時点では医学的に妥当性がないとし,専門家による臨床研究目的以外の実施を禁止する旨(本件ガイドライン部分)を関係機関に通知した。これにより,修復腎移植は臓器移植法の解釈として,「適正な移植医療」(同法1条)あるいは「適切な移植術」(同法2条3項)ではない違法なものとされ,実地の医療として禁止されることとなったのである。


3 修復腎移植の実施例

修復腎移植について,いわゆる「万波移植」だけが大きく取上げられたが,次に述べるとおり,国内外に既にかなりの数の報告がある。

ⅰ 甲C20P4041))

ア 1956年4月に新潟大学で行われた日本における最初の腎移植は,修復腎移植であり,自殺の為に昇汞(塩化水銀)を服用し急性腎不全に陥った30歳男性を救う為に,突発性腎出血で摘出した患者腎臓が移植された。万波グループによる修復腎移植が開始された1991年以降,ドナーの腎動脈瘤を切除し移植に用いた例は,少なくとも91年広島大学2件,93年藤田保健衛生大学1件,94年浜松医科大学1件,98年東京女子医科大学1件,2000年同大学3件,01年戸田中央総合病院1件,03年市立札幌病院1件が報告されている。以上合計10件に万波グループの6件を合計すると,腎動脈瘤例を用いた修復腎移植は,国内に少なくとも16例はあることになる。

イ 一連の修復腎移植の出発点となった,75歳男性から摘出した腎動脈瘤のある腎臓の病変部を切除し,44歳男性に移植したケース(1991年1月に呉共済病院で実施)では,読売新聞が同年3月23日全国版で「非血縁 75歳から腎移植 44歳男性 元気に退院」と,美談として報道している(甲A69)。日本移植学会は,2003年から「非親族からの臓器提供を認める」という方針に転換しており,親族間で実施されてきた修復腎移植が,非親族間で行われることを非難する論理的根拠は消失している。

ウ 糖尿病性腎症の腎臓を移植に用いた報告は少なくとも2例あり,いずれも7ヶ月以内にレシピエントの病変が消失したという。ネフローゼ症候群の腎臓摘出については,小児・成人ともに国内報告例があり,最新の英米テキストにも適応が記載されているが,移植に利用し,成功したという報告はないようである。

エ 万波グループが移植に用いた腎がんのある腎臓は8例で,いずれも腎細胞がん(RCC)であり,その最大径は3.5cmまでで,組織学的悪性度はG1が4例,G1G2が4例であり,TNM分類ではT2N0M0以下の症例である。このカテゴリーに属するRCCが臨床的には良性であり,部分切除療法も試みられつつあることは良く知られている。

オ 海外文献では,米シンシナティ大学のブエルらが移植がん登録記録から発見した例として14例を報告している。5年以上追跡されているが,いずれも再発・転移はない。米ピッツバーグ大学エマヌエラ・タイオーリ教授らは,イタリア国立移植センターのデータを解析して,58人の担がん患者からの移植臓器108件の長期観察結果について報告している。その中に腎がんの腎臓が移植に用いられたケースが1例あるが,転移・再発を認めていない。豪クィーンズ大学のデイヴィッド・ニコル教授らは,直径3㎝以下の腎細胞がんのある死体腎3件,生体腎29件を移植に使用し,平均3年の経過観察で再発・転移を認めていないと報告している。

カ 以上を要約すると,小さなRCCが切除されて移植に用いられたケースは,少なくとも現時点で55例はあり,いずれも良好な成績を収めている。

キ 下部尿管腫瘍のある腎臓を移植に用いたという報告例は,現在のところ光畑論文以外に見つかっていない。しかし,血管筋脂肪腫や褐色細胞腫等の良性腫瘍を持つ腎臓が移植に利用された報告はいくつか散見され,秋田大学の症例もこれに属する。

ⅱ 甲C21P3738))

ア 非腫瘍性(腎動脈瘤ないし腎血管奇形例が多い)の修復腎移植は,万波医師ら以外にも,既に日本で多くの先行例があり,欧米の論文にも多くの例がある。

イ 良性腫瘍に関しては,国外で少なくとも19例の報告がある。いずれも“増大・悪性化・転移”した例はない。

い ベルギー・ブリュッセルのルーアン医科大学のビリガンドらが,結節性硬化症の為に腎不全を起こした患者に対して,血管筋脂肪腫がある腎臓を放置したまま移植を行なった。患者は免疫抑制剤を投与されているため,血管筋脂肪腫の増大や悪性化も予測された。しかし,7年間の経過観察をした結果,そのような現象は認められなかったことを90年に報告している。この症例は,腎臓にある良性腫瘍を切除した後に移植したものではないが,免疫抑制下にあっても,血管筋脂肪腫は増大しないという最初の証拠になった。

ろ 同年,仏サン・プリタンジャレ市,北病院のエルティエらは,死体腎移植の際に偶然見つかった血管筋脂肪腫を切除し,移植に使用した例を報告した。3例目として,クロアチアのザグレブから病理医のモスンジャクらが報告したものがある。腎移植から3ヵ月後に心不全で死亡した男性の移植腎に血管筋脂肪腫のあることが,剖検によって確認されている。

は その後,同じように血管筋脂肪腫を切除した腎臓を移植に用いた症例が,93年に米ピッツバーグのアレニー総合病院から2例,米サウスカロライナ医大から1例報告されている。他にも同じような報告は,99年までに米ペンシルバニア医大,独ベルリン・フンボルト大学,英マンチェスター大学から3例なされている。

に 00年以降では,血管筋脂肪腫のある腎臓を移植に用いた例は,少なくとも4施設から4例。この内の3施設は,米コーネル大学医学部,米メリーランド大学医学部,パリ・オテル=デュウ病院と,その名が良く知られている研究・治療施設である。また,イタリアのボローニャがん研究所のフィオレンティーノは,血管筋脂肪腫1例のほかに好酸性細胞種1例,血腫2例,脂肪腫1例,乳頭伏線腫1例,単純性嚢胞1例を,いずれも病変を切除した後に移植したと報告している。

ほ 以上を小計すると,血管筋脂肪腫14例,その他の良性腫瘍5例の合計19例となる。

ウ 悪性腫瘍に関しては,腎細胞がんを切除した後に移植した例が,国外で少なくとも70例実施され,成績は極めて良好である。

い 腎細胞がんについて,文献的に確認できる最初の2症例が75年に報告されている。いずれも”病理診断の遅れ”の為,腎細胞がんを良性病変と誤認し,部分切除後に移植したものである。このうち,米コーネル大学のシュテューベンボードの症例は,8年間にわたり経過追跡され,がんの再発・転移がなく,生着・生存中であると追加報告されている。

ろ 同様の判断ミスから起きた修復腎移植の例は,他にもある。仏リヨンのデュウベルナールらは,直径5㎜の腎細胞がんを部分切除して移植した症例を9年間経過観察し,異常が生じなかったと報告した。

は これらの報告を受けて,90年代になると,事前に腎細胞がんであると分かっていても,それを切除して積極的に腎移植がなされるようになった。

に ポーランド・ワルシャワ大学のグロチョビエッキらの報告では,3×4㎜という小さな腎細胞がんを体外で切除し,腎移植を実施した。米ルイジアナ州立大のカーヴァーらが直径1㎝の腎細胞がんを切除して移植したのを皮切りに,よりサイズの大きい腎細胞がんも切除されて移植されるようになった。

ほ イタリアのカッリエリらが,「被膜下にある4㎝以下の腎細胞がんの場合,切除すれば安全に移植で使えるという報告が外国でなされている。我が国でもそのような症例を活用しよう」と総説論文で提唱したのは,このような動向が背景である。

へ 05年になると,この問題に真正面から取り組んだ米シンシナティ大学のブエルは,14例の登録症例を報告し「直径4㎝以下の腎細胞がんを切除した後の腎臓は移植に使用可能」と主張した。また、このような移植を2例,自らも実施したことを明らかにした。

と 豪ブリスベンのニコル教授の実施例は,米国の移植学会でも報告されているが,「Br..UrolIntern」に受理された論文によると,96年5月~0711月に腎細胞がん(直径3cm以下)を体外切除した49例の移植を実施したという。その内の3例が,移植と無関係な病気で死亡したほかは,生着・生存中である。1例で移植後9年目に腫瘍の再発が見られたが,その後18ヶ月の経過追跡で増大・転移が認められない,としている。そこで,ニコル教授は,「このような腎臓は,慎重に選択された患者に対して移植が適応とされる。これらの患者は,死体腎移植を待っている間に死亡してしまう。修復した腎臓を移植することは,これらの患者が生命の質と長さを増加させるポテンシャルを持っている」と主張している。

ち 以上,腎細胞がんについては,国外で75年以後,切除後移植に使用した例が70例以上ある。

エ 以上の良性腫瘍と腎細胞がんをあわせると,89例となる。既に十分な先行実施例があり,“実験的治療”と呼ばれる段階を超えている。

4 修復腎移植の生存率・生着率

(C20P91041),甲C23P2627)。甲A67)

ⅰ 瀬戸内グループによる修復腎移植42件について,2007年5月末現在の予後解析結果が,同年6月11日,独エッセンで開催された「国際生体臓器移植シンポジウム」で米フロリダ大学准教授藤田士朗氏によって発表された。

ⅱ 生体腎移植(N8979),死体腎移植(N3372),修復腎移植(N42)のレシピエント生存率は次のとおりである。

       (生体)    (死体)    (修復腎)

1年生存率   95%     91%     92.5

5年生存率   90%     84%     78.9

10年生存率  84%     77%     62.5

ⅲ 同様に生着率は次のとおりである。

          (生体)    (死体)     (修復腎)

1年生着率  90.2%   78.9%    77.8

5年生着率  75.3%   60.6%    50.4

10年生着率  57.5%   44.5%    39.7

ⅳ 生存率に関しては修復腎移植の成績は死体腎とあまり変わらないが,生着率  については,5年目以後に生体腎,死体腎に比べ低くなっている。なお,修復腎については,2003年以後に実施された追跡期間5年未満の症例が8例(2割)あり,経過観察期間が延びるにつれて,生存率・生着率ともにアップしている実情にある。

ⅴ 5年以後の生着率が悪くなる理由について,①レシピエントの年齢が生体腎,死体腎の場合に比べ高齢であること,②ドナーの年齢が高齢であることが指摘されている。(また,修復腎移植の場合,相当数が2度目あるいはそれ以上の回数の移植(最高4回が2例)であることも指摘されている(甲C21P36))。

ⅵ 3種の腎移植のデータの単純比較ではなく,年齢補正をして比較・解釈する必要性があるが,広島大学名誉教授の難波紘二氏は,レシピエント年齢の中央値が,生体腎で30代,死体腎で40代,修復腎では50代にあることを指摘し,このレシピエント年齢の差が生着率に関与していると述べている。

ⅶ エッセンでの発表で,藤田准教授は,ドナー年齢の相違を解析したデータを示した。それによると,死体腎ではドナーの約75%,生体腎で約80%が59歳以下であるのに対して,修復腎の場合,ドナーの約75%が60歳以上であり,さらに70歳以上が全体の半数近くを占めている。70歳以上のドナー腎臓が使用されたケースについて,生体腎(N299),死体腎(N54),修復腎(N18)の長期生着率を比較してみると,修復腎の生着率曲線は見事に生体腎と死体腎の中間に位置することが明らかとなった。このことから,藤田准教授は,「ドナーの年齢差を考慮すると,修復腎移植の成績は死体腎のそれと遜色ない」と結論付けている。

ⅷ これに対し、被告高原は2007年3月30日「修復腎移植の成績が悪い」という発表を行い、被告らは現在なお被告高原の解析に依拠して修復腎移植の成績が悪いと主張している。この高原解析が信頼できないことは、後に項を改めて詳述する。

5 修復腎移植についての国際的評価等

(C20P9~10),甲C21P8~45),甲C24、甲C)

ⅰ 米フロリダ大学の藤田准教授は、「米国移植学会議」で予定(中止)された万波発表に用いられていた42症例のデータを用いて,独エッセンで開催された「国際生体臓器移植シンポジウム」(2007年6月1112)で演題発表を行なった。会場からは賛否両論の反応があったが,概ね死体腎臓の少ないアジア諸国からは賛成や強い興味を示された。西洋諸国は,もう少し用心深い対応で,症例がまだ少ないので,なんともいえないという反応もあったが,可能性を言下に否定するようなコメントはなかった。将来的には可能性を探ってみたいといったところであった。藤田准教授に対しては,主催者のBroelsch博士から,「素晴らしい発表だった」と個人的なコメントがあり,また,有名な移植外科医のS.T.Fan博士からも個人的に肯定的なコメントがあった。

ⅱ 仏パリで開催された「国際泌尿器科学会議(2007年9月)でも藤田准教授が,42例の修復腎移植は死体腎移植と比較して有効であると発表したが,その発表は,各国から採用された16演題の1つとしてポスターと口頭により行われたが,演題発表に際しては,座長から,「今回発表される演題の中で最も興味のあるテーマであろう」と紹介されるほど注目度が高かった。

ⅲ 米シカゴで開催された「トランスプラントサミット2007(9月2325)でも藤田准教授が,修復腎移植42例中の悪性腫瘍の16例に絞ってポスター発表を行なった。「がんの部分切除をした後の腎臓の容積で,術後の腎機能は十分なのか」等の熱心な質問を受けた他,移植の分野で有名な米ハーバード・メディカルスクールのフランシス・デルモニコ教授や,米ラッシュ大学のステファン・ジェンシック准教授等から,「ドナーとレシピエントの双方が納得しているのならば,問題ないと思う」と話された。またサミットの主催者の1人は,6月の米国移植学会議で予定されていた万波医師の発表が日本移植学会からの横槍で取り止めになったことを知っており,「興味深い方法であり,腎臓がんの生物学的特性を知らない移植外科医を教育する為,早く論文にするように」勧めた。

ⅳ 2008年1月2527日に米フロリダ州のマルコ島で開催された「米国移植外科学会冬季シンポジウム」で,万波医師らの修復腎移植に関する論文が演題トップ10に選出されると共に発表された。万波医師は,賞金1000ドルを授与され,滞在費が免除される招待講演の栄誉にも輝いた。米国移植外科学会のゴーラン・クリマトム会長は,万波医師らが行なった修復腎移植について,「新しい方向性を示しており,大変興味深く大きな前進だと思いました。アメリカでは腎移植の待機期間が1~5年と比較的短いですが,ドナーが不足している国や地域では,認知されて広まり定着するのではないでしょうか。更なる追跡調査は必要ですが,移植を待つ患者さんにとって一般的な選択肢の一つとなる可能性は大きく,ドナー不足の解消にも繋がっていくのではないでしょうか」と語った。

ⅴ 2007年春に東京・大阪で開催された「第1回国際腎不全シンポジウム」で講演した米国臓器配分ネットワークのティモシー・プルート会長は,「アメリカでもドナーが不足しているため,昔ならリスクがあるために敬遠されていたドナーの臓器でも,安全性に配慮しながら移植するケースが増えています。病気が転移しないことを前提として,修復腎移植を高く評価して支持しています。アメリカでは,ここ数年,政府が主導して,社会全体にさまざまな方法で臓器移植を増やしていこうとの気運が高まっています。修復腎移植はその流れにかなって,革新的で新しい方向性を示しているとして評価されたのではないでしょうか。何事も変化をもたらすことは難しく,大変な挑戦だと思います。」とコメントした。

ⅵ 移植関係で最も権威のある医学雑誌「アメリカン・ジャーナル・オブ・トランスプランテーション」にも修復腎移植42例の論文が掲載され,革新的治療として評価されるに至り,修復腎移植の国際的認知度はさらに高まった。

ⅶ 2008年8月1014日,豪シドニーで国際移植学会主催の「第22回国際移植学会議」が開催され,藤田准教授が,世界における過去の修復腎移植例を文献から収集し,その歴史やこれからの可能性について口頭で発表し,また,万波医師が小径腎がんの修復腎移植症例を日豪の合計症例として(甲C21P26)),藤田保健衛生大学の堤教授が日本で修復腎移植が実施された場合に予測される手術可能性(甲C2)について、それぞれポスター発表した。また、現地豪クィーンズランド大学のデイヴィッド・ニコル教授が,自らの55例を発表し,注目を浴びた。

ア 藤田准教授の発表内容(甲C21P1215))

い 研究対象には,生体ドナーまたは死体ドナーで偶発的に見出された様々な疾患例も含まれており,分かっているものだけで,これまで世界で199症例が認められ,その内21症例が良性腫瘍,112症例が良性疾患,8症例が尿管がん,58症例が腎細胞がんだった。

ろ オーストラリア等で積極的に行なわれている小さな腎細胞がんの修復腎移植については結果が良好で,がんの転移はない。また5年間の患者の生存率や移植臓器の生着率は,通常の生体ドナーあるいは死体ドナーと比較すると若干劣る。しかし,オーストラリアの症例ではレシピエントの年齢が比較的高く,日本でもドナーのほぼ半数が70歳以上と極めて高齢であるためで,ドナーの年齢を通常の移植に合わせて修正した場合,生体ドナー及び死体ドナーと概ね同等になる。

は 死体ドナーの症例の大部分では,潜在がんを評価する為の超音波,CTスキャン,腫瘍マーカー検査は実施されない。最近では,より多くの高齢ドナーを受け入れるようになってきているので,悪性腫瘍の病歴のないドナーの臓器にも潜在がんの可能性は高いといえる。これと比較して,修復腎移植の場合には,ドナー評価が詳細に行なわれる。腫瘍があることを私達は承知しているが,同時にその他の部位には腫瘍がないことも私達には分かっている。

に 悪性腫瘍の伝播のリスクの推定は可能であり,部分切除患者ではおそらく5%までである。これは実際には待機リスト状態で死亡するよりも低い数値である。これらのことを顧みれば,修復腎移植は,健康な生体ドナーから入手した腎臓の使用よりも倫理的に妥当だと思われる。

イ ニコル教授の発表内容

い 他の疾患に関する画像診断で腎細胞がんが発見されるケースが非常に増加している。また,腎臓の切除が行われる最も一般的な理由は腎がんである。治療として,開腹での根治的腎摘出術(全摘出),腹腔鏡下根治的腎摘出術,部分腎摘出術(部分切除)の3つの選択肢があるが,これらは,個々の患者や泌尿器科医の判断により,どれも広く用いられている。部分切除は一般に望ましいとされるが,実際には広く行なわれているわけではない。米国の最近のデータを見ても,2~4cmの腫瘍では僅か10%に過ぎない。クリーブランド・クリニックのような大規模施設の報告から見積もっても,過去10年でさほど変化していない。

ろ 移植の待機リスト中にいる60歳以上の透析患者の年間予想死亡率はおよそ20%で,オーストラリアでは,死体ドナーからの移植の待機期間は4~5年の為,修復腎移植を受けることが出来ない場合,多くの患者の命が失われる現実がある。

は 今年の5月までに55例の修復腎移植を行い,殆どの移植腎は機能し続けている。そして,修復腎移植の件数は増加しており,昨年行なった生体ドナーからの移植のうち,全体の20%を占め,非常に重要な臓器提供源となりつつある。

ⅷ ニコル教授が行なった修復腎移植43例に関する論文は,BJUIBritish Journal of Urology International)に掲載された(甲C21P2023))。

6 修復腎移植によって移植可能な腎臓が急増すること

50歳以上の一般市民を対象としたアンケート調査によると,小径腎癌になった場合,42%が全摘を希望し,その場合70%が腎提供に同意している。よって,推定ドナー数は783件となり,2012年の死体由来腎183件の4倍以上の「第三のドナー」が得られることとなる(甲C66P26))。



第3 患者の自己決定権

1 レシピエントの自己決定権

修復腎移植を受けることに,一定のリスクがあることに疑いはない。しかし同種のリスクは一般の腎移植(とりわけ死体腎移植)にも存するし,そもそも「移植を受けずに透析を継続する」ことにしてもリスクを伴う選択である。最も重要なことは,患者(レシピエント)が修復腎移植という医療技術について正確な情報を受け,正確な助言を受け,その情報と助言に基づいて自分自身の判断として修復腎移植を「選択できる」ということなのである。「人工透析を続けて緩慢な死に甘んじるよりは,一定の危険を冒しても修復腎移植を受ける」という選択は,本来,患者自身の人権である。治療を受ける権利として,当然尊重されなければならない。

2 ドナーの自己決定権(全摘か部切か)

腎臓等の疾患を有するドナーの側にも、腎臓全部摘出か部分切除かを選択する権利がある。特に小径腎ガンの場合には患者は、部分切除では残存部分の小さなガン細胞からガンが再発するリスクを負うのであるから、全部摘出を選択するのは患者本人の侵すべからざる権利である。したがって、「全摘して臓器を腎不全患者の役に立てる」という選択をすることも、患者(ドナー)自身の意思決定・権利行使として尊重されなければならない。


第4 修復腎移植の医療技術としての総括的評価と治療を受ける権利の尊重

以上述べたところから明らかなように,修復腎移植は慢性腎不全の患者に対する治療方法として優れており,相当の実績と生存率・生着率によって国際的に高く評価されており,日本の腎移植の現状からすると移植可能な腎臓を急増させる優れた方法であることは明らかである。このような医療技術をレシピエントやドナーが選択することは,患者の自己決定権として尊重されなければならない。とりわけ,慢性腎不全患者の修復腎移植を受ける権利は,治療を受ける権利として尊重されなければならない。


# by shufukujin-report | 2014-07-10 06:29 | 26.7.1最終弁論詳細(1)

26.7.1修復腎訴訟最終弁論(2)

(続き)



Ⅱ 被告らの主張する「修復腎移植の欠点」がいずれもあたらないこと

第1 悪性腫瘍の伝播

1 被告らの主張

 被告らは、悪性腫瘍が移植によってドナーからレシピエントに伝播する危険があるので、悪性腫瘍患者をドナーとする移植は絶対の禁忌であって許されない旨主張する(答弁書7~8P、第2の2(2)②ⅰ)及びⅱ))。

 最も端的な主張は、超党派議員勉強会での被告寺岡の以下の説明である。

  「がんは移植しても発症しないとよく言われていますが、全くの間違いでありまして、これは様々な国際統計で明らかにされています。若干、「古い統計」ではありますが、43%のがんが、ドナー以外のがんが、発症しております。「最近のUNOSの統計」でも4.3%が発症しています。これはがんが完治して5年以降に提供した場合にでも4.3%がうつる可能性がありますと示しています。」

2 反論

 ⅰ ペンの学説に依拠する主張について

被告寺岡の前記発言にいう「古い統計」とは、米シンシナティ大学のペン教授の1997年の論文を指すところ(「移植により担癌ドナーからがんが持ち込まれる可能性が高い」と唱え、世界の古い移植法の制定に大きな影響を与えた。以下、「ペン学説」という。)、ペン学説により、その後しばらくの間、移植臓器に発生するがんは、「すべてドナー由来」、つまり移植による持ち込みだと考えられてきた。しかしながら、レシピエントに癌が発生したからといって、その癌がドナーから持ち込まれたのか、レシピエント固有の癌だったのか両方の可能性がある。ドナーの癌がレシピエントに移ったことの証明には、レシピエントの癌細胞がドナーと同じ遺伝子を持つことが必要である(このことは吉田証人も認めている(吉田証人調書185項))。

現在では以下のとおり、その後の研究によって、臓器移植患者に発生するがんは、ほとんどがレシピエント固有の癌であったことが判明している。ペン学説は、遺伝子解析が行われていなかった古い時代の誤った説であり、被告らの主張には医学的根拠がない。

  ア イタリアのペドッティ博士らは、2004年、腎移植後に発生したレシピエントのがんについて、6ヶ月以内に発生した10例と6カ月以後に発生した10例について腫瘍のDNAを、ドナーとレシピエントのDNAと比較したところ、DNA抽出に成功した17例中16例(94%)でレシピエント由来と判明し、残り1例では用いたSTR法という検査法では決定できなかったと報告した。

  イ 米シンシナティ大学のペン教授の後任教授であるブエルは、2005、ペン教授の「移植腫瘍登録」症例の中に、小径腎癌を切除後に移植した14例があることを見つけ、長期追跡したところ1例も再発がなかったと報告した(甲C3)。

  ウ 米ピッツバーグ大学とイタリア国立移植センターで大規模疫学的研究がなされたところ、当該研究に関する2007年1月のタイオーリらの発表では、癌のリスクのある108例の臓器移植について癌の転移はなかったと報告された(甲A46C4C13)。

  エ ニコル教授は、2007年7月現在、43例の修復腎移植を行っているが、成績はよく、レシピエントへの癌の転移は1例もない(甲A42)。

  オ スペイン・バルセロナ大学のボイス博士らは、2009年、移植後14年目の腎臓に発生した腎癌のDNAを解析し、それがレシピエント由来であることを証明した(甲C66P121315行))。

ⅱ カウフマン論文に依拠する主張について

被告寺岡の前記発言にいう「最近のUNOSの統計」とは、UNOS(全米臓器共有ネットワーク)のカウフマン論文(移植腫瘍登録:ドナー関連悪性腫瘍【トランスプランテーション誌2002742号】)を指すところ、当該論文では、34,933件の脳死臓器移植のうち、ドナーによるがんの持ち込みがあったのは15件(0.043%)、ドナーの血液細胞ががん化した例が6件(0.017%)あったと指摘し、「米国では、ドナー臓器によるがんの持ち込みは極めて少ない。移植待ち期間の患者死亡率の高さに比べると、担癌ドナーの受け入れに伴う危険率は低いので、ドナー基準の拡大を図るべきだ」と主張している。被告寺岡は、「がんのリスク」を強調するためか、「0.043%」を「4.3%」と100倍も誇張している(甲C66P12の下から9行目~P13の2行目))。

ⅲ 「悪性腫瘍の伝播」と「部分切除」との矛盾

「悪性腫瘍が移植によって伝播する」という主張は、小径腎ガンの治療法として部分切除を称揚し、腎臓の全部摘出を批判する被告らの主張と矛盾している。

なぜなら、部分切除においては、小径腎ガンの部分のみを摘出しその余の部分を患者に残すのだから、切除しなかった部分からガンが再発するリスクは常に存する。しかも、部分切除術の場合には修復腎移植と異なって、腎臓を全部摘出したうえでガンの残存について精査することもできないから、がんの再発のリスクは修復腎移植におけるガンの伝播のリスクよりもさらに高いことは明らかである。

にもかかわらず被告らは、小径腎ガンの治療法としては部分切除をより適切なものとしつつ、小径のガン病変部分を除いた摘出腎臓を移植することを激しく非難している。このような姿勢ははなはだしく自己矛盾しており、科学の名に値しない非合理なものであるから、被告らのこの点を理由とする修復腎移植批判がご都合主義にもとづく「為にする」ものであることは明白である。

第2 腎臓全摘出の医療としての適応性

1 部分切除のみが標準治療ではなく、現在においても、全摘も標準治療とされていること

ⅰ 被告らの主張

   被告らは、「小径腎癌の標準治療は部分切除であり、全摘は許されない」と主張し、腎移植関連5学会も、直径4㎝未満の癌がある腎臓を用いる「修復腎移植の臨床研究」をもとになされた先進医療認可審査において、連名で厚生労働大臣宛に「要望書」を提出し、「小径腎癌の標準的治療は部分切除であり、腎摘出は許されない。」と主張している(甲B34。答弁書7P第2の2(2)①ⅳ)もおそらく同旨)。

ⅱ 反論

   被告らの主張は、癌が発生した部位により部分切除が不可能なケース、設備等の理由で部分切除ができないケース、患者が部分切除よりも全摘を希望するケースがあることを無視ないし軽視しているばかりか、現実の部分切除の実施件数、率を考慮していない点で暴論としかいいようがない。

ア 藤田保健衛生大学の堤教授が2007年3月に国内の14病院での腎臓の全摘割合を調査したところ、病院間でのばらつきが大きく、かつ、小径腎癌で93%が全摘であった(甲C1)。

  イ 2008年2月27日に「腎移植を考える超党派議員の会」の第2回会合が開かれ、厚生労働省から西山健康局長、原口臓器移植対策室長、木倉大臣官房審議官などが出席した。この日、厚生労働省から議員団に対して、議員団がかねてから要求していた「腎摘出の現状」と題する報告書(甲B30)が提出された。それによると、直径4㎝未満の小径腎癌の全摘率は82.5%で、上記①の堤発表の数値とほぼ一致していた。

  ウ 堤教授、アメリカ・フロリダ大学の藤田士朗教授、および瀬戸内グループの医師らは、2008年、2大学病院を含む国内の10病院の病理医に対して、2004年から2006年の間における小径腎癌の手術調査を行ったところ、全腎癌数のうち46%が小径腎癌で、小径腎癌の全摘割合は83%であった(甲C2)。

  エ アメリカのホレンベックBK外による2006年2月の論文によると、アメリカの66000例の腎癌手術のうち、部分切除は7.5%(全摘は92.5%)であった(甲C9)。

  オ 201011月の日本泌尿器科学会雑誌(甲C41)においても、2007年~09年の間に教育施設において行われた部分切除術は全体の19.7%しかない(原告ら準備書面(13)の第1)。

  カ 2011年3月の日本泌尿器科学会雑誌(甲C42)では、全摘と部分切除についての議論、報告がなされているところ、症例によって全摘と部分切除とが選択されるべきであるとされ、また、大病院においてさえ部分切除の方が圧倒的に少ない(原告ら準備書面(13)の第2)。

  キ 学会提出の「要望書」に記載されている「小径腎癌の標準的治療は部分切除であり、腎摘出は許されない。」旨の主張を確認するため、厚労省は学会に日本のデータの提出を求めたが、学会が応じなかったため、厚労省は独自に全国のがん拠点病院に対してアンケート調査を行った。その結果は、2001年は全摘71%、部分切除29%、2005年は全摘70.6%、部分切除29.4%、2009年は全摘58.4%、部分切除41.6%、2011年は全摘46.7%、部分切除53.3%であった。すなわち、修復腎移植が被告らによって批判された2005年(平成17年)頃では、7対3の割合で圧倒的に全摘が多く、要望書が提出された2011年当時においても、ほぼ半々の割合で、医療現場の現実は、とても、「小径腎癌の標準的治療は部分切除であり、腎摘出は許されない。」という状況ではない。

  ク 被告らが所属していた大学病院への調査嘱託の結果においても、小径腎癌でさえ、部分切除より全摘の割合が高かった(原告ら準備書面(15))。

  ケ 世界的権威のある医学書であるキャンベル・ウォルシュ・ウロロジーでも、直径4㎝以下の小径腎癌でも全摘は標準治療とされている(甲C11 )。(このことは吉田証人も認めている(吉田証人調書179180項))

2 全摘と部分切除とでは、ドナーの予後に差は存しないこと

ⅰ 被告らの主張

被告らは、①全摘と部分切除とではドナーの予後に差がある旨(答弁書16(5)②「全摘を行うことにより生命予後が悪化することが統計上明らかになっている」)、及び、②瀬戸内グループの行った修復腎移植の内の尿管癌のドナーの生命予後(5年生存率)が悪い旨(同旨、乙51、吉田証人調書1921項)、主張する。

ⅱ 反論

  ア 「統計上」とは何を意味しているのか明確でないが、乙第29号証(ヒューストン・トンプソンらの論文)を意味するのであれば、それに対する反論は、原告らの準備書面(4)の第4記載のとおりである。

    なお、生存率は患者のパフォーマンスステータス(全身状態)が影響を与える重要因子であることは、吉田証人も認めるところである(吉田証人調書178項)。

  イ 米クリーブランド・クリニック(米国トップレベルの病院)泌尿器科の1995年1月の調査研究では、単発性、小径(4㎝以下)、限局性、片側性、かつ特発性の腎細胞癌を持つ患者を対象とした88名の患者(全摘:42名、部分切除:46名)について予後の調査(48±29カ月)を行ったところ、年齢、性別、腎臓機能、糖尿病、高血圧、腫瘍の大きさ、腫瘍の位置、腫瘍の進行度において差異は認められず、全摘、部分切除、のいずれも、小径腎癌の患者の治療には安全で効果があるとされている(甲C15)。

ウ 米メイヨー・クリニック(同じく米国トップレベルの病院)泌尿器科の1996年6月の調査研究では、低進行度(ステージⅡ以下)の腎細胞癌の患者につき、185名の部分切除を受けた患者と、それらと年齢、性別、癌の進行度、悪性度が適合し、かつ全部摘出を受けた209名の患者について比較検討したところ、総生存率、非再発生存率、癌特異生存率のいずれも有意な差は認められなかった(甲C14)。

  エ 米ミネソタ大学のハッサン・イブラヒム外の2009年1月29日付論文では、腎臓の全摘出は、糸球体濾過量(GFR)の低下を促すものではなく、生命予後の悪化も認められないとされている(甲C51。原告ら準備書面(17)参照)。

  オ キャンベル・ウォルシュの「ウロロジー」においても、全摘と部分切除の効果は同様で、術後の生存率にも差異がないとされている(甲C54)。

  カ 日本では、これまで全摘のドナーの予後についての調査は行われていなかった(吉田証人調書159172項、被告大島調書186187項)。すなわち、被告ら自身、これまでドナーの予後のデータを全く把握していなかった。

また、吉田証人および被告大島は自身、ドナーに対して、片方の腎臓を摘出すると生命予後が悪くなるという説明(インフォーム)をしていない(吉田証人調書175177項、被告大島調書114項)。

 

3 自家腎移植は標準治療とはいえないこと

被告らはまた、「移植して使える腎臓なら元の患者に戻すべきである」旨主張する(なお、こうした術式を「自家腎移植」と呼ぶ)。

しかしながら、実際の医療現場では、自家腎移植はほとんど行われていないことは、被告らが所属していた日本におけるトップレベルの大学病院への調査嘱託の回答からも明らかである(原告ら準備書面(9)で詳述した)。

第3 切除の際のドナー体内のガン転移

1 腎血管(動・静)の結紮・切離の順序について

ⅰ 被告らの主張

被告らは、答弁書P5(第2の22)①ⅱ))において、以下のとおり主張する。

ア 移植を前提とした術式と癌治療を前提とした術式は、その手術内容・順序が全く異なる。

イ 癌治療を目的とした腎臓摘出の方法であれば、手術操作による癌細胞の血管性転移を防ぐため、摘出に際し早い段階で腎血管(動・静脈)を結紮・切離す。これにより、出血量を最小限に止めることが可能であるだけではなく、特に、腎癌・尿管癌の場合には、癌細胞が血行性に転移することを防止するために、先ず、血流を遮断して臓器(腎臓)を摘出する。

ウ 移植目的の手術(移植用腎採取術)においては、臓器の虚血を防いで臓器機能を維持し、移植を成功させる確率を上げる観点から臓器摘出の最終段階に至るまで血流を維持する必要がある。

エ 今回問題とされた病腎移植においては、腎癌・尿管癌の治療であるにもかかわらず、最終段階で腎血管(動・静脈)が結紮・切離されるという移植目的の手術の手順をとっており、血行性に癌細胞の播種の危険を増大させ、癌などの悪性腫瘍の手術の術式として容認できない内容のものとなっている。

ⅱ 反論

ア 下部尿管癌に関しては、尿管への血流を支配している血管は腎血管(腎動・静脈)だけではない。特に、尿管の中部から下部は、主に腹部大動脈や腸骨動脈など、腎臓以外の血管から血液供給を受けているため、腎臓への血流のみを止めることは重要な意味を持たない(甲C16)。

よって、腎血管(動・静脈)の結紮・切離をいつの段階でするのかは問題とならない。

    そもそも、被告ら主張の根拠となるような資料、文献はない。

イ 小径腎癌に関しては、最近は、小径腎癌の治療方法として、腎臓の全部摘出よりも部分切除の方が推奨されるようになってきたが、小径腎癌の部分切除の場合、癌病巣切除時の出血を止めるために、止血鉗子による腎血管(動・静脈)の一時的止血(結紮・阻血)が必要となり、これにより腎臓に「温阻血時間」(※)が生じる。よって、小径腎癌の部分切除では、腎臓の「温阻血時間」をできるだけ短くするため、止血鉗子による腎血管(動・静脈)の一時的止血(結紮・阻血)を癌部分の切除をする直前に行う(腎血管【動・静脈】の血流を可能な限り維持する。)。

 このことは、腎血管(動・静脈)の結紮の順序は問題とならないということを示すし、小径腎癌の治療方法として部分切除が相当であると主張しながら、早い段階で腎血管(動・静脈)を結紮・切離しなければならないと主張するのは、矛盾主張である。

 小径腎癌の全摘と部分切除では、血管の処理の時期が異なっても遠くへ腎細胞癌が転移する確率は同じであり、血管処理の時期の相違で転移する確率が異なると述べる文献はない。

 ※ 臓器の血流が止まってから臓器を移植して血流が再開するまでの時間を阻血時間というが、とくに体温の状態で阻血がおこると、細胞の代謝が行われているにもかかわらず、酸素や栄養が補給されないため細胞が死滅するので、この時間を〈温阻血時間〉と呼び、心臓や肝臓では0分、腎臓や肺では30分とし、早く臓器を冷やして細胞の代謝を抑えるようにしなければならない。心臓が動いている脳死の状態で摘出すれば、障害のないまま取り出すことができ、温阻血時間も短くできる。

2 尿管癌の場合の尿管の切断

ⅰ 被告らの主張

被告らは、被告ら準備書面(11)P6~7(第6の1項)において、以下の通り主張する。

   「尿管癌は、多中心性(1つの臓器に複数の癌病巣が発生する現象のこと)に発育することが多く、肉眼的に一見正常に見えても、顕微鏡で見ると、尿管癌の微小癌巣が存在することがあり、そのため尿管癌の手術においては、(尿管を切断せずに)腎・尿管・膀胱壁の一部を一塊として摘出することが原則とされているのに、瀬戸内グループが行った尿管癌の術式は、尿管を途中で切断するという手術手順を取っており、尿管癌が腎提供者となったドナーの体内に散布された可能性は否定できない。」

また被告らは、ヨーロッパ泌尿器科学ガイドライン(乙44)においても「尿管を切断することは腫瘍を播種させる可能性があるため、行ってはならない」と記載されている、とも主張している。

ⅱ 反論

  ア 前提(問題整理)

い まず、尿管癌の手術は、摘出された腎臓を移植に用いるかどうかに関係なく、腎臓、および尿管の全部摘出である。このことについては、原告ら、被告ら間に争いはない。

なお、摘出された腎臓、および尿管は、その後、廃棄されるのが通常であるのに対し、尿管癌の場合の修復腎移植(なお、修復腎移植に適応する尿管癌は、尿管の下部【膀胱に近い部分】に癌が発生した「下部尿管癌」のみで、尿管の上部【腎孟を含む腎臓に近い部分】や尿管の中部に癌が発生した上部尿管癌、中部尿管癌では修復腎移植は行わない。)では、癌が存する部分の尿管を切除して摘出された腎臓をレシピエントに移植する(当然、尿管は短くなる。)。

ろ 腎臓、および尿管を全部摘出する方法として、①尿管を途中で切断することなく、腎臓、尿管および膀胱壁の一部を一体として摘出する方法、②肉眼的に正常と思われる部分の尿管を途中で切断した後に、腎臓、尿管、および膀胱壁を摘出する方法とがあることに関し、被告らは、「②尿管を途中で切断した後に、腎臓、尿管および膀胱壁を摘出する方法は、許されない。」、「①腎臓、尿管および膀胱壁の一部を一体として摘出されなければならない。」と主張しているのである。

イ 反論

 い 「尿管を途中で切断する」というのは、癌がある尿管部分を切断するのではない。「肉眼的に正常な部分の尿管を切断する。」ということである(なので、癌の播種はそもそも問題とならない。)。

ろ  ①尿管を途中で切断することなく、腎臓、尿管および膀胱壁の一部を一体として摘出する方法だけではなく、②肉眼的に正常な部分の尿管を途中で切除した後に、腎臓、尿管、および膀胱壁を摘出する方法も、標準治療として認められている。

は 世界的権威を有する医学書であるキャンベル・ウオルシュ「ウロロジー」(甲C17C53)でも、「(尿管の)管腔からの腫瘍の漏出を防止するために尿管と腎臓の連続性を保持することも考えられる。しかし罹患した腎臓は処置が困難であり(腎臓に脂肪が付き過ぎたりして手術操作に支障をきたす場合等のこと)、遠位尿管(「下部尿管」のこと)で肉眼による異常が認められない部位において結紮またはクリップ間で切断される限りにおいてはこの処置(尿管を切断することなく尿管と腎臓の連続性を保持すること)は不要である。」と記載されている。

すなわち、①尿管を途中で切断することなく、腎臓、尿管および膀胱壁の一部を一体として摘出する方法だけではなく、②肉眼的に正常な部分の尿管を途中で切除した後に、腎臓、尿管、および膀胱壁を摘出する方法も、標準治療として認められている。

に 乙44には、一見被告らの主張に沿うかのごとき記載がある。しかしながら、この記載に続く部分「4.2保存的治療」の部分では、「過去何十年に渡り、限られた適応での保存的治療は、根治術の生存率に引けを取らないことが示されている。」、「多くの泌尿器科医が尿管癌がUS(下部尿管癌)に存在する場合、例え浸潤癌であっても、腎温存手術を施行している。」と記載されている。この部分は尿管癌の場合の腎臓の保存的治療について記述したものであり、「保存的治療は否定されない」旨を述べているものである。

ところで、尿管癌の場合の腎臓の保存的治療を行うに当たっては、尿管にできた癌を切除する必要があるので、必ず、尿管を途中で切断することになる。したがって、乙44は、尿管部分を途中で切って摘出するという手術法を価値あるものとして認めているものであるから、被告らが乙44を根拠として上記術式が「絶対やってはいけない手術法」である主張するのは完全な誤り、もしくは悪質な誤導である。

      また、乙44は、2004年(平成16年)のヨーロッパ泌尿器科学会ガイドラインであるが、その2012年(平成24年)版(甲C71‐1、2)(「3.7.11 根治的腎尿管摘除術」項)は、「上部尿管にある腫瘍の位置に関係なく、膀胱カフを切除する根治的腎尿管摘除術がUUTUCCのゴールドスタンダード治療である(LE:3)(8)。RNU手技は、腫瘍切除中に尿管への進入を回避することによって腫瘍の播種を予防するという播種学的原則に従っていなければならない(8.69)」と述べている。このことからも、乙44を「尿管の切断は腫瘍を播種させる可能性があるため、行ってはならない」としているとする被告の主張は誤りである。

「腎臓の保存的治療」とは、尿管癌が発生した方の腎臓を全部摘出するのではなく、腎臓を残す治療のことを言う。主に、尿管癌が発生した方の腎臓とは別のもう一つの腎臓が機能していないなど、どうしても尿管癌が発生した方の腎臓を残さなければならない場合に行われる。

ほ 吉田証言

     吉田証人は、以下のとおり証言した。

   (1) 血管処理の時期の相違(最初にくくるのか、最後にくくるのか)で、ガンが転移する確率は異なると記載されている文献は知らない(吉田証人調書183項)。

(2) 最近は腎ガンの部分切除の割合が高まっているが、部分切除の手術方法は大きく分けて2つある。腎動静脈に非常に大きな血管に近いところを部分切除するときは、そこを取るという瞬間に駆血して、取った後に解放する。部分切除の非常に小さい4センチ以下、あるいは2センチぐらいの腎ガンに関しては、駆血しない(血流を止めずに、そのまま癌部分を切除する。)(吉田証人調書192193項)

     従って、①血管処理の時期の相違によりガン転移の危険が高まるという被告らの主張には文献上の根拠がないことが明らかであるし、②小規模な小径腎ガンの部分切除が「血流によるガン細胞の転移」の危険は無視できるものとして行われている以上、被告らの主張が為にするものであることは明白である。

第4 「高原解析」は信用できないこと

1 修復腎移植の成績は悪くないこと

 ⅰ 修復腎移植の成績が一般の死体腎移植と比較して遜色がないことは、本書面Ⅰの第3項で述べたとおりである。

   これに対して被告らは、修復腎移植の長期成績が非常に悪いと主張する。被告の主張は、概略以下のとおりである(答弁書8P)。

悪性疾患(ガン疾患)で摘出された腎臓の5年生存率は48.5%であり、同時期の生体腎移植の5年生存率90.1%と比較してきわめて低い。

悪性疾患で摘出された腎臓の5年生着率は15.3%であり、同時期の生体腎移植の5年生着率83.4%と比較してきわめて低い。

被告らが主張する修復腎移植の上記数値は、被告高原が発表した研究報告「国外における病腎移植の研究に関する調査」(乙2号証)、同じく論文「腎疾患のある非血縁生体ドナーから移植された腎移植患者の低い生存率」(乙47号証の1、2)と共通するものなので、被告らの上記主張が被告高原の解析(以下単に「高原解析」と呼ぶ)を根拠としているものであることは明らかである。被告高原自身も、平成19年3月30日の厚労省における記者発表、及び同20年3月19日の「病腎移植を考える超党派の会」における説明(被告高原の本件加害行為の一部)において、「高原解析」の結果に基づいて発表・説明を行っている(「超党派の会においては被告相川も、「高原解析」に基づいた発言をしている)。

2 修復腎移植の成績の解析の本来のありかた

ⅰ 医学統計において、異なった患者グループの成績を比較するには、比較する因子以外の患者属性をできるだけ均一化しなければならない(とりわけ患者の全身状態は重要な予後因子である)。異なったリソースの腎移植の成績を相互比較する場合には、生体腎移植・死体腎移植・修復腎移植による区分、あるいは病名による区分だけでなく、ドナー及びレシピエントの年齢、過去の移植歴(いずれも患者の全身状態を反映する指標となる事項である)などを比較するグループ間でできるだけ均一化しなければ、科学的に意味のある比較にはならない。

 修復腎移植の(長期成績を他種の腎移植と比較する場合の)特性として、以下の各事項が挙げられる。

  ア 修復腎移植のデータ数が少ない。

    瀬戸内グループが行った修復腎移植は総数42例であり、一般の生体・死体腎移植と比較するには症例数が少ない(症例数が少なければ少ないほど、成績に関するデータとしての信頼性が乏しくなる)という構造的な問題点がある。

  イ ドナーの年齢

    瀬戸内グループの行った修復腎移植のドナーの年齢は一般の生体・死体腎移植よりも高い。市立宇和島病院の25例では、ドナー22(ネフローゼ患者の両側腎摘出が3人ある)11(50)70歳以上の高齢者である。高齢者の臓器は老化が進んでいることが多いので、こうした臓器の移植の成績は一般に若年者の臓器と比較して悪くなる。他方、日本移植学会のドナー選択基準では65歳以上の高齢者は「好ましくない」とされているので、こうした高齢者の臓器が生体腎移植されることはほとんどない。

  ウ レシピエントの移植回数

    瀬戸内グループの行った修復腎移植のレシピエントの中には、移植を受けるのが「複数回目」という者が多い。市立宇和島病院の25例中では、初回7例、2回目12例、3回目4例、4回目2例である。複数回目のレシピエントはいずれも親族からもらった腎臓が機能しなくなり、2回目以後に修復腎移植を受けたものである。こうしたレシピエントは修復腎移植時には腎不全症状が悪化していることが多く、初回移植患者(特に生体腎移植患者)と比較して全身状態が一般に悪い。他方、移植学会のデータの圧倒的多数は(腎移植を複数回受けられる機会に恵まれる患者は日本にはほとんどいないので)、初回腎移植のものである。従って、この点で一般の生体腎・死体腎と単純な比較が可能なのは、25例中、修復腎移植が初回移植であった7例のみである。

ⅲ 従って、修復腎移植の長期成績を一般の生体・死体腎移植と比較する場合には、上記の諸点に留意して、実質的・科学的に意味のある比較結果が得られるようにしなければならない。

  そのためには、

 ア データ数を極力増やすことが強く求められる。

 イ 患者の全身状態による偏差の影響を極力除去するため、ドナーの年齢やレシピエントの移植回数を要素として加えた多変量解析を行うことが望ましい。

ウ 比較は死体腎移植(献腎移植)との間で行うべきものである。(修復腎移植は多くの場合、腎がんが好発する60歳以上の比較的高齢者の小径腎癌を用いるので、健常者をドナーとする生体腎移植とは単純に比較するべきではない。死体腎移植との比較でなければ科学的意義がない。

   これらを行わずに、数的に限定されたデータを一般の腎移植(とりわけ生体腎移植)と単純に比較するのは非科学的であり、恣意的な比較という非難を免れない。

3 高原解析の問題点

高原解析には、以下のとおり、多数の構造的な、あるいは説明不能な問題点がある。

 ⅰ 解析の基本姿勢にかかる問題点

ア データの量が少ないのに、市立宇和島病院の25例のみを用い、呉共済病院・宇和島徳洲会病院の17例を加えないままで解析したこと

前項で述べたとおり、母集団の症例数が少なければ少ないほど、成績に関するデータとしての信頼性は乏しくなる。解析の信頼性を高めるには、呉共済病院と宇和島徳洲会病院の症例を加えて「修復腎移植全42例」のデータを使用すべきであった。被告高原はこれに反し、市立宇和島病院の25例のみを用いて解析を行っている。(呉共済病院・宇和島徳洲会病院に対しては、データ提供の依頼が全くなされていない。)

イ 多変量解析を行うことなく、単純に生体腎・死体腎移植との比較を行ったこと

    前項で述べたとおり、ドナーの年齢は移植される腎臓の適性、レシピエントの移植回数はレシピエントの全身状態という、いずれも移植成績に大きく影響する患者属性であるのに、被告高原はこれを無視して、機械的・単純に死体腎・生体腎(研究報告・論文においては生体腎のみ)のデータと比較する解析を行っている。

  ウ 研究報告・論文において生体腎移植との比較のみを行ったこと

  エ 使用したデータの質に問題があること

    市立宇和島病院においては、25例のうち過半のカルテが廃棄されており、これらについてはデータを人の記憶に頼らねばならなかった。しかも、被告高原が「解析に使用したデータの全部」と称する甲C34号証は、カルテや記憶などを編集した二次データであって、しかも(被告らの主張によれば)当該二次データの作成者や作成経緯は全く不明であった。

従って、高原解析に使用されたデータは質的に非常に劣るものであった。

現実に、

い 解析に使用したとされているデータ(甲C34号証)には、以下のとおり、多数の誤謬がある。

    (1) 現実には死亡していないレシピエントを死亡扱いしている(甲C34号証の⑬の患者。甲C31号証の一覧表の31の患者に該当する)。

    (2) 現実には死亡している患者を生存扱いしている(甲C34号証の⑭の患者。甲C31号証の一覧表の21の患者に該当する。⑭の患者は④の患者と同一人なので、どちらか片方だけが死亡していることはありえない)。

    (3) 現実には(国外移転のため)追跡不能の患者を生存扱いしている(甲C34号証の㉒の患者。甲C31号証の一覧表の14の患者に該当する。㉒の患者は㉓の患者と同一人なので、どちらか片方だけが追跡不能であることはありえない)。

    (4) 死亡患者の死亡日の大半が誤っている(②、④、⑦、⑯、㉔)。

    (5) 平成12年に手術した患者の移植腎機能廃絶日が平成1年とされている(⑭)。

(なお、甲C31C34B8の各証に記載されたレシピエントは、書証により配列が異なるため、やや照合しにくい。そこで便宜のため、各書証に記載された手術日、移植腎の病名、及びレシピエントの性別等の比較の結果判明する対照状況の表を、本書面末尾に添付する。)

   ろ 甲C34号証と、それを用いた解析結果として発表された甲B8号証の別表に、重大な齟齬がある。

    (1) 甲C34号証で生存として扱っているレシピエントを死亡扱いにしている(甲C34号証の⑭の患者)。なお上記取扱いは客観的には正しい。

    (2)  甲C34号証で生存として扱っているレシピエントを生死不明扱いにし(甲C34号証の③及び㉒の患者)、生死不明扱いにしている患者を生存扱いにしている(甲C34号証の㉓の患者)。この取扱いは、㉒の患者については正しいが、③及び㉓の患者に関しては誤りである。前述のとおり㉒と㉓のレシピエントは同一人で③は別人なのであるが、被告高原はおそらく「③と㉒のレシピエントが同一人で㉓が別人」と誤認したのであろう。

このような齟齬が生じた原因は、被告らが高原解析の経緯を全く明らかにしないので推測するほかないが、被告高原が甲C34号証のデータの誤りに気づいて自らデータを収集補正したのか、あるいは解析中の混乱により齟齬が生じたのかのいずれかであろう(前者であれば「高原解析に使用したデータは甲C34号証である」との被告らの主張は虚偽である)。いずれにしても、甲B8号証の内容にも前記ろ(1)のような重大な誤謬がある以上、解析がずさんなものであったことは疑う余地がない。

被告高原は、このように質的に劣る市立宇和島病院のデータのみを使用し、カルテが完全に保存されていた呉共済病院・宇和島徳洲会病院のデータを使用しないで、解析を行ったものである。

ⅱ 解析手法に不備があること

  被告高原は、研究報告においても論文においても、具体的な解析方法について全く説明しないので、解析方法の具体的な欠陥を指摘することが難しい。しかしながら、高原解析が結論とした数値には、現実と異なる、あるいは明らかに不合理なものがあるので、その「解析手法」にも問題があることは明らかである。

 ア 現実と異なる死亡者数

   被告高原は、研究報告及び論文において、「悪性疾患で摘出され移植された11人の中で、7人が死亡しており、その7人の内5人は移植腎が機能したまま死亡している。」と述べている(乙2号証9P、乙第47号証の2の2P)。

ところが、高原解析時には、市立宇和島病院でガンの修復腎移植を受けた11人中、生存が公式に確認できるもの4名、国により公式な追跡が不能となったもの1名、死亡していたもの6名であった。(甲C34号証とB8号証で「追跡不能」者が異なるが(C34号証では㉓、B8号証では(C34の③に相当する)13行目記載者)、数に関しては一致している。)

被告高原の「7人死亡」という前記記述が、現実の死亡者数なのか、それとも何らかの「解析」を経た数値なのか不明であるが、前者であれば明白な虚偽であり、後者であればその「解析手法」は正当なものではありえない。

イ 明らかに異常な「5年生存率」

被告高原は、「悪性疾患群」の5年生存率を、平成19年3月発表では46.7%、研究報告及び論文では48.5%としている。

ところが、市立宇和島病院でガンの修復腎移植を受けた11人中、5人(甲C34号証の③、⑩、⑫、⑯、㉑。うち⑯は移植後6年10か月で死亡)が移植後5年経過時に確実に生存し、1人(同㉓)が公的追跡不能、5人(②、④、⑮、⑰、㉔)が死亡していた。

カプラン・マイヤー法(被告高原は論文で同法を用いたと記述している)では、追跡不能となった者は分母・分子から除外しなければならない。この場合の「5年生存率」がなぜ46.7%ないし48.5となるのか、被告高原が何の説明もしないので不明であるが、少なくともその「解析手法」は正当なものとは考えられない。

ウ 1人数回実施の場合のカウント方法、追跡不能例の取扱い

 市立宇和島病院における修復腎移植のレシピエントのうち、2名は各2回の移植を受けている(甲C34号証の③と⑫、㉒と㉓がそれぞれ同一人である)。そのため、症例数は25例であるが、レシピエント数は23人である。また前記のとおり、カプラン・マイヤー法では追跡不能者は分母・分子から除外する。ところが被告高原は、論文において前記のとおり悪性疾患群の死亡者を7人と記述し、また平成20年に日本移植学会の学会誌「移植」に発表した調査報告書「市立宇和島病院における病腎移植の予後検討」において「25人の病腎移植患者は、2006年3月時点で、14人が生存、9人が死亡、2人が海外のため不明であった」と記述している。

 このため、高原解析においても、①症例数と患者数の混同、②追跡不能者と死亡者との混同が、故意または未熟により行われていることが、強く疑われる。

4 問題点の性格と方向性

前項記載の問題点は、全て専門的知識がなくても一見して明らかな不備ないし誤りであるうえ、修復腎移植の成績を低く判定する方向に作用する性格のものである。とりわけ、①「瀬戸内グループ」の全42例中,市立宇和島病院の25件だけを殊更に取り上げて,生存生着率が顕著に高い呉共済病院・宇和島徳洲会病院27(10年生着率85.6)を解析対象から除外したこと、②修復腎移植のドナーが高齢であること(70歳以上のドナーは,修復腎では42.9%であるのに対し,死体腎では2.1%,生体腎では4.3%)を無視して単純な比較のみを行ったこと、の2点により、高原解析による修復腎移植の成績が低くなることは、解析前にすでに決定づけられている。

各問題点のこうした性格及び方向性に鑑みれば、こうした問題点が解析者の恣意によらずに発生しているとは常識上考えられないので、被告高原の解析はその全体が非常に作為的・恣意的なものであることは明らかである。

5 解析及びその結果についての高原の態度

ⅰ 解析やデータについての説明をしないこと

高原解析においては、解析の内容そのものとは別に、①解析に用いた手法やデータの説明がなされておらず、かつ、②ⅰエにおいて指摘したデータの性格についても説明がなされていない。(より正確に言えば、論文においては「データの性格」についての言及がわずかになされているが、後述のとおり、その言及は虚偽である。)

  しかも被告高原は、本件訴訟においても、これらの説明をほとんど行わない。

ⅱ 論文における虚偽の記述

被告高原は論文において、「『病腎移植』42例はたった1人の医師が行ったもので、2病院ではカルテが破棄されていたので、記録保持が完全だった1病院の症例25例のみを病院の依頼を受けて解析した」と述べている。

しかるに、事実はこれと全く逆である。すなわち、

ア 市立宇和島病院においては、前記のとおり、25例のうち過半のカルテが廃棄されており、これらについてはデータを人の記憶に頼らねばならなかった。しかも、被告高原が「解析に使用したデータの全部」と称する甲C34号証は、カルテや記憶などを編集した二次データであって、しかも(被告らの主張によれば)当該二次データの作成者や作成経緯は全く不明であった。

イ 被告高原が「カルテが破棄されていた」とする呉共済病院及び宇和島徳洲会病院では、逆に、全てのカルテが完全に保存されていた。

被告高原がこのような事実を知らないわけはないので、上記の論文の記述は完全な虚偽である。

ⅲ 以上のような被告高原自身の「高原解析」に関する行為のあり方からも、「高原解析」が恣意的に行われた信頼できないものであることが裏付けられると言える。

      

第5 瀬戸内グループが行った修復腎移植の手続、及び個々のドナーの腎臓全摘出の適応性について

  被告らは、修復腎移植の問題点としてほかに、①ドナーに対する腎臓全摘出に関するインフォームド・コンセントの欠落、②ドナー・レシピエントに対する「修復腎移植」についてのインフォームド・コンセントの不足、③移植に至るまでの(倫理委員会での)検討不足、④レシピエント選定の不公正、を主張している。

  しかしながら、これらの問題は、修復腎移植という術式に内在する問題ではなく、単に「瀬戸内グループの行った修復腎移植にはそうした問題があった」という主張にすぎない。

  原告らは、瀬戸内グループが行った修復腎移植のそのままの復活施行を希望しているのではなく、医療技術・術式としての修復腎移植の復活を望んでおり、被告らが「医療技術としての修復腎移植の復活」を妨害する目的で事実を歪曲した攻撃を行ったことを、不法行為として責任を問うているものであるから、被告らのこれらの主張は、本来、本件の争点とはなりえない。

従って、被告らのこれらの主張には、それ自体全く理由がない。

第6 患者の自己決定権の無視

1 患者の自己決定権

患者にどのような医療が行われるかは、ほんらい、患者自身が決定権を有している。医師は患者の自己決定に対して情報を提供し助言を行うことはできるが、それを超えて患者の意思に反して医療の選択を決定することはできないし、してはならない。医療行為の多くは(全てはと言ってもよい)それ自体リスクを有しており、リスクを持たない医療手段はそもそも存在しない。その選択は患者自身が行うべきであり、選択のリスクは患者自身が負担すべきである。医師は患者の選択を助けるために、選択すべき医療手段について正確な情報を提供し、正確な助言を行うべき義務がある。

腎不全患者における、あるいは(ドナーとなる)腎臓疾患患者における、修復腎移植の選択も、こうした患者の自己決定権の問題として考えられなければならない。修復腎移植が患者にとって(とりわけレシピエントにとって)選択の考慮に値する医療技術である以上、その選択を行うのは患者である。医師は患者に対して選択を助けるべく、修復腎移植についての正確な情報を提供し正確な助言を、行う義務がある。

2 被告らの行為は患者の自己決定権を侵害している

被告らは、修復腎移植が医療行為として(現時点では)禁止されるべきであると主張しているところ、

ア その主張を貫徹する目的で『修復腎移植という医療技術』に対する事実に反する悪宣伝を行い、

イ 国に対して専門家集団としての影響力を行使して厚労省ガイドラインを改定させて、修復腎移植が医療行為として行われることを禁止させた。

修復腎移植という医療技術そのものに対して反対することは、被告らの自由である。しかしながら、その反対の実現を遂げる目的で、専門家としての立場にありながら、修復腎移植に関して事実に反する悪宣伝を行うこと、及びこの宣伝によって国を動かして修復腎移植という医療技術を禁止させることは、被告らの自由に属する事柄ではない。

そうした行為は、腎移植を受けることを望む腎不全患者らに対して、医療行為を選択する自己決定権を侵害する行為である。また、自己の事情から腎臓の全摘出を望む腎臓疾患患者に対して、摘出した腎臓を移植用に提供する機会を奪う者であるから、ドナーの自己決定権を侵害する行為でもある。

3 修復腎移植のリスクとその選択

  修復腎移植を受けることに、一定のリスクがあることに疑いはない。しかし同種のリスクは一般の腎移植(とりわけ死体腎移植)にも存するし、そもそも「移植を受けずに透析を継続する」ことにしてもリスクを伴う選択である。

  最も重要なことは、患者が修復腎移植という医療技術について正確な情報を受け、正確な助言を受け、その情報と助言に基づいて自分自身の判断として修復腎移植を「選択できる」ということなのである。「人工透析を続けて緩慢な死に甘んじるよりは、一定の危険を冒しても修復腎移植を受ける」という選択は、ほんらい患者自身の人権である。「全摘も部切もありえるのなら、全摘して臓器を腎不全患者の役に立てる」という選択も、患者自身の権利である。事実に反する悪宣伝や、それを道具として用いて医療手段そのものを禁止することは、患者から人権たる選択権を奪うことにほかならない。

4 被告らの主張の不条理

  被告らの主張が不条理であることは、吉田克法証人の供述で、はからずも明らかになった。

吉田証人は、「修復腎移植は未来永劫禁止されるべきものとは考えていない」旨述べる一方で、「レシピエントにガンが移る可能性が0.1%でも残っていれば、修復腎移植は容認できない」旨述べたのである。吉田証人の供述は、以下のとおりであった(吉田証人調書194197項)。

    194 先ほど、癌が移るおそれに関しては、1パーセントでも許容できないというお話でしたが、1パーセントというのは随分高すぎる数字だろうと思うが、例えば0.1パーセントでもいけないのですか。

        移植に関しては、そのパーセントが非常に低くであろうが、それは駄目だと思います。

195 パーセンテージとして、あるいは可能性として残っていないと言えるためには、あなたのお考えでは、どんな論証が必要なのですか。

    腎癌だけに関して言いますと、先ほど申しましたように、20年後にも出てくる可能性があります。

196 つまりレシピエント側に、20年でもまだ短いようだが、数十年間のレシピエント側を観察して、1例も出ないという決河が出なければ、担癌患者からの移植は認められないのだと、そういうお考えですか。

    10年でも、私は短いと思います。

197 10年でも短い、だから数十年と申し上げましたが、そういうことなんですね。

    そうです。

  しかしながら、上記の2つの立場は、事実上矛盾している。なぜなら、

ア 「1%の危険」を否定するには100件以上の施術例蓄積が必要であり、

イ 修復腎移植の実施件数は、臨床研究においては年に数例を出ることはないので、楽観的に年10例と考えても、100件の事例蓄積には10年の時間がかかり、

ウ その全件について10年の予後観察を行うにはさらに10年の時間が必要(10年後に移植を受けるレシピエントを10年間観察しなければならない)である。

しかるに被告らの考えでは、①「危険の有無・程度を判断する」ための予後観察は「10年でも短い」、かつ②「1%でも危険があれば許容できない」ので、20年間にわたり臨床研究と予後観察を行っても、修復腎移植はなお許容されるに至らない。

ということは、被告らの考え方に従う限り、被告らや証人の目の黒い間には修復腎移植は復活できない、ということなのである。

吉田は(被告らも)科学者であるから、上記のことは当然理解している。理解しながらあえて上記のような証言を行う点に、彼らの偽善性がよく現れている。被告らは、医療技術としての善悪を超えて、修復腎移植の復活を許す考えが全くないのであり(その動機が嫉妬か面子かは原告らの知ったことではないが)、その目的を遂げるために「無理難題」を持ち出しているのである。

このような不条理な態度は科学者のとるべきものではないし、まして患者の利益を尊重すべき医師として許されないことである。

第7 被告らの批判の総括的評価

  以上に述べたとおり、被告らの修復腎移植に対する批判は、

 ⅰ 医学技術上の主張(第1~第3)は、

   新たな医学的知見を無視してすでに崩壊した古い学説に固執する(第1)、

現実に行われている(被告ら自身も行っている)医療を無視し、実証されておらずかつ移植学会の従前の主張や現実の行動とも矛盾する(第2)、

   世界的な医学常識に反し、かつ被告ら自身が行っている医療と論理的に矛盾する(第3)、

  等の極度に偏頗な主張であり、

 ⅱ 修復腎移植の成績に関する主張(第4)は、実際の成績を、解析姿勢、解析技術、表現のいずれの面でも極度に歪曲したものであり、

 ⅲ 修復腎移植の手続面に関する主張(第5)は、過去に行われた移植の実施面にしか関係しない批判を、修復腎移植という技術そのものに対する批判に置き換えようとするものである。

従って、これらの批判は、①どの批判をとっても科学的根拠がないだけでなく、②これらの批判のあり方そのものから、被告らの批判が科学(医学)論の体裁をとってはいるけれども、現実には科学性に欠けることが判明する性格のものであり、③そのことのために、被告らが修復腎移植に反対する理由が実際には科学(医学)とは異なる理由に基づいていることを示すものである。



# by shufukujin-report | 2014-07-10 06:10 | 26.7.1最終弁論詳細(2)

26.7.1修復腎訴訟最終弁論(3)

(続き)


Ⅲ 被告らの行為の違法性

被告らは,いずれも移植医療の専門家であるばかりか,被告大島は日本移植学会の副理事長,被告高原は副理事長,被告田中は理事長,被告寺岡は理事長,被告相川は理事の役職にあったものである。そのような専門家であり日本移植学会の役職にあった被告らが,「修復腎移植という医療技術」について,事実に反する悪宣伝を行ったばかりか,国に対して専門家集団としての影響力を行使して厚労省ガイドラインを改定させて,修復腎移植が医療行為として行われることを禁止させ,慢性腎不全患者らが修復腎移植を選択する,患者の治療を受ける権利を侵害したのであるから,被告らの行為が違法であることは明白である。被告らの内,唯一本人尋問に応じた被告大島の尋問によって,被告大島らが,上記悪宣伝等を行うにあたり,当然必要な事例調査,論文検索等を一切行っていない事実も白日の下に晒された(大島本人調書46107)

被告らのいう「患者の安全を考えた適正な意見表明」(答弁書10頁)等でないことは多言を要しない。



Ⅳ 修復腎移植の現状と権利侵害

第1 「厚労省ガイドラインの改正」による制約

1 「厚労省ガイドライン改正」による修復腎移植禁止の構造

原告ら準備書面24において詳論したとおり、「厚労省ガイドライン改正」(正確には、平成19年7月12日付ガイドライン改正と、それに伴う同日付厚生労働省健康局長通知、平成20年3月5日付厚生労働大臣告示「診療報酬の算定方法を定める件」・同「特掲診療料の施設基準等」、同日付厚生労働省保険局医療課長通達「診療報酬の算定方法の制定等に伴う実施上の留意事項について」・同「特掲診療料の施設基準等及びその届出に関する手続きの取扱いについて」の総体)により、

ア 臓器移植法の「解釈」として、修復腎移植を一般の医療行為として行うことが禁止され、

イ 修復腎移植手術については健康保険等の療養の給付をしないものとされ、

ウ 修復腎移植を行っている医療機関については、通常の生体腎移植についても健康保険等の療養の給付をしないものとされた。

この一連の措置により、日本全国の医師・医療機関は、修復腎移植を医療行為として行うこと、及びこれについて健康保険の診療報の請求をすることを禁じられた。このためガイドライン「改正」以後わが国においては、腎不全患者が修復腎移植を受けること、及びこれについて健康保険の療養の給付を受けることが不可能となっている。

2 修復腎移植を受ける機会の剥奪

腎不全患者は、ガイドライン「改正」とそれに伴う上記の一連の措置により、現実の法的効果として、修復腎移植を受ける機会を奪われている。

ⅰ 臨床研究を実施できる医療機関は極度に限定されるうえ、実施できる場合にも件数が著しく制限される。従って、「臨床研究」として施行されうる修復腎移植の年間件数は微々たるものであり、臨床研究がおこなわれているだけでは腎不全患者にとって「治療を受ける機会が与えられている」とは言えない。

ⅱ 「ガイドライン改正」により、修復腎移植は健康保険の適用を受けられなくなっている。健康保険の適用がない腎移植医療はきわめて高価なので、腎不全患者にとって実質的に「治療を受ける機会が与えられている」とは言えない。

ⅲ 臨床研究によらないで修復腎移植を行おうとする医療機関は、通常の生体腎移植についても健康保険の適用を受けられなくなる。医療機関が通常の生体腎移植を行わず修復腎移植のみを行うことは現実的にありえないので、この運用下では現実問題としてどのような医療機関も、臨床研究によらずに修復腎移植を行わない。この点からも患者にとっては、臨床研究によらないで修復腎移植を受けることが不可能となっている。

従って腎不全患者は「ガイドライン改正」により、修復腎移植を受けることを実質的にも法的にも制限されている状態にある。

第2 臨床研究と実施状況

1 臨床研究実施に至るまでの経緯

平成21年1月厚生労働省が臨床研究の対象疾患を限定しない旨の通達を出したことにより,修復腎移植に利用できる摘出腎が大幅に増える見込みとなった。これを受けて,徳洲会グループが臨床研究の実施に名乗りをあげ,修復腎移植の手順等を定めた臨床研究計画書の作成,外部の専門家を交えた共同倫理委員会の承認,レシピエント選定の判定委員会の設置等を経て,ようやく臨床研究が実施される運びとなった。

 臨床研究の実施状況

徳洲会の臨床研究計画では,移植病院は東京西徳洲会病院と宇和島徳洲会病院,ドナー提供病院は複数の徳洲会病院とそれ以外の2病院の協力を予定し,第三者間の修復腎移植については対象疾患を小径腎癌に限定すること,親族間の移植については小径腎癌に限定せず,尿管狭窄や尿管結石,良性腫瘍等の幅広い疾患を対象とすること,また,第三者間・親族間の移植につき5年以内に各5例(計10例)を実施することとされ,平成211230日以降,現在に至るまで,計14例の臨床研究が行われた。後掲②の親族間移植の事例を除き,術後の経過はいずれも良好である。

 平成211230日 

      第三者間移植の1例目。50代男性の小径腎腫瘍を取り除き,IgA腎症で人工透析中の40代男性に移植。

 平成22年3月3日 

      親族間移植の1例目。50代の夫婦。妻の小径腎腫瘍は直径2センチ未満であったが,重要な血管や尿管が集中する腎門部付近にあり,部分切除では出血や尿漏れを引き起こすおそれがあったことから全摘を実施。夫は,慢性糸球体腎炎による腎不全で人工透析中であった。移植は成功し,腎機能も安定し回復に向かっていたが,夫には既往の不整脈があり,同年5月16日,急性心停止により死亡した。遺族の希望により病理解剖がなされなかったため,移植と死亡の因果関係は正確には不明であるが,これを受けて,親族間の臨床研究は一時中断することとなった(第三者間の移植は計画どおりに実施)。

 同年4月6日

      第三者間移植の2例目。50代男性の小径腎腫瘍を取り除き,慢性糸球体腎炎による腎不全で人工透析中の50代女性に移植。

 同年4月27

      第三者間移植の3例目。70代男性の小径腎腫瘍を取り除き,多発性嚢胞腎による腎不全の60代女性に移植。

 同年7月24

      第三者間移植の4例目。60代男性の小径腎腫瘍を取り除き,糖尿性腎症による腎不全で人工透析中の60代女性に移植。

 同年8月24

      第三者間移植の5例目。60代男性の小径腎腫瘍を取り除き,慢性糸球体腎炎による腎不全を患う50代女性に移植。

 平成23年1月12

      第三者間移植の6例目。70代男性の小径腎腫瘍を取り除き、急速進行性糸球体腎炎による腎不全の40代男性に移植。

 同年1月30

第三者間移植の7例目。70代女性の小径腎腫瘍を取り除き,慢性糸球体腎炎による腎不全で人工透析中の50代女性に移植。

 同年6月1日

      第三者間移植の8例目。60代女性の小径腎腫瘍を取り除き、多発性嚢胞腎による腎不全の60代女性に移植。

 同年9月14

第三者間移植の9例目。70代男性の小径腎腫瘍を取り除き,慢性糸球体腎炎による腎不全の50代女性に移植。

 平成24年2月13

      第三者間移植の10例目。50代女性の小径腎癌を取り除き,慢性糸球体腎炎による腎不全で人工透析中の50代女性に移植。

 同年8月8日

      親族間移植の2例目。70代母親の小径腎腫瘍を取り除き、多発性嚢胞腎の40代娘に移植。

 同年8月10

      第三者間移植の11例目。50代男性の小径腎腫瘍を取り除き、糖尿性腎症による腎不全の60代女性に移植。

 平成25年3月29

      第三者間移植の12例目。70代男性の小径腎癌を取り除き,糖尿性腎症による腎不全の50代男性に移植。 

第3 高度先進医療申請と現状

 第三者間移植の5例目が終了した後の平成231031日,医療法人沖縄徳洲会は,厚生労働省に対して,修復腎移植を先進医療として承認するよう申請した(甲B33)。当初の計画では,1年間の経過観察を終えて申請する予定だったが,修復腎移植を希望する患者が手術を受けやすくなる環境を早期に整えるため,申請時期を前倒ししたものであった。この申請では,第三者間の5例目までの症例が報告された(なお,申請書類の一部に不備があるとして平成24年4月16日に徳洲会に一旦返送され,同年6月20日に改めて申請を行った。)。

 先進医療の適用申請は,厚生労働省の先進医療専門家会議において審議されるが,この会議に先立ち,日本移植学会など5学会は,同年2月16日,厚生労働大臣宛に,修復腎移植は現時点では先進医療として不適切とする旨の「小径腎癌患者をドナーとする病腎移植の先進医療適応に関する要望書」を提出した(甲B34)。これに対し,徳洲会は,同年6月20日,上記5学会の要望書に記載されている内容はいずれも事実とは異なる旨の「五学会要望書に対する意見書」を提出し(甲B37),反論を展開したが,さらに上記5学会は,同年8月8日,厚生労働大臣宛に「『五学会要望書に対する意見書』に対する声明文」を提出し,徳洲会の上記意見書には先進医療審査に誤解を与える重大な問題点があると発表した。そして,同日,被告高原は記者会見を開き,その席上で「我々五学会の声明に反し,厚生労働省が先進医療を認めた場合,将来,不利益を被ったドナー及びその家族が訴えた場合を想定しておくべき。薬害肝炎集団訴訟の二の舞になることは避けるべき。この種の医療を先進医療として日本国が認めるのであれば,それは世界で初めてであり,世界に日本が生体腎移植の原則を無視して行っていることを提示し,取り返しがつかない失態を演じることになる」と述べた。

 同年8月23日,厚生労働省の先進医療専門家会議が行われたが,この会議は,上記5学会の意見が色濃く反映されたものとなり,「部分切除ではなく腎臓のすべてを摘出すればより大きな不利益をもたらすおそれがある」,「移植のための摘出方法では,癌を広げる危険性が高まる」,「どう説明して提供の同意を得たのか分からない」,「がんを発症する危険性などを評価するには長期的な追跡調査が必要」,「同じ病院グループ内の患者を優先しているなど選定の公平性に疑問がある」などの異論が相次ぎ,その結果,先進医療としての修復腎移植の申請は認められなかった。

その後,徳洲会グループは,さらに詳細なデータを整え,再申請に向けての準備を進めているようであるが,現在のところ再申請は行われていない。

第4 臨床研究・高度先進医療のみでは不十分であること

修復腎移植は,本件ガイドラインの改正によって一般医療として禁じられているため,臨床研究という枠組みの中で行わざるを得ないが,臨床研究を実施している医療機関は徳洲会グループのみであり,しかも,実施例はここ5年でわずか14件と極端に数が少ない。加えて,臨床研究による手術は,保険適用外であるため,手術費用やこれに伴う入院費用として,1件につき概算400600万円かかる。これまでは徳洲会が臨床研究の予算を組み,それらの費用をすべて負担してきたが,本来的には患者自身が負担するはずのものであり,それを自腹で支払うことのできる患者はごく一握りである。

また,上述のとおり,現時点で修復腎移植に先進医療の適用はなく,今後,徳洲会グループによる再申請が見込まれてはいるものの,上記5学会の態度は依然として変わっておらず,厚生労働省の専門家会議で再申請が承認されるかどうかは全くもって不透明である。今後も臨床研究が実施され続けるかどうかは徳洲会の一存にかかっており,先進医療承認の目途が立たないままいつ途切れるとも分からない臨床研究の状況に,腎不全患者は極めて不安定な立場に置かれている。仮に,修復腎移植が先進医療として承認されれば,手術費を除く入院費や投薬料等が保険適用となり,自己負担額が大きく軽減されるため,多くの患者が修復腎移植を受けられる可能性も出てくるが,保険適用外である手術費だけでも80万円は下らず,先進医療として承認されたとしても,すべての移植希望者に門戸が開かれているというわけではない。

第5 「現状」の結果,原告らの権利が侵害されていること

患者が治療を受けるか受けないか,受けるとしてどのようなどのような治療を受けるかは,自己決定権の一態様として,憲法上重要な権利として保障されており,人が生命・健康を維持・追及する上で必要不可欠なものであるから,形式的・観念的に治療が受けられるというだけでは足りず,実質的・現実的に治療を受ける機会が確保されなければならない。

 修復腎移植について言えば,現在,腎不全患者は,本件ガイドラインの改正により臨床研究という枠内でしか手術を受けられないが,かつては通常の生体腎移植として保険適用が認められてきた修復腎移植が,臨床研究によらなければ受けられなくなったこと自体が患者の治療を受ける機会を侵害していることは言うまでもない。また,上述のように,臨床研究の実施機関が徳洲会グループのみで,実施例もここ5年で14件に過ぎないという状況では,臨床研究によって修復腎移植を受けられることは奇跡的であり,腎不全患者が形式的に修復腎移植を受けることを観念できたとしても,実質的・現実的にみて修復腎移植を受けられる機会が確保されているということは到底できない。さらに,本件ガイドラインの改正により,修復腎移植は健康保険の適用を受けられなくなっており,臨床研究で修復腎移植を受けるとしても1件につき400600万円ほどかかるが,経済的にこれを負担できる患者はわずかであり,このような観点からしても,実質的・現実的に患者の治療を受ける機会が確保されているということはできない。将来において徳洲会グループの先進医療の再申請によってこれが承認される可能性もない訳ではないが,もし先進医療として認められたとしても80万円を要する手術費は保険適用外であるため,修復腎移植を受けることのできる患者が今よりも増えることは期待できるものの,すべての患者に等しく修復腎移植を受ける機会が与えられているというには程遠い。

このように,腎不全患者らを取り巻く現状は厳しく,実質的・現実的にみて修復腎移植を受ける権利が保障されているとは到底いえない状況にある。そして,こうしている間にも,修復腎移植を待つ患者の命が次々と失われている。



Ⅴ 因果関係

第1 単純な因果関係

上述したように,被告らは,専門家としての立場にありながら,故意又は過失によって事実に反する悪宣伝を行い,これにより国を動かして修復腎移植という医療技術を禁止させているのであるから、かかる行為が修復腎移植を望んでいる腎不全患者らの医療行為を選択する自己決定権を侵害していることは言うまでもない。

また,被告らは,臓器売買事件を契機として修復腎移植問題が社会的に取り上げられた当初から,修復腎移植が医学的に認められないとの意見を表明し,虚偽の事実を伝えることでマスコミの否定的論調を先導してきた。これにより,修復腎移植に対する批判的な世論・風潮が形成された結果,多くの腎不全患者らが修復腎移植の医学的妥当性についての正確な知識・情報を得ることが遮断されたのであるが,かかる知識・情報を得ることは,自己決定権を行使する上での大前提ともいうべき権利であり,被告らの行為がその権利を直接侵害していることは明白である。

さらに,被告らは,国により一般医療としての修復腎移植を禁ずるガイドラインが定められてからも,修復腎移植が再び保険適用を受けることがないよう虚偽の事実を流布し続け(そのことは先進医療の適用申請の際に,それが不適切である旨の要望書や声明文を国に提出していることからも明らかであろう。),修復腎移植の復権を待ち望んでいる患者らを代表する原告らに本訴提起を余儀なくさせたのであるから,被告らの行為と原告らの被った手続的負担との間には直接的な因果関係が認められる。

第2 修復腎移植の事実上の禁止に至らせたことによる因果関係

 上記第1のような直接的な因果関係のほか,被告らを筆頭とする日本移植 学会が厚生労働省に働きかけて修復腎移植を禁ずるようガイドラインを改正させ,もって腎不全患者らの修復腎移植を受ける権利を侵害したことも,以下の事実から明らかである。

1 厚労省と学会の協力体制

修復腎移植問題の発覚により,日本移植学会と厚生労働省は,ともに日本の移植医療への不信を招くのではないかという危機感を頂いていた。当時は移植医療の推進を目的とした臓器移植法改正案が国会で成立するかどうかという微妙な時期であり,両者は,移植医療に対するマイナスイメージを一掃したいという思いを共通にしていた(被告大島本人調書121122項)。

ⅰ 両者の協議

ア 被告大島と外口健康局長の協議

修復腎移植問題が発覚した直後の平成1811月初め,日本移植学会の副理事長の地位にあった被告大島は,厚生労働省健康局長の外口崇に対し,「このような医療は絶対に容認できない。学会が責任を持って事実関係の解明に当たりたい」と述べ,外口からも「厚労省としても重大な関心を持っています。最大限,学会を支えます。」という趣旨の返答を受けた(甲B22,被告大島本人調書118119項)。以後,日本移植学会と厚労省は,二人三脚で「ガイドライン改正」に向けての歩を進めるのである。

 イ 第24回臓器移植委員会

平成181127日,第24回厚生科学審議会疾病対策部会臓器移植委員会が開催された。同会に委員として出席した被告大島が日本移植学会倫理指針等について説明を行ったことを受け,厚生労働省の原口真臓器移植対策室長は,学会の倫理指針のほかにもガイドラインを作って対応していきたい旨の発言をした。そして,ガイドライン改正に向けて対策を講じるべき事項として掲記した論点整理表(その論点ごとに日本移植学会倫理指針等が対照されている)を委員に配布し,その論点整理を踏まえてガイドラインの改訂に持って行きたいという考えを明らかにした(甲B405P5,1922))。

続いて,矢野補佐より,移植が行われた宇和島徳洲会病院,市立宇和島病院,呉共済病院では第三者の専門家を含む調査委員会が設置されることになっていること,厚生労働省と関係学会が参画する調査班を設置して調査を進めることになっていることが報告された。そして,これを受けた被告大島は,日本移植学会が各病院の調査委員会及び国と共同の調査委員会に全面的に協力し,調査がある程度進んだ時点で正式なコメントをする決定をしている旨を報告した(甲B40‐5(P2425))。

ⅱ 厚労省調査における協力関係

ア 厚労省調査における学会の役割

厚生労働省は,修復腎移植の是非をめぐる調査の中で,表面上は摘出のみに関わった5病院の調査班の事務局を務めたに過ぎないが,同省臓器移植対策室の担当者を関連病院すべての調査委員会にオブザーバーとして参加させ,日本移植学会による調査全体の事務局を担当した(甲B22)。

イ 第25回臓器移植委員会

   平成19年4月23日,第25回厚生科学審議会疾病対策部会臓器移植委員会が開催された。冒頭,丹藤主査から調査委員会や調査班の調査状況についての報告があり(甲B41-7),次いで,同年3月31日に発表された日本移植学会等4学会による「病腎移植に関する学会声明」や,その前日に日本移植学会が公表した「市立宇和島病院で実施された病腎移植における生存率・生着率について」の報告があった(甲B414P2~8),甲B41-8、甲B41-12 )。その上で,原口室長は,上記「病腎移植に関する学会声明」及び「臓器の移植に関する法律の運用に関する指針に規定する事項(案)等について」について,詳細な説明を行った(甲B41-4 P11~20),甲B41-9)。かかる過程を経て、本件「ガイドライン改正」が実行されることとなった。

2 「ガイドライン改正」に至る行政手続

ⅰ パブリックコメントの実施

「臓器の移植に関する法律の運用に関する指針」の一部改正に関して,平成19年5月11日から6月11日まで,パブリックコメント手続が実施された。

厚生労働省健康局臓器移植対策室は,寄せられた意見に対し,日本移植学会の「生体腎移植の提供に関する補遺」等に基づいて回答しているだけでなく,「4学会声明のみに基づいて病腎移植の禁止を規定すべきではないのではないか」といった意見に対して回答を行ったが、その内容は,上記学会声明を全面的にコピーしたものである(甲B42P58))。

ⅱ 「ガイドライン改正」の実施

平成19年7月12日,「ガイドライン改正」が実施された。またこれを追って、平成20年3月5日、厚生労働大臣の告示とそれに伴う同省課長の通達が実施された(詳細は原告ら準備書面(24)記載のとおり)。

改正内容は,上記「臓器の移植に関する法律の運用に関する指針に規定する事項(案)について」(甲B41-9 )とほぼ同じである。また,「病腎移植は,現時点では医学的に妥当性がない」とされているが,その表現は,日本移植学会ら4学会の声明と共通している。

しかも、「ガイドライン改正」の実質的に重要な一部をなす課長通達等においては、厚生労働省が4学会と共同して「ガイドライン改正」を実施する姿勢がきわめて顕著である。①保険局医療課長平成20年3月5日通達「診療報酬の算定方法の制定等に伴う実施上の留意事項について」は、「生体腎を移植する場合においては、日本移植学会が作成した『生体腎移植ガイドライン』を遵守している場合に限り算定する」と定め、②同課長同日通達「特掲診療料の施設基準等及びその届出に関する手続きの取扱いについて」においては、「生体腎移植の実施に当たり、臓器の移植に関する法律の運用に関する指針(ガイドライン)、世界保健機関「ヒト臓器移植に関する指針」、国際移植学会倫理指針並びに日本移植学会倫理指針及び日本移植学会「生体腎移植ガイドライン」を原則として遵守していること。」臓器の移植に関する法律の運用に関する指針(ガイドライン)、世界保健機関「ヒト臓器移植に関する指針」、国際移植学会倫理指針並びに日本移植学会倫理指針及び日本移植学会「生体腎移植ガイドライン」を遵守する旨の文書(様式任意)を添付すること。」と定めている。

これらの通達は、診療報酬の算定という国と医療機関との権利義務関係の成否を左右するものであるところ、厚生労働省は、その権利関係の成否を法人格もない私団体であるところの日本移植学会のガイドラインに係らせているのである。わが国の法制度上、このような実例を、当代理人らは寡聞にして知らない。

さらに驚くべきことは、上記各課長通達が行われたのは平成20年3月5日であるのに、その各通達が内容的に依拠する日本移植学会の「生体腎移植ガイドライン」は平成20年5月18日理事会決定により制定された、ということである。すなわち、上記各課長通達は、いまだ存在しない、したがって正式には内容も判明しないはずの<学会ガイドライン>に適合することを、診療報酬の請求要件として定めたことになる。

「ガイドライン改正」が、表面上は純然たる行政の行為としての体裁をとってはいても、その実は厚生労働省と移植学会幹部ら(すなわち被告ら)とが共同して行ったのであることは、この一事のみをもっても明らかである。

3 評価

このように,日本移植学会は,「移植医療への不信感除去」という半ば利己的動機から,『修復腎移植は絶対に認められない』という結論から出発して、厚生労働省に対してこれを禁止させようとした。①まず被告大島が外口局長との「ボス交渉」によってその足場を築き、②宇和島徳洲会病院等に対する調査への協力や、臓器移植委員会での意見表明を通じて,外口をはじめとする厚生労働省の担当者に自分たちの見解を吹き込んで同調させ、③最終的に厚生労働省に、被告らの要求するままの内容の(しかも要所で<学会ガイドライン>を要件として取り入れた)「ガイドライン改正」を行わせた。厚生労働省は結局、<学会の言い分をそっくり呑み込んで>本件「ガイドライン改正」を実行し、一般医療としての修復腎移植を禁止したのである。

日本移植学会は,医学的知見を有する専門家集団であり,こと移植医療についての医学的知見に関する限り、厚生労働省に対する影響力は絶大である。その日本移植学会の頂点に立つ被告らの見解・発言等が,厚生労働省をして安易にその内容を盲信させて、修復腎移植を禁止せしめたのであるから,「ガイドライン改正」を通じて腎不全患者らの修復腎移植を受ける権利を侵害していることは明らかであり,被告らの行為と原告らの被った損害との間には十分に相当因果関係が認められる。

市立宇和島病院レシピエント表示対照表

(甲C31) (甲C34)(甲B8行数) (移植日) (臓器の疾病) (性別)

 2      ⑮     1    H5.4.5    右尿管ガン    男

 3      ⑯     2    H5.12.6    右尿管ガン    男

 4      ⑰     3    H6.10.3    右尿管ガン    男

 5      ⑱     4    H7.10.27   後腹膜炎症性腫瘤 女

 6      ⑲     5    H7.11.17   左腎膿瘍     男

 7      ㉑     9    H8.7.24    右腎ガン     男

 8      ⑩     7    H8.8.16    左尿管ガン    男

 9      ⑳     8    H8.4.1    骨盤腎      女

 10      ⑤     6    H8.11.20   左腎動脈瘤    男

 13      ㉕     10    H10.11.12  腎血管筋脂肪腫  女

 14      ㉒     12    H11.5.7   右尿管狭窄    男

 15      ㉓     11    H11.5.17   左腎細胞ガン   男

 16      ③     13    H11.10.27  左腎細胞ガン   男

 17      ㉔     14    H11.11.5   左腎細胞ガン   男

 18      ①     15    H12.4.3   腎血管腫     女

19      ⑥     16    H12.8.30   ネフローゼ

 20      ⑦     17    H12.8.30   ネフローゼ

 21      ⑧     18    H12.12.13   SLEネフローゼ

 22      ⑭     20    H12.12.13   SLEネフローゼ

 23      ⑨     19    H12.9.29   腎動脈瘤     女

 24      ②     21    H13.2.23   尿管狭窄     女

 25      ④     22    H13.3.26   左腎細胞ガン   男

 29      ⑫     24    H15.2.21   左尿管ガン    男

 30      ⑪     23    H15.2.26   ネフローゼ

 31      ⑬     25    H15.2.26   ネフローゼ


# by shufukujin-report | 2014-07-10 06:00 | 26.7.1最終弁論詳細(3)